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LIBERAL ONLINE  作者: Guri
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自由の世界

 

 病室の窓から見える空は、今日も変わらず青かった。


 雲一つない夏空の下では、きっとたくさんの人が歩いていて、

 学校へ向かう子どもたちの声が響き、公園では走り回る誰かがいて、

 風は木々を揺らしているのだろう。


 けれど(ミナト)は、その景色を直接見ることができない。


 窓越しに眺めることしかできない。


 それが当たり前になって、もう何年も経っていた。


 七歳の時に見つかった心臓の病気。


 最初は少し息切れしやすい程度だった症状も年齢を重ねるごとに悪化し

 今では少し歩くことすら難しくなっている。


 医師からは激しい運動を止められていた。


 外出も制限されていた。


 学校へ通うこともできず、授業は短時間のオンライン。


 友達と遊ぶ機会もない。


 だから湊の世界は自然と狭くなった。


 病室。


 そして仮想空間。


 その二つだけだった。


 それでも、湊は不思議と人生を恨んだことはなかった。


 もちろん苦しい日はある。


 検査が続く日もある。


 体調が悪くて何もできない日もある。


 それでも。


 両親は優しかった。


 担当の看護師たちも優しかった。


 だから湊はいつも思っていた。


「生きてるだけで十分幸せなんだろうなぁ」


 と。


 少しだけ寂しく笑いながら。


 そんな彼にとって、唯一自由になれる場所があった。


 仮想空間の図書館である。


 フルダイブ技術が発展した現代では、病室にいながらでも世界中の知識へ触れられる。


 巨大な本棚が果てしなく並ぶその図書館を、湊は何よりも愛していた。


 歴史書を読む日もある。


 料理本を読む日もある。


 植物図鑑を眺める日もある。


 興味を持ったことは何でも調べた。


 知らないことを知るのが好きだった。


 新しい世界を知るのが好きだった。


 気付けば、驚くほど多くの知識を身につけていた。


 けれど。


 知識だけでは埋まらないものもあった。


 本の中でどれだけ草原を知っても。


 実際に風を感じることはできない。


 どれだけ山の写真を見ても。


 自分の足で登ることはできない。


 どれだけ冒険譚を読んでも。


 主人公にはなれない。


 それだけは、どうしようもなかった。


 そして迎えた十五歳の誕生日。


 その日は両親が少し早い時間に病室へやって来た。


 母はどこか嬉しそうで。


 父も珍しく機嫌が良さそうだった。


「湊、誕生日おめでとう」


「おめでとう」


 二人に祝われ、湊は照れ臭そうに笑う。


「ありがとう」


 それだけでも十分嬉しかった。


 だからこそ。


 父親が大きな箱を差し出した瞬間、何が起きたのか理解できなかった。


「え?」


 箱に描かれていたロゴ。


 それは今、世界中で話題になっている作品だった。


 フルダイブ型MMORPG。


 LIBERAL(リベラル) ONLINE(オンライン)


 自由を意味するそのゲームは、発売から数年経った今でも世界中の人々を熱狂させている。


 戦士になってもいい。


 商人になってもいい。


 農家になってもいい。


 鍛冶師になってもいい。


 何もしなくてもいい。


 その世界でどう生きるかは、全てプレイヤーの自由。


 そんなゲームだった。


「えっ……」


 湊の目が大きく見開かれる。


「これ……」


「欲しかったんだろう?」


 父が笑う。


「でも高かったし……」


「誕生日だからな」


 母も優しく微笑んだ。


 その瞬間。


 胸の奥が熱くなった。


 ずっと憧れていた世界。


 動画で何度も見た世界。


 病室のベッドの上から見つめることしかできなかった世界。


 それが今、自分の手の中にある。


「ありがとう……!」


 湊は思わず泣きそうになりながら頭を下げた。


 その日の夜。


 湊は震える指でログインを選択する。


 意識が沈む。


 視界が白く染まる。


 そして。


 次の瞬間。


 柔らかな風が頬を撫でた。


 草原だった。


 どこまでも続く緑。


 青い空。


 遠くで鳴く鳥の声。


 流れる雲。


 揺れる草花。


 現実では絶対に触れられない景色。


 湊はただ呆然と立ち尽くした。


 いや。


 立っていた。


 その事実に気付いた瞬間。


 呼吸が止まりそうになった。


 自分の足で。


 自分の力で。


 立っている。


 病室ではない。


 ベッドの上でもない。


 車椅子でもない。


 ちゃんと地面の上に立っている。


「……あ」


 声が震えた。


 一歩踏み出す。


 また一歩。


 歩ける。


 歩ける。


 歩ける。


 その事実だけで涙が溢れそうになる。


 そして次の瞬間。


 湊は走り出していた。


 風を切る。


 草原を駆ける。


 足が動く。


 体が軽い。


 苦しくない。


 胸は痛まない。


 息も切れない。


 ただ走れる。


 それが嬉しかった。


 あまりにも嬉しかった。


 気付けば涙を流しながら走っていた。


「ははっ……!」


 笑い声が漏れる。


「走れる……!」


 十五歳の少年は、誰もいない草原で泣きながら笑った。


 ずっと忘れていた感覚だった。


 自由だった。


 何よりも。


 初めて、この世界で生きてみたいと思った。



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