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パーティー会場となっている大講堂は、生徒たちの熱気と楽しげな喧騒で満ち溢れていた。
壁には色とりどりのガーランドが飾られ、中央にそびえ立つ巨大なクリスマスツリーには、無数のオーナメントと魔法の光がまたたいている。
その輪の中心から少し外れた場所で、レオンハルトたちは浮かない顔で立ち尽くしていた。
「……ミカゲの奴、まふゆを部屋に連れて行ったきり戻ってこないな」
「でも、ミカゲならきっと……」
レオンハルトの呟きに、セリウスが不安と期待の入り混じった声で応える。
シャノンは腕を組んでそっぽを向き、リリアとアリスはただ心配そうに入り口の方を見つめていた。
その時だった。
大講堂の大きな扉が、勢いよく開かれる。
全員の視線が、そこに現れた一人の少女に釘付けになった。
息を切らし、肩で呼吸をしながらも、その菫色の瞳は真っ直ぐに彼らを捉えている。
雪のように白い髪、白を基調とした装束。それは、ここ数日見てきた『水鏡まふゆ』と何ら変わりない姿のはずだった。
しかし、彼女が纏う雰囲気は、明らかに違っていた。冷徹な女王でも、ただ慈愛に満ちた聖女でもない。
その両方を内包した、凛とした輝き。
「ま、まふゆ……?」
レオンハルトが、戸惑いながらも彼女の名前を呼んだ。
まふゆは、深く、深く頭を下げた。
「みんな……ごめんなさい」
その声は、震えていた。けれど、はっきりと講堂の隅々まで響き渡る。
「うち……みんなに、ひどいこといっぱい言うてしもた。傷つけて、しもた。……ほんまに、ごめんなさい」
顔を上げた彼女の瞳には、涙が溢れんばかりに溜まっていた。
それは、以前の彼女が時折見せた弱さの涙ではなく、自分の過ちを認め、心から謝罪する、強い意志の涙だった。
「……うちは、全部思い出しました。この学園に来てからのことも、それより前のことも。どっちも、うち自身やったんです。それやのに、うちは……弱い自分を認めるのが怖くて、みんなを突き放してしもた」
レオンハルトも、セリウスも、シャノンも、リリアも、言葉を失って彼女を見つめる。
一番最初に動いたのは、アリスだった。彼女はとてとてとまふゆに駆け寄ると、その装束の裾をぎゅっと握りしめた。
「……おかえり、まふゆ」
その小さな一言が、堰を切った。
リリアが「まふゆーん!」と泣きながら駆け寄り、シャノンも「ばかっ!心配させんじゃないわよ!」と悪態をつきながら、その目には涙が光っている。
レオンハルトは安堵の息をつき、セリウスは優しく微笑んだ。
仲間たちに囲まれ、涙でぐしゃぐしゃになりながらも、まふゆは最高の笑顔を見せる。
「うん……ただいま、みんな」
その時、講堂の入り口の柱に寄りかかっていた影が、静かに動いた。
ミカゲだった。彼は、まふゆがここへ来ることを信じて、ずっとここで待っていたのだ。
仲間たちの輪の中から、まふゆが彼を見つける。
目が合った瞬間、二人の間にだけ、特別な時間が流れた。
まふゆは仲間たちに小さく「ごめん」と断ると、まっすぐに彼の元へと歩み寄る。
そして、ミカゲの目の前で立ち止まると、少しだけ背伸びをして、その唇に、そっと自分の唇を重ねた。
「……ただいま、ミカゲ」
驚きに目を見開く彼に、まふゆは悪戯っぽく微笑む。それは、かつての彼女と、新しい彼女が合わさった、最高に魅力的な笑顔だった。
「うちのこと、信じてくれて、ありがとう」
ミカゲは何も言わず、ただ、その華奢な身体を強く、強く抱きしめた。
失われた光が、今、確かな温もりと輝きを持って、彼の腕の中へと還ってきたのだ。
講堂の喧騒も、きらめくイルミネーションも、すべてが二人を祝福するように、優しく世界を包み込んでいた。




