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前編

明日後編を書きます。

異変に気がついたのはログアウトしようとした時のことだった。いつものように右手をふってログアウトウィンドウを出そうとしたところで極端なラグが発生しウィンドウが表示されない。フルダイブ型のオンラインゲームでは近年よくみられる悪質なタイプの問題であり、一部の精神病ではこうした一瞬の閉塞感がパニックをもたらすなどしてゲーム会社は訴訟に追われることがあった。今ではもちろん改善され、めったに起こることもなければ、パニック発作を起こしたとしてもゲーム会社は一切の責任を追わないような巧妙な仕組みが整備されてはいる。


だがこのフルダイブ型クソゲーにおいてはままあることだった。自然な草原の自動生成、家や人物の自動構築アルゴリズムが発展したとはいえ、まだまだ細かい部分については人間の作り込みが必要で、そうした作り込みの部分が明らかに荒い。ディティールが必要とされるフルダイブ型オンラインゲームだからこそ、ゲーム会社は総力をあげてゲーム内の細かい部分にまで力を注ぎこむが、なかなかそう金をかけられるところもないというわけだ。


新しいゲームはどんどん生み出されているわけで、既存の物より新しい部分があるか、あるいは既存の物が力を入れていない部分に力を入れる、洗練させる、とにかく何らかの差異を盛りこまなければならない。だいたいどんなゲームにも見るべきものはあり、そういう意味で言えばシンプルな意味でのクソゲーなどは存在しないともいえる。このゲームの発表時のウリは、圧倒的にこりにこりまくったデザイン──ということになっていた。キャラクターはもちろん家具などの細部に至るまで有名イラストレーターに発注し、存在しているだけで心地良い空間を──というのがコンセプトだったはずだ。


だが蓋をあけてみれば……。投げやり感満載のチュートリアルにやる気のない妖精の案内を受けてフィールドに出てみればほぼ何もない原っぱに放り出され特に指示もなくうろうろ歩きまわらされた時はもうやめようかと思ったが、俺にとってはこうしたゲームの調査も仕事の一貫である。ゲームの企画屋として、たとえ一見したところクソゲーだったとしてもそこに何らかの新しいロジック、演出、描写がないかとみていくものだ。まあ、このクソゲーはオープンしてそこまでの時間も経っていない割にはプレイを開始して4時間経った今も誰とも出会わないぐらいの過疎っぷりであるのだが。


さてさて無駄なことを考えてしまっていたが、次にはどうしようかなと考える。このまま強制終了してしまってもいいし、私事として遊んでいる時ならばそうするし、だいたい普通のゲームならこうした障害が長引くことはめったにないのだが、こうまで人に出会わないのは多少気になる。確かプレイ開始時の人数報告では少なくとも300人ぐらいはいたはずだが──フィールドがろくに作りこまれていないくせに空間だけ広くてしかも移動手段が用意されておらず街から街へ移動するだけで30分以上かかるのは考えものだった。


せっかく入ったのだし、ここで強制終了してしまったらもう二度とやらないことは確定的だったので、同じようにログアウト難民になって強制終了もしていないプレイヤーでも探して、ナマの意見の収集という名の愚痴でも探そうかと思う。AIの発展によってキャラクタの受け答え精度は非常によくなり、今やオンラインゲームとはいっても中に人間が入ってプレイしあうのは稀になってしまっている。ほとんどはNPC、ノンプレイヤーキャラクタとの連携ですべてのクエストはクリアできるようになっているのが普通だし、プレイヤも思うがままに動かない他人と組んで、忙しい時間を合わせてプレイするよりかはいつでも自分の都合で切断できるNPCキャラクタを望む。


何よりそうしたNPCはプレイヤの望み通りに動いてくれるので(正確にはすべてのNPCがプレイヤの望む通りに動くのではなく、プレイヤは自分の望み通りの動作をしてくれるNPCを選ぶ、もしくは自分で構築するのである)ストレスがない、それどころかあらゆる欲求を満たしてくれる存在だ。精度はこれからも上がり続けていくだろうし、人間と人間がコミュニケートをとる時代は終わりかけているのだと感じる。


だが、だからこそこうしたシステムダウンの時には──人間と人間は久々にお互いの存在を認識しあい、システムを共通の敵として愚痴を言い合うようになる。人と人とのコミュニケーション頻度が下がったことから、一時期爆発的な人気をほこった各種SNSサービスも陰りをみせており、こうした偶発的な事象でもない限り生の声を聞くこともあまりない。ある意味ではこれは好都合な展開だったともいえよう。


そんなことおを考えながら、ファーストクエストだったゴキブリ狩り(何か名称がついていたような気もするが忘れた)を終わらせおそらくは少数のプレイヤが愚痴を言い合いに集まってくるだろう一番大きな街へ向かうことにした。さすがにフィールドにはいなかったとしても(最初のメインクエストでこれだけ人がいないというのは驚きだが)自然と人は街に集まるものだ。


20分も歩いて中世風の街まで辿り着く。まったくここにも人がいない。ゴーストタウンのようかといえばそういうこともなく、光源は与えられているし木々は健やかで鳥の鳴き声もする。NPCも必要最低限だが配置されている。大人気のゲームになると人がごった返してなんでゲームの中でまでこんな人混みの中にいないといけないんだと悪態をつけたくなるぐらいだからこれはこれで静かに誰にも邪魔されたくない人にはいいのかもしれないなと思いつつ、中央の道を通って中心部の噴水のあるところまで辿り着く。


街に入った時点でプレイヤーキャラクターの位置が表示され、そこに人がいることはわかっていた。わざわざ残っている奇特な人間だろうから、向こうも何か愚痴を言い合える人間を探していたのかもしれない。なかなか世知辛い話である。プレイヤーキャラクターはデフォルメされたかわいらしい系のキャラクタで、向こうは浅黒く元気のよい少年のようなキャラクターだった。

「こんにちは〜。強制終了されないんですか。」と向こうから話しかけてくる。音声は機械音声から自分で好きなタイプの物をチョイスできるのだが、まあ少年らしいよく通った声に設定されている。

「ええ。まあ、せっかく入ったばかりなので、もう少し続けようかと。特に他の機能に障害も出ていないみたいですし」

「私もまあ似たような状況ですね。このゲームはこんなんばっかりですよ。だいたい2日に1回は何らかの機能が落ちる、切断される。それも最初の注目度が凄かったからですが、真っ先に手をつけた人たちが失望して去っていった後も状況が改善されないのがひどいですね。」その辺の情報は当然ながら抑えていた。そうなると当然聞いてみたくなるのはなぜこの人がこんなゲームを続けているかというところになってくるが、聞いても失礼にはあたらないだろうか。まあ、特に当り障りのない会話を続ける意味もないし、つっこんでいくか。

「私はまだはじめたばかりですがもう既に心折れかかってますよ。言っちゃあなんですがこのゲーム、何かおもしろいところありますか? せめてそこだけは見極めてやめたいなと思っているんですが」

「面白いところですか……。」といって間があいてしまう。どうなんだ、今続けている人のほとんどはイラストレーターのファンが多いと思っていたが(ゲームシステムもディティールも環境もクソだからだ)そういうわけでもないのだろうか。

「いや、なければないでそれでいいんですけどね」と一応フォローしておく。

「いやいや、あるんですけどね。どう説明したもんかと思いましてね。まあ何にでも好事家ってもんはいるもんですよ。ほら、クソゲー愛好家とかね、いるじゃないですか。私がそれだというわけではないんですが、まあ似たようなものですよ。システムのバグ、穴や運営が考えていなかったような遊び方をやって意外な状況に陥るのを楽しんでいるんです。きっちり資本かけて作られたようなゲームだと、必然的にそうした穴も少ないですからね。あんまり良い遊び方じゃあ、ないとは思うんですけど」


そういうタイプだったか。俺自身は純粋にゲームを遊ぶ数自体は多くないし、そもそもそれもまっとうに遊んでどう思うかを重視しているのであまり共感するところはない。こうしたタイプは運営の方に報告をあげてくるマメなやつと、運営を困らせるだけ困らせて楽しんでいるような愉快犯タイプがいるが、こいつはどっちかな。まあ俺自身にはこいつがどちらであろうがそう興味のある部分ではないのだが。自分の担当しているゲームにこられたら迷惑だが、それ以外であればどうでもいい。


「何か面白いバグでも見つかりましたか?」と聞いてみる。

「そうですね。いくつかネタはあるんですが、ちょっと一人だと厳しいところがあって困ってたんですよ」

「一人だと厳しい?」人間のように反応し対応できるNPCをいくらでも生成できる最近のオンラインゲームにおいて、一人だと厳しい、ということはあまりない。

「ええ。何しろバグ系ですからね。NPCだとそうしたことには基本協力してくれないか、そもそもできるようになっていないんですよ。で、まあ普段は誰も人間と組もうと思わない中今回みたいな時だったら誰か人間がやってくるんじゃないかなとふと思いましてね」

「はあそうですか。それは面白そうですね。私も手伝いましょうか? で、そもそもどんなことを考えているんです?」

「いやあ、こうやって我々は今ログアウトウィンドウすら出せない状況に陥って、強制終了せざるを得ない状態になっているじゃないですか。こちらとしても保存されないデータが出てくる可能性がある以上、できれば強制終了したいわけでもない。だからまあ仕返しに、この区画のサーバを強制的に落としてやれば我々は擬似的にログアウトできるんじゃないかなと。その為の方法も考えているんですよ。」


ふうむなるほど。たまには思うままに動いてくれない人間と話したいと思う人間もいるというわけか。それにしてもこいつ、結構過激なことを考えているもんだな。せいぜい侵入出来ない場所へ侵入してスタックしてやろうとか、NPCに意図せぬ情報を与えて意味不明な行動を起こさせようとか、そのレベルだと思っていた。こいつがこいつの責任でこのゲームの運営に迷惑をかけ、運営が困り、こいつがいい気分になったり、あるいは非難を受けるのは勝手だが、そこに俺が巻き込まれるのは困る。身元がバレることはありえないから他所のゲームからの妨害工作者だなどとおかしなことになるのはありえないが、そもそも別に困らせたいわけでもない。


「ふうん。そういうことでしたか。さっきは手伝いましょうか、などといってしまいましたが、そういう運営だけならともかく、他プレイヤーにまで迷惑がいくような行為にはあまり手を出したくありませんね。一人じゃできないという話なので申し訳ないですけど……」

「そうですか。いやまあもちろん無理にとは言いません。当然ですよ。ただ私はそれなりにこのゲームについて詳しいし、我々が実行する案で落ちるサーバで何人のプレイヤが稼働しているのかというのもわかるので、そういう意味では問題はありませんよ。どちらかといえばログイン出来ずに放置させるぐらいだったら、強制的に排出させてあげたほうがいいような気もしますが、それはまあとりあえずどうでもいいでしょう」


まあ、それならそれでいいかな、という気になってきている。ログアウトができなくなった、といってもすぐに強制終了すればいいだけの話だが、当然ながらそうした手段にすぐに思い至らない人間もいる。いろいろな人間がやっているのだ。そして当然ながらマニュアルも充実していて、すぐにサポートが補足する、あるいはそもそもこうしたゲームの常として運営が障害が起こればすぐに何らかのアナウンスと対応をするのが当然だが、このゲームにおいてはそれもない。多少お灸をすえてやってもいいのかもしれない、という方向へ、この少年の話(中身が何歳だかは知らないが)を聞いていて針が揺れてきたところである。


「ちょっと協力してもいいかなと思いました。しかし、実際どうやろうっていうんです? ゲームの中からサーバをおとすなんて二人だけだと尋常な手段では思いつきませんけど」

「最初にこのゲーム、一番最初のピークの時から今まで、人数が変わっても落ちっぱなしだって言いましたよね?」

「ええ」

「それはですね、まあ別に不思議なことでもなんでもなくて、運営側の怠慢なんですよ。ほとんど見切り発車、未完成状態のままサービスをインして、次第に改善していけばいいやと思ったんでしょう。ただそうそう忙しいユーザが長い目で見てくれるわけもなくて、最初の広告だけは威勢がよかったんですが、その後めっきり人がいなくなってしまって、設備投資だけで異常な赤が出ていると。だから、本来必要とされていたサーバを今売り払って削減していっているところなんですよね」

「ははあ」

ただの物好きかと思っていたがなんでコイツは内部事情に詳しいんだろう。意外と関係者なのかもしれないなと思った。関係者だったらとっととアナウンスを出すなり、この状況を改善するなりしているだろうから実際には違うのだろうが。

「それでですね、今かなり脆弱なんですよね、全体的に。だからこんな普通起こらないようなウィンドウサーバの不備なんかも起こってしまう。さっきも言ったけれど、2日あれば何らかの障害が発生しているようなありさまなんですよ。我々が自分たちから何かしなくてもね。」

「話の本題はここからで、実はこのゲームには攻撃することで分裂するタイプの敵キャラクターがいるんですよね。で、こいつがなぜか無駄にデカイ。複雑なロジックで行動を決定させているせいで一体出てくるだけでも若干ラグります。」

もうそこまで聞いただけである程度話は見えた。

「そいつを分裂させて、サーバを落としてしまおうって話ですかね?」

「さすがに話が速い。そうそう。普通そいつが増えたぐらいじゃサーバなんてオチません。当たり前です。でも今なら落ちるかもしれない。というか、落ちるかな? 落ちるんじゃないかな? という、まあそんな状況なわけですよ。ちょっとおもしろそうじゃないですか?」

それはちょっとおもしろそうだなと思った。それに落ちなければ落ちないで、罪悪感も感じないですむ。何しろこういう悪巧みを人間とするのが久しぶりだった。

「おもしろそうじゃないですか。でも僕、まだクエスト始めたばっかりのレベル4とかなんですけど何かやることあるんですか?」

「まあ、そこは不安材料ですね。でもいいじゃないですか別に失敗しても。私が一応支援タイプで、そちらは戦士タイプ。とりあえずあなたには支援をかけまくる。アイテムも大量に投入する。そしてあなたは敵の注意を引きつけて、延々と走り続ける。私は延々と攻撃して分裂させ続ける。あと実はワープの魔法がある。それで同じフィールド内の別の場所に転移させられるので、分裂⇒逃げる⇒ワープ⇒分裂作戦はもうそれだけです。一人で耐えながらやってみたんですけどね、さすがに耐えるのと分裂させるのとワープさせるのを同時には無理でしたから。まずは装備を整えましょう」

そういうことになった。



このゲームに非常に洗練されている部分があるとすればそれは各種デザインだろう。そこだけは本当に金がかかっていて、尊敬するところだ。だからこそ事前人気が高かったのだし。「それなりにこのゲームをやったんで、金もあるんですよ」といって特に遠慮することもなくほいほいと装備を譲ってもらってしまったが、戦士として必要な鎧や兜、なんか鎖かたびらっぽいいやつから勢いをつけると若干浮く靴などイタレリーツクセリーだったがどれもデザインが良い。


これだけデザインが良く金もかけているのになんでこんなにシステムがパクリでしかも劣化しているんだろうなあ……と思うほかなかった。最近は王道RPGといったものは少なくなっており(金がかかるわりにペイしないので)非常に極々狭い部分に目的をフォーカスしてその為にRPG的な要素が入ってくるといったシステムデザインが人気なのだが、このゲームは明確に某大人気オンラインゲームをパクっていた。お城成長システム、村成長システムをメインとし自分の陣地とNPC軍団を拡大させていってそこでの戦力を使って戦争をさせる基本コンセプトだ。


「これが移動速度上昇、これが敵の移動速度減少、これが……」アイテムが多すぎてショートカットに登録しきれない。フルダイブ型のオンラインゲームになってゲーム画面、ウィンドウといった面倒くさいものから解放されたはいいがかといって人間それ自体の処理能力が向上したわけではないので多すぎても扱いきれないのだ。それも慣れないゲームである。

「回復ポーションも十分か?」と聞いてくる。

「OK。とりあえず持てるだけ持った。」準備をしている間も色々と会話を交わしており、なんとなく価値観のようなものもお互いわかって多少気安くなっている。最近はもう年齢・仕事・性別すらも聞くのは大変な失礼に当たることになっているから、個人情報的な観点ではまったく知らないのだが。ちなみに相手のキャラクタ名称はクーラス、こちらはハタヤマヤマという適当につけた名前でやっていた。二人しかいないから特にあ名前を呼ぶ会うようなこともないのだが。

「ところで、移動手段は何があるんだろう。このゲーム」とすっかり忘れていたことを聞いてみる。何しろこの街に来るためだけに延々と変わりない景色の中徒歩で20分も歩かされたのだ。疲労は実装されていないからつかれるわけではないとはいえ、景色が代わり映えしない中20分移動を続けるのは精神的疲労である。このへんも普通に開発者が配慮すればどんな手だって打てるだけに、こんなつまらないことで評価を下げてしまうのは残念だ。

「ああ、それはこっちに移動スキルがある。ワープポータルを出せるんだな。もっとも飛べる場所と飛べない場所があるから、問題の場所まではちと歩かなければならんが」といってスキル詠唱をはじめ、目の前にまさにそれとしか言い様がないワープポータルが開かれる。2メートルぐらいの人間でも入れそうな、丸い空間だ。しゅわしゅわしゅわしゅわと炭酸でも湧いているのかと思うような音がしていて、白く光輝いている。この辺の表現手段はゲームごとに千差万別であり、地味にゲームプロデューサーとして俺が楽しみにしているところだ。たとえばあるゲームでは地面に落とし穴のような形で出現するワープポータルが出たりする。黒い地獄に続いていくようなワープポータルで、あんまり移動するのが楽しくないものだ。こうした細かいところに、時間の許す限りこだわりたいと思うものだが、このワープポータルはなかなかみていて気持ちが良かった。何より音がいい。

「さあ、入ってくれ。入った先はまた別の街だから特に軽快しなくてもいいぞ」とクーラスがいう。

「はいはい」といってポータルに足からかけてくぐりぬければそこはこれまでの中世風の街とは違ってエジプトモチーフのような砂漠の街のようだった。砂がさらさらとそこら中にまっていて、風がふくと西部劇でころころ転がってくるようなやつがとんでくる。


すぐ後からクーラスも追ってきて、ちょっと見て回るかと聞かれるがいやいいと答える。それにしもやっぱりこの街にも人がいない。なんて過疎ったゲームなんだ。それにいまだに何の対応策も出されない。情熱をかけられないゲームなんていくらでもあるが、最低限の仕事ぐらい果たして欲しいものだと思う。勝手に直っていたりしないかと思い、ログアウト用ウィンドウを表示させようとしてみたが、やっぱりまだ出せなかった。

「で、獲物はどこにいるんだ?」

「ああ、この街から北西に行った方のフィールド上にピラミッドがあるからな。そこにゾンビというかグールというかピラミッドだからまた別の何かなのかもわからんが、なんかそういうのがいるからそいつを増殖させる。もちろん他の敵もでるんだが、メインはゾンビだな。こいつらは行動が遅く、攻撃速度も遅いからかわすのもそう難しいわけじゃないが、とにかく数が多いことでおしてくるタイプだ。」

「ふーん。そいつを結局ピラミッドの中で限界まで増殖させるのか?」

「いや、ピラミッドは視界も悪いし、場所も狭いしであんまりよくない。こいつらをこの街まで一生懸命ひっぱってきて、この街周辺にワープさせまくりながらグルっと一周するようにして増やし続けよう。お前は走り回る。こっちはそのあとを追いかけて少量ダメージを与える飛び道具で攻撃を加え、分裂させ続ける。さっきも居たように、簡単なお仕事だ。」

「そううまくいくもんかねー……」そううまくいくとはまるっきり思わなかったがまあ、ここまできたらやってみるほかない。装備も整えてもらったし。


ピラミッドは街からほど近い所にある。歩いて五分ぐらいか。なんで街のこんな近いところにピラミッドがあるんだろうかという疑問はあるが。いや、ピラミッドの近くに街を作ったのか? どちらにせよ先ほど草原で20分も歩かされた思いをここでも味わう羽目にならなくてよかった。何しろ今度はここをゾンビを引き連れて歩かなければいけないのだ。ゾッとする。

「よし、まあピラミッド一階付近にいるゾンビは単体ではそこまで脅威ではないから、気楽にいこう」ということで何の気負いもなくピラミッドに入っていくと、いきなりゾンビがお出迎えしてくれる。古き良き、足が遅くて、うーうーいって襲い掛かってくるゾンビ──とはまた違い、包帯を全身に撒いたような、動きの遅い人間っぽいやつだった。ゾンビとはまたちょっと違うような気がする。

「ねえ、こいつゾンビとはちょっとちがうくない?」

「そんなん今はどうでもいいだろうが! 早くタゲとって走ってくれ!」

はいはい。武器はもらっているが今は装備せず、素手でとりあえず顔面を殴りつけてみる。無様に吹っ飛んでいくゾンビだ。あんまりフルダイブ型オンラインゲームでゾンビを殴るのは気持ちがいいものではない。んばんか病気とかがうつりそうだった。殴った後『分裂して』立ち上がり、こっちにめがけてまたうーうーいって襲い掛かってくる。うんうん、なんだ、楽勝じゃないかこの動きの遅さなら。

「どうする? もう街に向かうか?」

「いや、途中で不慮の事故があって減っても面倒だからな。せめて10匹ぐらいは引っ張っていこう」

「ヤー」

二体重なるようにしてこっちに向かってくるゾンビA,Bを再度ぶん殴る。おそらくはちょっとはたくだけでもいいのだろうが、とにかく近寄られるとマズイのでノックバックさせるようにしてやらなければいけない。疲れはしないが、単調な作業だ。当然のように『分裂して』立ち上がってくる。これで4体だ。さすがにこれぐらいだとラグもない。

「ところで、何匹ぐらいで処理が重くなると思う?」単調作業なので話もふってみたくなった。

「まあそうだな。ざっと1000体も出したら相当重くなるんじゃないのか」

「1000体か……」

1000体というのは大したことないような気がするが、しかし別に倍々ゲームで増やしていけるわけでもないことを考えるとそうとう大変なのではないだろうか。倍々ゲームができるのはせいぜい20体ぐらいまでで、あとは地獄の鬼ごっこと地道な1体ずつの増殖ゲームである。980回もの攻撃を逃げながらヒットさせなければいけないわけだが、そんなことが果たして可能なのだろうか。

「範囲攻撃があるから大丈夫だよ」それはそうか。それなら問題……ないのか? やって見るほかないが。


と話しているうちに12体まで増えていた。

「よし、じゃあこいつを引っ張っていくぞ」とクーラス。

動きの遅いゾンビを、ターゲット注目が外れないように距離をつかず離れずで保ちつつ、列の乱れ、速度の差が出てきて突出してくるやつがいたら少しこずき、遅れるやつはクーラスが叩いて引っ張ってくるという幼稚園児の引率のような真似をして5分かかった道のりを15分かけて戻る。攻撃をくらってもHPとしては20分の1ほどが減少するにすぎないかが、なかなか気のはる仕事だ。


さあ、ここからが本当の仕事の始まりである。

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