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第13話 湖に棲むモノ

 先程まで静かだった林道が、急に騒がしいものとなった。

 湖の方から何度も悲鳴らしき声が聞こえ、そして多くの人が慌てて逃げて来る姿が見える。


「何? いったい何事?」


 腰を下ろしていたセリカが立ち上り、逃げてきた一人を捕まえてそう聞いた。


「化け物だ。モンスターだ。モンスターの大群だ!」


 それだけ言うと、男はセリカの手を振り払い逃げ出した。


 オレはラウルと視線を交わす。

 ラウルが頷くのを見て、オレはエリスに声を掛けた。


「エリス!」

「はい!」


 エリスは返事と共にオレの頭に手を付き、すばやくオレの頭を飛び越した。

 音も無く軽やかな動作で地に降り立つエリスを見ながら、オレは両手を広げた。


 次の瞬間、オレの右手にはラウルの剣、左手にはセリカの剣が握られていた。


 ラウルの剣は、肉厚で幅広い両刃の剣グラディウス。一般的な剣より少し短めだが、その分扱いやすいので、多少無骨ではあるが男性ハンターにはわりと人気のある剣だ。


 セリカの剣は、半円状の大きなつばが付いた片刃の剣セイバー。サーベルと呼ぶこともあるが、細身で比較的軽いので、こちらは女性ハンターにかなり人気がある。


 オレが剣を取り出したのを見て、ラウルがまだ湖の方を見ていたセリカに声を掛けた。


「セリカ、行くぞ!」

「あ、うん」


 二人はオレから、それぞれ剣を受け取ると湖の方に向かって駆けだした。


 さらにオレはエリスの剣も収納庫ストレージから取り出し、エリスに渡した。


 エリスの剣はオレと同じく、ラウルの祖父リオネルさんが作成した両刃の片手用直剣だ。長さや重さ、特に重心などはエリスの好みなどに合わせて微妙に調整してもらっている。言わばエリス専用の剣だ。


「オレ達も行くぞ」

「はい」


 オレはエリスと共に走り出した。


 オレの武器はまだ出していない。

 何にするかは、相手と状況による。

 剣がいいのか、スリングショットがいいのか。


 先程の男はモンスターの大群と言っていたが、まずは何が起こっているのかちゃんと確認するのが先決だ。


 先程まで行き交う人はまばらだった林道は、今は湖の方から逃げて来る人達でいっぱいだ。多くは我先にと一人一人バラバラに逃げているようだが、中には彼女の手をしっかり掴んで一緒に逃げるカップルや、小さな子供を抱っこして逃げている者たちもいる。


 そんな人たちでごった返しているところを、オレ達は彼らと真逆に進もうとしている。ラウルとセリカは林道の左端を、オレとエリスは右端とに分かれて、できるだけ逃げる人たちの邪魔をしないよう、ぶつからないように走る。


 ようやくその人込みを抜け出し、同時に林道も抜けだしたとき、その光景が目に飛び込んできた。


 オレ達の目の前に広がるのは青い空と、今は表面が氷に覆われた湖。

 普段なら、目の前に広がるその美しい景色に息を呑むところかもしれないが、残念ながら今はそんなこと、とても言ってられない。


 そこには、半魚人とトカゲのようなモンスターで溢れていた。


 その数は、ざっと目に付くだけで三十以上はいるんじゃないだろうか。

 しかも、陸の上だけじゃない。

 湖の割れた氷の隙間から顔だけ出しているヤツもいる。

 その総数はもっといると思った方がよさそうだ。


「レイク・サハギンと、レイク・リザード」


 セリカがそう呟いた。


 サハギン。

 それは海の悪魔とも呼ばれる半魚人のモンスターだ。

 ランクはE級。

 それほど高くは無い。


 半魚人と言っても人と同じように完全な直立二足歩行をする生物で、手には三叉の矛トライデントを持っていることが多い。


 全体的に濃い緑色の鱗で覆われていて、頭の後ろから背中にかけては背びれがある。尻尾もあり、尻尾の先は尾びれの様になっている。さらに耳がひれのような形になっている。


 そんなサハギンは海に棲むモンスターだが、レイク・サハギンは淡水、名前の通り主に湖に棲んでいるモンスターだ。遠い昔、サハギンから枝分かれして淡水に棲むようになった種族と言われている。


 なのでレイク・サハギンも、サハギン同様E級モンスターだ。

 サハギンとの主な違いは、淡水に棲むこと以外では、見た目少し色が薄いことと、レイク・リザードという動物を連れていることくらいだ。


 レイク・リザードは短い四肢と長い尾を持ち、名前の通りまるでトカゲのような体躯をしていて、皮膚には鱗がなく粘膜におおわれている動物だ。


 レイク・サハギンとレイク・リザードの関係は、正確なところはよく分かっていないそうだ。相利共生という説もあるが、レイク・リザードに首輪のようなものを付けて、紐でつなげている姿を目にすると、オレには飼い主とペットという関係にしか見えない。


「逃げ遅れた人たちを助けましょう!」


 その光景に驚いて立ち止まってしまったオレ達だが、エリスのその声に我を取り戻し、再び駆け出す。


 だがオレはすぐまた立ち止まり、収納庫ストレージからスリングショットと弾を取り出した。


 倒れている人に跳びかかろうとしているレイク・リザードに狙いを定めてすばやく撃つ。弾が頭部に当たり、うろたえて動作が止まったところにセリカが飛び込んでセイバーで斬りつけた。


「大丈夫ですか?」


 セリカが倒れていた女の人を助け起こし、逃げるように誘導する。


 少し離れたところではラウルが、今まさに三叉の矛トライデントで人を突こうとしていたレイク・サハギンに向かって、走った勢いをそのまま乗せて飛び蹴りをかました。


「さっさと逃げろ!」


 吹っ飛んだレイク・サハギンを後目にラウルが叫ぶと、立ちすくんでいたカップルがあわてて駆け出した。


 蹴られたレイク・サハギンが、見るからに怒った様子でトライデントを振り回しながらラウルに向かう。オレは次の弾を取り出し、そいつに狙いを定めてゴムを力いっぱい引いて、離す。


 弾は首に当たり、レイク・サハギンは手にしていたトライデントを落として首を押さえた。ラウルはその隙を逃さず、すばやく駆け寄り、両手で持ったグラディウスを相手の左肩から右胴にかけて斬りつけた。さらに飛び掛かってきたレイク・リザードを右脚の回し蹴りで蹴り飛ばす。


 それを視界の端で確認しながら、オレは収納庫ストレージから次の弾を取り出した。セリカに相対するレイク・サハギンに照準を合わせ、すばやく弾を打ち込む。弾が腹部に当たり、少しよろめいたところをセリカが踏み込み、相手の右側を水平に斬り抜ける。


 エリスは……どこだ?


 周囲に視線を巡らせる。


 ――いた!


 湖から少し離れた場所で、レイク・サハギンに襲われていた人を助けようと間に入り、応戦している。援護しようにもここからでは少し遠い。この距離でもスリングショットは届くだろうが、オレの腕の方が心配だ。エリスはもちろん、その後ろにいる人たちに当てるわけにはいかない。


 どうする?

 エリスの方へ行くべきか?


 今エリスが対峙しているのはレイク・サハギンとレイク・リザードが一匹ずつだ。これなら、エリスの力量を考えれば後れを取るとは思えない。ならば、敵の数か多いラウルたちの援護を優先して続けるべきか?


 一瞬迷う。


「タクマ、後ろ!」


 ラウルの声に反応してオレは即座に左に跳んだ。

 跳びながら収納庫ストレージから弾を取り出す。

 着地と同時に振り向き、スリングショットのゴムを目一杯引き、オレを襲ってきたレイク・サハギンの頭部を狙って撃った。


 狙い通り頭部、しかも目に当たったらしく、手にしていたトライデントを放り出して転げまわるレイク・サハギンに駆け寄り、収納庫ストレージから取り出した剣で止めを刺す。


 見るとラウルとセリカがレイク・リザードを連れたレイク・サハギン数匹に囲まれていて、二人は背中合わせになって敵と対峙している。


「こっちは大丈夫だ。タクマはエリスの所へ」

「だが……」


 ラウルはそう言うが、囲まれてしまった二人を置いて行けない。

 そう思った時、セリカが自分の剣を縦に構え、魔法を詠唱した。


「広がれ! 炎の波紋 《ファイアリップル》」


 二人を中心にした炎の円が現れ、それが周囲へと波打つように広がる。

 二人を囲んでいたレイク・サハギンたちが一歩後退りし、逃げようとするが、それより速く炎の波紋は周囲の敵を呑み込んだ。


 ……すげぇ。


「分かったでしょ。こっちは大丈夫だから、エリスのほうに行ってあげて!」

「……分かった」


 オレはセリカのセリフに頷き、剣を収納庫ストレージに収納してエリスの方へと駆け出した。


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