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久光の悩みと斉彬の亡霊吉野島津家。

※鹿児島弁は不思議な魔法の力により、皆様の目に入る前に翻訳されています。


島津久光は悩んでいた。

日向送り(実質的な処刑)を命じた西郷と月照が錦江湾へ入水し、月照は引き上げられ助かったものの、西郷は行方不明となった。

藩内随一の泳ぎの達者と聞く西郷が、ただ溺れ死ぬはずがない。つまりは「意図的な行方不明」である。生き延びて京へ現れ、また余計な事をするのではないか。

幕府のお尋ね者であると同時に、西郷を「最も危険な男」と評価している久光からすれば、最大のリスクを抱えることになったのである。


入水事件から4日後。鶴丸城、夜。

側近たちが「月照を再度、日向送りにせよ」と強硬に進言する中、大久保一蔵(利通)が静かに口を開いた。


「――あの坊主を、生かせと?」


大久保は畳に額をすりつけるように平伏したまま、静かに、だがはっきりと言う。


「西郷吉之助は、死体が上がっておりませぬ。

……もし生きているならば、奴は必ず京へ向かいます。その時、月照が死んでいればどうなるか。西郷は薩摩を深く恨み、朝廷・公家・尊攘派をすべて巻き込んで、この薩摩に何を仕掛けるか分かりませぬ。

ならば、月照は『死んだ』ことにして、薩摩の目の届く手元に置くべきです」


久光は顔をしかめ、苛立たしげに貧乏ゆすりを強くした。

「死なせてしまえばよかろう。どちらも厄介の種ではないか。京へ捜索の追手を出す」


「京から坊主を抱え、幕府の追手が迫る中を薩摩へ戻り切った男です。

厄介の種を、手の届かぬ遠くへ捨てる方が危のうございます。手元に置いて生かしておけば、まだ『交渉の札』になります」

大久保は一拍置き、さらに久光の恐怖を煽るように言葉を重ねる。

「吉之助が生きて京へ走った時、あの僧が死んでおれば、薩摩は吉之助という男を失うだけでは済みませぬ。近衛様、公家衆、尊攘の徒――すべてを敵に回します」


久光は半分納得したのか、忌々しそうに右上に目線を遣りながら、大久保へ問う。

「……どこへ隠すというのだ」


「吉野へ」


「兄上(斉彬)の亡霊か……」

久光が苦々しく吐き捨てる。

「しかし、政治に興味がないあの吉野島津が、わざわざ罪人を匿うか?」


「吉野の若君は、幼いころ西郷に世話を焼かれておりました。喜んで匿うかと。

……むしろ月照をここで斬れば、仙巌園の技術ごと、吉野に見限られ離反される恐れがございます」


貧乏ゆすりが、ピタリと止まった。

「……大久保、貴様に任せる」



吉野島津家(※本作独自の裏設定です)。

それは、名君・島津斉彬が遺した『仙巌園(集成館)の技術』と、『東シナ海の海運ネットワーク』を掌握する、裏の島津家分家である。

吉野台地の、錦江湾を広く見渡せる場所に屋敷を構え、仙巌園の優秀な技術者を密かに囲い込み、濵﨑太平次ら海運の豪商と深いコネクションを持つ。薩摩という国に「情報」と「技術」と「物流」の血を巡らせる、最大の心臓部。


こうして大久保は、西郷を「最大のリスク(劇薬)」として見立てた完璧な説得工作により、月照を生かすことに成功した。

同時に大久保自身も、この一件を機に久光の懐刀として、明治維新の中心人物への階段を上り始めていくのであった。

吉野島津家(※創作です)

西郷が居ない世界で遅滞なく明治維新を行わせるための舞台装置です、ご了承ください。

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