表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三十四話 少女は取り戻す
400/424

34-4




「……なんやの、ここ」


ぽつりと、まふゆが呟いた。

その声は、いつもの柔らかな訛りの響きを保ちながらも、どこか冷たく、乾いていた。


降りしきる雪を見上げる菫色の瞳は、先程までの恐怖や混乱が嘘のように凪いでいる。

まるで、目の前で繰り広げられている死闘など、存在しないかのように。


「まふゆ……?」


ミカゲが、警戒を解かずに背後を窺う。彼女の様子の変化に、いち早く気づいたのだ。


エドウィンは、額に手を当てたまま動かなくなったまふゆを見て、満足げに笑みを深めた。


「ふふ、どうだい?思い出しただろう、君の本当の姿を。ああ、そんな虚ろな表情も美しい……」




しかし、次の瞬間、エドウィンの笑みは凍り付いた。


まふゆが、ゆっくりと顔を上げたのだ。その唇には、ゆるやかな弧が描かれている。

それは、慈愛に満ちたアルビノエルフの微笑みとは似ても似つかない、全てを見下すかのような、冷徹な笑みだった。


「あんた……うちの頭ん中、勝手に覗いたんやねえ」


ぞっとするほど静かな声。


まふゆは掴まれていた腕を、まるで虫でも払うかのように、いとも簡単に振りほどいた。

信じられない、という顔で固まるエドウィンを、彼女は心底つまらなそうに見やる。


「ああ、くだらん。ほんま、くだらん男やわぁ……」


その口調、その立ち居振る舞いは、もはや今までのおっとりとした少女のものではなかった。

それは、数多の人間をその足元にひれ伏させてきた、絶対的な強者のそれ。




──あちらの世界での、『水鏡まふゆ』の人格が、その魂の表層に浮かび上がっていた。




「な……君は、一体……」


エドウィンの動揺を意にも介さず、まふゆは自分の手のひらを見つめ、そしてぎゅっと握りしめた。


「ああ、成程。うちは死んだんやね。……それで、こないな華奢なエルフの身体に生まれ変わった、と」


くつくつと、喉の奥で笑い声が漏れる。


「……ふふ。道理で、周りが甘っちょろい訳ですわ」


そして、彼女は視線をミカゲへと向けた。その瞳には、親愛も信頼も、何もない。

ただ、品定めをするような、冷たい光が宿っていた。


「あんた、さっきからうちのために戦ってるみたいやけど……ええ殺気。見込みあるわ」

「……あんたは、誰だ」


ミカゲの声が、一層低くなる。

目の前にいるのは、自分の知っている『まふゆ』ではない。それは確かだった。


「うち?うちは、水鏡まふゆ。……知らへんの?」


まふゆは楽しそうに言うと、エドウィンとミカゲを交互に見比べた。




「……まあ、ええわ。ちょうど退屈してたとこやし。まずは、そこに突っ立ってる目障りな金髪から、片付けましょか」


彼女がそう言った瞬間、その身体から凄まじい魔力が奔流となって溢れ出した。

それは、今まで彼女が使っていた治癒の白魔術とは全く性質の違う、純粋で、強大で、そしてどこまでも暴力的な力の奔流。雪が舞い上がり、大気が震える。


「ほな、始めましょ。……うちの新しい人生を」


狂気と混沌の中、二つの魂が混じり合った少女は、美しくも残酷に、微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ