【現代異世界編】ちいちゃんの32歳異世界魔法大学デビュー4
ここは帝都魔法大学の映写室。
対潜箒科をはじめとする、海軍系学科の合同授業が行われていた。
正面のスクリーンには、古い映画が映し出されている。
『今だ、取舵一杯!』
連合艦隊長官日高壮之丞は旗艦である戦艦「朝日」の艦橋から指揮を執っていた。
千尋は、この映画を日本で見たことがあった。
たしか、昔の昼間のテレビだったか。
現在は戦史の講義中である。
なぜか日本で制作された日本海海戦の映画を、サツマ帝国海軍が教育用に再編集したものらしい。
スクリーンの中では、連合艦隊作戦参謀・秋山真之中佐の考案した丁字戦法が実行に移されようとしていた。
『目標、先頭敵戦艦! 撃ち方始め!』
三十・五センチ連装砲。
十五・二センチ単装砲。
日本艦隊の砲門が一斉に火を噴いた。
この世界の日本海軍は、私たちの知る史実よりも強大だった。
島津の若が創業した島津重工業の成長によって、日本の製鉄、造船、艦載機関の技術は史実以上の発展を遂げていた。
日本海海戦に参加した日本側の戦力は、戦艦八隻、装甲巡洋艦八隻、巡洋艦二十隻。
史実を大きく上回る戦力である。
その一方、東郷平八郎は連合艦隊にいなかった。
この世界の東郷は、鹿児島の海軍学校長として人材育成と訓練体系の構築に力を注いでいた。
また、錦江湾の守護者として、サツマ帝国へ通じる海の門を守る任務にも就いていた。
艦の数より訓練を重視する東郷が前線にいなかったこと。
島津重工業の生産力によって、十分な数の戦艦をそろえられたこと。
その二つが、日本海軍に慢心を生んだ。
これだけの艦があれば、絶対に勝てる。
そんな空気が、開戦前から連合艦隊全体へ蔓延していた。
艦隊運動の訓練も、射撃目標を統一する訓練も、史実の日本海軍ほど徹底されていなかった。
*
『三笠、被弾! 火災発生、速力低下!』
『敵艦、三笠へ射撃集中!』
『なぜ目標がばらばらなのだ! 訓練どおり、先頭艦へ射撃を集中させろ!』
戦艦「朝日」の艦橋に怒号が響く。
日本艦隊から放たれる砲弾は、それぞれ別の敵艦へ向かっていた。
対するバルチック艦隊の砲撃は、速力を失った「三笠」へ集中する。
砲弾が次々と「三笠」の船体へ突き刺さった。
次の瞬間。
スクリーンが真っ白になった。
轟音。
海を走る衝撃波。
「三笠」の弾薬庫へ火が回ったのだ。
砲弾と装薬が誘爆し、船体内部の蒸気管やボイラーも次々と破裂する。
黒煙と白い蒸気が海面を覆った。
『三笠、弾薬庫誘爆!』
『三笠、轟沈!』
『第四駆逐隊を救助へ回せ! 本隊は戦列を崩すな!』
戦闘の結果、日本側は勝利した。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。
沈没。
戦艦一隻。
装甲巡洋艦二隻。
巡洋艦一隻。
大破。
戦艦二隻。
装甲巡洋艦一隻。
巡洋艦一隻。
バルチック艦隊も、その大半を撃沈、拿捕、あるいは中立国での抑留によって失った。
だが、戦艦を含む一部の艦艇は、日本艦隊の追撃を振り切り、ウラジオストクへ到達した。
日本は戦略的な勝利を得た。
しかし、完全勝利ではなかった。
勝利を知らせる号外が配られたのと同じ日、戦没者名簿が全国の掲示板を埋めた。
祝賀の提灯が灯されても、その下では多くの遺族が泣いていた。
日本海軍は戦略目的を達成したものの、主力艦隊は事実上、継戦能力を失った。
損傷艦の修復と失われた艦艇の再建には、長い年月を必要とした。
後世、この海戦は「日本海の大勝利」とは呼ばれなかった。
国家の命運を賭け、辛うじて生き残った戦い。
――「対馬沖の辛勝」。
西郷吉之助の消失は、東郷平八郎の人生を変えた。
そして東郷の不在は、間接的に日本海海戦の結果までも変えていた。
*
サツマ帝国では、大型の水上戦闘艦はほとんど存在しない。
飛行能力を持つ箒が、かつて地球の戦艦や巡洋艦が担っていた役割の大半を代替しているからだ。
映写室に集められた学生たちは、異世界の巨大戦艦と艦隊戦へ興味津々だった。
上映が終わると、地球出身者である千尋へ質問が集中した。
この状況に、千尋も少し鼻が高いようだった。
「じゃあ千尋さんは戦艦に乗ったことが?」
「……ないけど」
「砲撃は?」
「ない。」
「艦橋勤務?」
「ない。」
「じゃあ何してたの?」
「潜水艦狩り。」
「どうやって?」
「これで」
千尋は懐からP-1の模型を取り出す、本当にどこにしまっていたのだろうか。
旅客機とは明らかに違う、異形の航空機である。
「これね P-1、向こうは魔法がない世界だから、これに10人で乗ってね」
「じゅ、10人!? 何をする人がそんなに?」
「操縦が2人、戦術航空士、ソナーを聴く人が3人……」
「聴く専門が3人!?」
「魔法なしでどうやって飛ぶんですか?」
「エンジンよ。灯油を燃やして、前へ進むの」
千尋は模型の”お尻”を指し示しながら説明をしだした。
「この細い二つのやつが、MADセンサーと言ってね…」
「ごほん」
教師が、咳払いをする。
「では特別講師、吉野千尋さん、教壇へ 10分喋っていいわよ」
千尋の目の輝きはMaxだ、P-1の模型と共に、壇上にあがる千尋だった。
ありがとうごございます、EP100投稿できました。




