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聖堂の娘たち(1)

 セーラとカティアは仕事の合間を見つけては、ふたりで厩舎にいるロバの世話もした。

 毎朝と夜、毛並みを整えるためのブラッシングと、適量の新鮮な水と飼い葉を与えるのを欠かさないようにしたら、最近ではロバは以前よりもこころなしか胴体全体がふっくらとしてきた。


 ロバは毎日世話をするようになってからはセーラとカティアのことを覚えて、今はどちらか片方でも姿を見つけると、嬉しそうにひづめの先を地面につけて甘えた鳴き声をあげて、すっかり信頼されていることが分かる。


 今日もいつも通りセーラとカティアはふたりで手分けしててきぱきと、餌やりとロバの飼育小屋の掃除をしていた。


「セーラが入る前は、動物なんて汚いし臭いが気になるから嫌だ、って言って、雑用係の中でも特にこの子はいつも嫌われてて、決まった担当に誰もなりたがらなくて、毎回押し付け合いだったんだ。この厩舎には当番にならない限りは誰も近づきもしなかったから、だからずっとこのロバもここに繋がれたままでねー。淋しそうで気になってたんだけど」


「とても可愛いのにね」


「それでも、時々どうしても見かねて世話をしていたのが、実はわたし以外にも、あともうひとりだけいて……」


 カティアがそこまで言いかけた時、ふたりの近くを、プラチナブロンドを優雅になびかせた、祈り係のあのロザリンドが通りかかった。


「ロザリンド! アスランに最近そっけないよね、今はわたしとセーラが面倒みてるからいいけど、近くにきたなら名付け親なんだから、声くらいかけてあげたらどうなの? それくらいなら別によくない? 前みたいに可愛がってあげなよ」


 ロザリンドはいつもの祈り係の優美な聖衣姿で、露骨にぎくっとした様子で足を止め、それからどう見ても余り気が進まなさそうな顔でセーラたちの方を見た。


 ――すれ違ってもいつも知らん顔で、用事がある時以外は普段はロザリンドとは滅多に話さないのに、こうやってカティアが自分から声を掛けることもあるのね。


 珍しいことだったので意外に思いながら、セーラは自分には聞き慣れない名前がふと気になって、


「アスランって、もしかしてこのロバのこと?」


「そうだよ、ロザリンドだけがアスランって隠れて呼んでるの。人名を動物につけるのって、わたしは内心どうかと思ってたんだけどね」


 最後の部分はロザリンドに聞かれないように、ひそひそ声になりながらカティアが教えてくれた。


「少しお待ちになって、カティア。わたくし、ロバに名付けなんて、そんなことをしたことは一度もありませんわよ?」


「そうかな? ねぇ、アスラン。あなたの名前はアスランよね? ロザリンドがつけてくれた大事な大事な名前だもんね」


 カティアがたずねると、全部言葉が通じたように、嬉しそうにヒンヒン鼻を鳴らしながら、ロバがいななきをした。


「ほら、どう見ても自分で認識してるじゃない。こっちに来て、名前、呼んであげなよ。アスランもそうして欲しいと思うよ」


 それを見て、みるみるうちにロザリンドの顔が真っ赤に染まった。


「もうやめて下さらない? 今のは何かの間違いですわ」


 どうしても平常心を装いたかったのか、表面上はなんでもないような言い方をして、ロザリンドはそのまま足早に立ち去った。





「あーあ、行っちゃった。いつもロザリンドがここで隠れてロバの世話をしてたのを、わたしだけは前から知ってたんだよね。別に隠さなくてもいいのに。動物を可愛がるのが自分のイメージに合わないとでも思ってるせいか、いつもああなんだ。人前では隙を見せないようにして、気位が高そうにしていないと気が済まないのかな?」


「ロザリンドが言われたくなくて黙っててほしいのを知ってるのなら、知らない振りをしてあげたほうがよかった気がするけど……。カティア、今度からはやめておこうよ、今みたいなのは」


「うっ……。やっぱりさっきのわたしって、性格悪く見えたり、した?」


「……うん、少し」


 セーラに即、肯定されて、カティアは地味に傷ついたらしく、ショックを受けたような顔になった。


「カティアが他の人には絶対しないのに、ロザリンドが相手の時だけは、さっきの子供のいじわるみたいなことをしたのは、ロザリンドとはお互いに別々の公爵家でライバル同士だから?」


 セーラはかなり突っ込んだ問いかけをしたつもりだったが、当のカティアは別に気にも留めてないような感じと、ちょっと考えるようなしぐさで、


「まあ、それもあるのかなぁ……? まあそれ以外にも色々……。なんていうか実家の家同士のこととかを、まるっと度外視にしても昔からそりがあわないんだよね、ロザリンドとわたしって。ロザリンドって、あの通りまあまあ美人だし、気位が高そうじゃん? なんていうか、断然親しみやすさ重視でいきたいわたしとは、求めてるものが最初から違う、正反対のタイプっていうか……」


 性格悪く思われたのがどうも気になるのか、話を変えたくなったらしく、カティアは自分の短めの髪を指先で弄びながら、


「ねえ、セーラから見て、ロザリンドってどんなふうに見える?」

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