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「さて、と。そっちの皆さんも、自己紹介くらいはしてもらおうか。私の可愛い妹が、命を懸けて守りたいと思った仲間たちなんだろう?」
棗の鋭い視線が、レオンハルトたち六人を順番に射抜いていく。それは値踏みであると同時に、妹が心を許した相手への純粋な興味の表れでもあった。
最初に一歩前に出たのは、リーダー格のレオンハルトだった。
「俺はレオンハルト・アルヴァレイン。種族は人間だ。まふゆとは……まあ、なんだ。同じ釜の飯を食った、大事な仲間だ」
彼はそう言うと、少しだけ照れくさそうに頭を掻いた。隣国の王子であることなど、この世界では何の意味も持たない。ただ、一人の友人として、彼は堂々と胸を張った。
次に、セリウスが優雅に一礼する。
「僕はセリウス・アルヴァレイン。レオンハルトの弟で、ハーフエルフです。まふゆには、色々と助けられました。彼女は僕にとって……尊敬できる、大切な友人です」
その言葉に嘘偽りはなかった。かつて抱いた恋心は、今や温かい友情へと姿を変えている。
「シャノンよ。猫族の獣人。……まふゆの、うん。友達……ってことにしておいてあげるわ」
シャノンはそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言った。しかし、その猫耳が微かに動いているのを、棗は見逃さなかった。素直になれないだけで、心からまふゆを大切に思っていることが透けて見える。
「あ、あーしはリリア・ノクティスって言います!ダークエルフです!まふゆんは、あーしの一番の親友で、憧れなんです!」
リリアは緊張しながらも、満面の笑みでそう言った。その屈託のなさに、棗の表情が少しだけ和らぐ。
「……アリス。……まふゆは、アリスの、大切な人」
アリスはこてんと首を傾げ、ただそれだけを口にした。その純粋な瞳が、棗の心を静かに打つ。
そして、最後に残ったのは、いまだまふゆの腰を抱いたままのミカゲだった。彼は黒い装束の奥から、値踏みするように棗を見返す。
「……ミカゲだ。影人。こいつの……恋人だ」
その言葉は、短く、しかし何よりも強い響きを持っていた。
恋人、という言葉に、棗の眉がぴくりと動く。彼女はミカゲを頭の先から爪先までじろりと見つめ、そして、ふ、と息を吐いた。
「……そうか」
棗は、一人一人の顔と名前を心に刻むように頷いた。王子、ハーフエルフ、獣人、ダークエルフ、影人、そして正体不明の少女。あまりにも多様な面々。
病室のベッドの上で、窓の外を眺めることしかできなかった妹。誰かと深く関わることもなく、ただ静かに死を待っていた妹。
その妹が、こんなにもたくさんの、種族も立場も違う者たちと固い絆で結ばれている。
嬉しかった。
心の底から、妹の幸福を喜ばしく思った。病弱だったが故に閉ざされていた世界から飛び出して、自分の力で、これだけのものを手に入れたのだ。
「……なるほどな。よくわかった」
棗の表情から、先程までの鋭さが消え、穏やかな姉の顔に戻っていた。
「ありがとう。これからも、まふゆのことをよろしく頼む」
彼女は六人に向かって、深く頭を下げた。その意外な行動に、レオンハルトたちは少しだけ面食らう。
「この子は、私のたった一人の妹なんだ。……不束者だが、よろしく頼む」
その言葉には、妹への深い愛情が滲み出ていた。
まふゆは、そんな姉の姿を、少しだけ照れくさそうに、そして誇らしそうに見つめていた。
この世界に戻ってきたことは不本意だったかもしれない。
けれど、こうして姉と再会し、自分の仲間たちを紹介できたことは、まふゆにとって、予期せぬ幸福だった。




