アイアンモスキート
声のするところまで辿り着くと、そこには奇妙な光景が広がっていた。
ぶぅんという、耳障りでいて、聞き慣れた羽音。
夏場にはどこからともなく湧いてくる蚊の羽ばたきの音だ。
そう、僕達の目の前にいるのは――蚊だった。
だが、そのサイズがおかしい。
「ひ、ひいいいいっっ!?」
さっき僕のことをバカにしていた大男の人に取り付いてている蚊は、大男と同じくらいにサイズがデカいのだ。
なので今正に刺されそうになっている針のサイズも、前に漁師さんに見せてもらった銛くらいの長さと幅がある。
人間大の蚊……こうやって目にすると、違和感と嫌悪感が押し寄せてきて、なんかこう、背筋がぞわあああってするな。
見れば蚊の数は十を超えており、三人の周囲を飛び回っていた。
なんにせよ、とにかく彼らを助けなくちゃ。
「アイビー!」
「みっ!」
アイビーが即座に結界を展開する。
男達の周囲を守るように展開された守護結界は、バチンッと大きな音を出して取り付いていた蚊達を弾き飛ばした。
「――シッ!」
僕は蚊達目掛けて、ライトアローを放つ。
一度に制御できる本数の限界、六十四本を放射状に打った。
バキバキバキッ!
すごい音を鳴らしながら、蚊の甲殻が割れていく。
どうやらそれほど魔法耐性は高くないらしく、触れたそばから蚊達の身体に大きな穴が空いていった。
一度の全体攻撃で、巨大蚊達は羽を潰され、胴体に風穴を空けられて倒れていく。
ふぅ、なんとかなってよかった。
「「「……」」」
先ほどまで自分達がやられると断末魔の悲鳴を上げていた冒険者の人達は、ぽかんとした顔でこちらを見つめている。
自分達の身に何が起こったのかを飲み込むのに、時間がかかっているみたいだ。
「大丈夫でしたか? さっきの蚊について、詳しい話を聞かせてもらえたらと思うんですけど」
「あ、ああ……」
若干しどろもどろになりながら聞いたところによると、彼らはいきなりあの蚊に襲われたそうだ。
あの蚊の魔物はアイアンモスキートといい、吸血した鉄分を己の身に鉄の鎧として身に纏うという特性を持っているらしい。
魔物の等級は三等級であり、なかなかに強い。
初心者が薬草摘みにやってくるアサイーの森に出てくるような強さの魔物ではないということだ。
話を聞いているうちにわかったんだけど、どうやら彼らはギルドの依頼で、このアサイーの森に起こる異変を探りに来ていたらしい。
ということは、やっぱり何かおかしな兆候は出ているのだ。
この旅が無駄足にならずに済みそうだ。
「みみみっ!」
『もし何もなくても、パンケーキのお店を見つけたって収穫があるわ!』とアイビー。
僕は甘ったるくてもういいかなと思ったけど、どうやら彼女は大分気に入ったらしい。
帰りの旅路にもう一度、お店に寄らせてもらうことにしよう。
「あの、その……すまなかったな」
「え、何がですか?」
「お前達のこと、バカにしちまって。見た目が強さとイコールじゃねえって、冒険者ならわかってるはずなのによ。俺らは見捨てられても仕方ねぇようなことをしたはずだ」
「いえいえ、別にバカにされたくらいで怒らないですよ」
彼らはどうやら反省したらしく、しょぼんとしている。
別にホントに気にしてないんだけどな。
それに小馬鹿にされたくらいで人を見捨てるほど、僕は薄情じゃない。
むしろそんな風に思われる方が心外だよ、まったくもう。
「まったくその通りだ! ブルーノはお前らのことを見捨てて先に進んでもなんら問題なかったんだからな!」
いつの間にか僕達に追いついていたレイさんが、胸を張りながら腕を組んでふんぞり返っている。
腕に押し上げられる形で、胸が強調される。
気恥ずかしくなりなった僕は、思わず目を背ける。
しょぼんとして俯いている同業者達に、僕の醜態を見られずに済んで一安心。
「み!」
けれど『スケベ!』と叫ぶアイビーには、どうやら全てを見られていたらしい。
冒険者に負けないくらいしょぼんとしていると、ようやくローガンさんの姿が見えてきた。
気落ちしてる場合じゃない。
異変の原因を調べるために、森の奥へ行かなくちゃ。
行こうとする僕らの背中に声がかかる。
「さっき、虫達の背中に妙な人影を見た! とにかく気をつけてくれ」
「ありがとうございます!」
貴重な目撃情報を教えてもらったことに感謝しながら、僕らは先へと進んでいく――。
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「応援してるよ!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




