↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/160

第94話 閑話:集う清廉なる者たちと、愚者たちの末路

第94話 閑話:集う清廉なる者たちと、愚者たちの末路

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、今や『絆紋公国』の中心地となったこの場所は、今日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、深淵の邪神を浄化した光をたっぷりと吸収し、もはや一つの森と見紛うほどの巨大な神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』と、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 それに続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスであるルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノも一斉に集まってくる。

 フェルは艶やかな銀色の毛並みを俺の手にすり寄せ、ピコは長い耳をパタパタさせながら俺の膝に飛び乗り、ソラは俺の肩にふわりと着地して頬をすりすりと擦りつけてくる。ギンはポンッと空間転移をして俺の頭の上に乗っかり、ルルは俺の腕に登ってきて得意げに尻尾を揺らし、コノは小さな木の実を俺の手に押し付けてきた。

「おはよう、みんな。今日も元気いっぱいだな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細めて尻尾を振った。

 庭を見渡せば、漆黒の竜ノヴァが竜使いのルカに鱗を磨いてもらいながら気持ちよさそうに目を閉じ、紅蓮の火蜥蜴ガエンや鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグといった大型の魔物たちが木陰でうたた寝をしている。黄金の甲殻を得て進化した砂塵の魔蠍ゼットは、太陽の精霊鳥ソルをハサミの上に乗せて日向ぼっこを楽しんでいた。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスが元気な声を上げた。

 ダイニングルームには、元宮廷料理人のセシルが腕を振るった極上の朝食が並べられている。今朝のメニューは、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのベーコンと卵のオープンサンド』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なトマトをふんだんに使った『濃厚ミネストローネ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『ハーブポテトのロースト』だ。

「ガハハ! 今日も飯が美味い! しかし、最近は次から次へと新しい連中が街にやってくるねぇ。お陰で訓練のしがいがあるってもんだ!」

 女戦士のアイラが、オープンサンドを豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。クロードやガレスたち『魔境鎮圧部隊』の活躍が世界中に知れ渡ったことで、彼らに憧れてアシュタルの門を叩く若者が後を絶たないわ」

 少女魔導士のルウも、うっとりとした表情でスープを口に運びながら言う。

「実力で示し、秩序をもたらす。これこそが真の平和への道です。しかし、気を抜くことは許されません。我々は常に最強の矛であり、盾であり続けねばならないのです」

 剣聖シルヴィアも静かに頷き、満足げに紅茶をすすった。

 アシュタル辺境国と絆紋公国の建国宣言から数ヶ月。

 武力による平和の強制は、確かな実を結んでいた。そして同時に、この平穏で絶対的な安全を誇る地に、世界中から有能な人材が集い始めていた。

新たなる逸材と、清き国からの使者

 午前中の訓練場では、今日も新たな原石たちがアイラたちのシゴキに耐えていた。

 クロードやアリスたち第一陣の成功例に続くべく、騎士や冒険者の中から、さらに新たな才能が開花しつつあった。

「甘い! その大剣の重さに振り回されているようでは、変異魔物の甲殻は砕けないよ!」

 アイラの戦斧を必死に受け止めているのは、冒険者ギルドから推薦されてきた大剣使いの青年『カイル』だ。彼は非常に恵まれた体格を持っていたが、力を過信しすぎて防御が疎かになっていた。

「俺は、俺は大剣で全てを叩き斬るんだ……!」

「なら、もっと重心を落とせ! 剣の重さを己の体重と同期させるんだ!」

 アイラの激しい指導と、俺が注ぎ込んだ『絆紋』の最適化の光により、カイルの荒削りな剣撃は徐々に無駄を削ぎ落とし、圧倒的な破壊力と防御力を兼ね備えた『重剣士』としての才能を開花させようとしていた。

 また、後衛の魔法訓練場では、シオンの隠密技術とルウの魔法を組み合わせた新たな戦術を模索している少女がいた。

「気配を消しつつ、魔法の詠唱を行う……難しいですが、これができれば……!」

 幻術士の『リリア』だ。彼女は攻撃魔法の威力は低いものの、光と音を操る幻術に長けており、戦場を撹乱する能力は群を抜いていた。

「その調子です、リリア。幻術で敵の視界を奪い、味方の動きを隠す。それが戦場を支配する鍵になります」

 シオンが優しくアドバイスを送る。リリアもまた、強力なサポート要員として覚醒の時を迎えようとしていた。

 訓練の様子を視察した後、俺たちはアシュタル辺境国の王城へと向かった。

 アルベルト国王の執務室には、首席文官のエレナと、開拓村総代官のウィリアム老伯爵が集まり、新たな来客を迎えていた。

「レイン様、お待ちしておりました。実は今日、少し特別な客人をお迎えしているのです」

 エレナが眼鏡を押し上げながら、一枚の親書を俺に差し出した。

「特別な客人?」

「ええ。我々アシュタルの情報網、いえ、シオン様が築き上げた特級の諜報網にすら引っかかっていなかった、はるか遠方の国家からの使者です」

 執務室の奥から進み出てきたのは、簡素でありながらも気品を感じさせる純白の騎士服を身に纏った初老の男だった。

「お初にお目にかかります。私は、遥か東の果て、海を越えた先にある『聖樹国アルカディア』より参りました、騎士団長バルディアと申します。アシュタル辺境国国王陛下、並びに絆紋公国公王殿下にご挨拶申し上げます」

 バルディアは深々と、そして非の打ち所のない美しい礼をした。

「アルカディア……聞いたことがない国だな」

 俺が呟くと、シオンが影から現れて補足した。

「無理もありません。海を隔てた極東の島国であり、長年鎖国状態にあった国です。我々の諜報網も、あの海を越えることは難しかったため、完全に情報から漏れていました」

「我が国は、古きより聖なる樹を信仰し、他国との交わりを絶って平和を維持してまいりました。しかし、数ヶ月前に起きた空の異変……次元の裂け目と魔王城の出現、そしてそれが浄化される光景は、遠く離れた我が国からも観測されました」

 バルディアは真剣な眼差しで俺を見つめた。

「我が国の若き女王は、その光の中に『真の調和』を見出しました。そして、世界各地で変異ダンジョンが猛威を振るう中、我が国もまた、海から現れる変異した海獣の脅威に晒されています。女王は、これまでの鎖国を解き、清き心を持つ者たちと手を取り合うべきだと決断されました。どうか、我々アルカディアと、対等なる同盟を結んでいただけないでしょうか」

 アルベルト国王は、バルディアの目を見て深く頷いた。

「貴国の女王の慧眼と決断に敬意を表する。我々が求めるのもまた、共に平和を築く良心的な同盟者だ。レイン殿、どう思われる?」

「彼の目には嘘がありません。それに、海の向こうの国との交流は、アシュタルにとっても新しい技術や作物をもたらしてくれるはずです。歓迎しますよ」

 俺が微笑むと、バルディアは安堵の表情を浮かべ、再び深く頭を下げた。

 さらに、この日はもう一つの嬉しい知らせがあった。

「ウィリアム様からの呼びかけにより、旧ルミナス王国で隠遁していた元貴族、『フローラ女伯爵』がアシュタルへの合流を決意しました」

 エレナが報告する。フローラ女伯爵は、領民の医療と教育に尽力していた慈愛の貴族であり、彼女が加わることで、開拓村の福祉や医療体制はさらに盤石なものとなるだろう。

 才能ある若者たち、遠方からの清き同盟者、そして民を想う元貴族。アシュタルには、真に世界を豊かにするための人材が集い続けていた。

閑話:愚者たちの狼狽と、絶望の末路

 アシュタルが良心的な者たちを迎え入れ、確固たる平和の礎を築いているその一方で。

 数ヶ月前にアシュタルが発した「不当な侵略を行う国には支援を行わない」という忠告を無視し、自力で変異ダンジョンに対処できると高を括っていた遠方の国々や貴族たちは、今、取り返しのつかない絶望の淵に立たされていた。

 大陸北東部に位置する軍事国家『ザウエル帝国』。

 彼らは魔王軍の脅威が去った後、近隣の小国を次々と武力で併合し、アシュタルの忠告を「辺境の田舎者の戯言」と鼻で笑って無視していた。

 彼らは自国の強力な重装甲騎士団と攻撃魔法部隊を過信しており、領内に発生した変異ダンジョンなど、自分たちの力で容易に鎮圧できると思い込んでいたのだ。

「アシュタルの連中など放っておけ! 我々ザウエル帝国の力を見せつける絶好の機会だ。あの薄汚い洞窟から湧き出す魔物どもなど、我が軍の突撃で一網打尽にしてくれるわ!」

 ザウエル帝国の皇帝は、玉座でワインを揺らしながら傲慢に笑っていた。

 彼らは変異ダンジョンの前線に数万の軍勢を配置し、スタンピードが起こるのを待ち構えていた。

 そして、その日はやってきた。

 変異ダンジョンの入り口から、赤黒い瘴気と共に、おぞましい数の変異魔物たちが溢れ出したのだ。

「全軍、突撃!! 魔物どもをすり潰せ!!」

 帝国の将軍が号令をかけ、重装甲騎士団が地響きを立てて突進する。

 しかし、彼らが激突したのは、通常の魔物ではなかった。魔王軍の瘴気を限界まで吸い込み、異常な進化を遂げた『変異キメラ』や『変異サイクロプス』の群れだった。

 ドゴォォォォンッ!!

 帝国の誇る重装甲騎士団の突撃は、変異サイクロプスの巨大な棍棒の一振りで、まるで紙屑のように吹き飛ばされた。

「な、なんだあの腕力は!? 鎧が、まるで意味を成さない!」

「ひぃぃっ! 魔法部隊、撃て! 早く撃て!!」

 後方から無数の炎や雷の魔法が放たれるが、変異キメラたちはその魔法を浴びても平然と突進を続け、魔法部隊の陣地へと躍り込んだ。

 彼らの放つ魔法には、魔王の瘴気を浄化する力がなかった。単なる物理的、魔力的な破壊では、変異魔物たちの狂暴性を削ぐことはできず、むしろ傷を負うことで彼らの凶暴性はさらに増していったのだ。

「隊長! 前線が崩壊しました! だ、駄目です、敵の数が多すぎる上に、個々の力が我々の想定を遥かに超えています!」

「ば、馬鹿な……! 我々ザウエル帝国の無敵の軍隊が、ただの魔物の群れに押し負けるなど……!」

 彼らは知らなかった。

 アシュタルの『魔境鎮圧部隊』であるクロードやガレスたちが、どれほどの地獄の特訓を乗り越え、個々の能力を極限まで引き上げ、さらにミリーたちによる強力な神聖バフを受けて戦っていたかを。

 彼らはアシュタル軍が簡単にダンジョンを鎮圧している映像を見て、「自分たちにもできる」と勘違いしてしまったのだ。

 アシュタルの支援を拒否した代償は、あまりにも大きかった。

 変異魔物たちのスタンピードは、ザウエル帝国の軍隊を文字通り『蹂躙』し、そのまま帝国の領土深くへと雪崩れ込んでいった。

 豊かな街は火の海に包まれ、人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。

「こ、こんなはずでは……! おい、すぐにアシュタルへ使いを出せ! どんな条件でも飲むから、救援を寄越してくれと!」

 帝都の玉座で震え上がった皇帝が叫ぶが、側近は絶望的な顔で首を振った。

「陛下……すでに通信魔道具は破壊され、アシュタルへの使者も魔物の群れに阻まれて街を出られません。我々は……見捨てられたのです」

「そんな……あぁぁぁっ!!」

 傲慢な皇帝の絶叫は、雪崩れ込んできた変異魔物たちの咆哮にかき消された。

 ザウエル帝国だけではない。アシュタルの忠告を無視し、自国の武力を過信して不法な行いを続けていたいくつかの国家や貴族の領地が、次々と変異ダンジョンのスタンピードに飲み込まれ、地図からその姿を消していった。

 武力による平和の強制。

 それは、従う者には絶対的な安寧を約束するが、逆らう者には、自らが招いた絶望による『自滅』という容赦のない結末をもたらした。

 愚者たちの滅びの報せは、世界中に響き渡り、アシュタル辺境国と絆紋公国の発するルールの絶対性を、これ以上ないほど強烈に知らしめることとなったのである。

 そうした遠方の悲劇など露知らず、アシュタルの街は今日も平和な空気に包まれていた。

 俺たちは、新しい人間の仲間や魔物たちと共に、温かい食卓を囲み、未来への希望を語り合っている。

 愚かな選択をした者たちが自滅していく外の世界とは対照的に、この場所だけは、確かな絆と調和に守られた、絶対の楽園であり続けるのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

https://ncode.syosetu.com/n1368mp/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。