【異世界編】サツマ超特急☆彡とクロネコの姫4
『ぷに』
振り返ったイリーナの頬に、海軍箒の女の人差し指が突き刺さった。
あり得ない。
その女は、イリーナの真上で背面飛行をしていた。
片手を伸ばし、イリーナの頬を突いている。
もう片方の手には、謎の黒い棒状の物体。
武器か。
イリーナは一瞬、そう判断しかけた。
だが、その黒い棒は武器よりも恐ろしいものだった。
異世界から持ち込まれた、自撮り棒。
敵の尊厳を破壊するための、極めて悪質な超兵器である。
「はい、チーズ」
パシャ。
パシャパシャ。
物理フラッシュが焚かれた。
イリーナは理解した。
撮られた。
それも、頬を突かれたまま、ツーショットで。
海軍箒の女は、超絶笑顔でカメラに向かっていた。
「北連の制服って、近くで見ると結構ディテール凝ってるのね。魔法少女のコスプレみたいで、かわいいね」
魔法少女。
コスプレ。
意味不明な単語が続いた。
だが、最後の「かわいいね」だけは、なぜか理解できた。
「いえーい!」
北連偵察機の機内では、機上偵察員が絶望的な表情でシャッターを切り続けていた。
レンズが捉えているのは、北連が誇るエース《紫の魔女》が、サツマの海軍女に頬を突かれながら、半泣きでツーショットを撮られているという、国家的尊厳崩壊の決定的瞬間だった。
『離れろ! 撃墜されたいのか! 飛びながら自撮りだと!? 狂っているのか、サツマの軍人は!』
イリーナは箒に大量のマナを流し込み、最大出力で急上昇した。
残る三名の魔法使いもそれに続く。
護衛対象である二機の大型偵察機も、慌てて機首を上げた。
だが、そのうち一機が無理な機動に耐えきれなかった。
二重反転プロペラの片側が悲鳴を上げ、続いてエンジン二基から火が噴いた。
サツマ側の通信回線に、北連から緊急通信が入ったのは、それから間もなくのことだった。
『こちら北方人民連邦護衛魔法使い小隊長、イリーナ・ヴォストーク! 緊急着陸の受け入れを要請する! それと、あの狂った女をどうにかしてくれ!』
声は、ほとんど泣いていた。
サツマ側は緊急着陸を了承した。
しかし、損傷した大型偵察機は最寄りの軍用空港までは持たないと判断された。
やむなく、機体は紀伊島の海岸への緊急着陸を選択する。
北連の《紫の魔女》と、サツマ側の空軍箒。
そして、原因そのものである海軍箒が、燃える大型偵察機をエスコートする形となった。
そして運の悪いことに。
その海岸ではちょうど、クロネコ族の結婚式が行われていたのである。




