第42話 白銀の双星と、猫耳の行商人
第42話 白銀の双星と、猫耳の行商人
辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今日という日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。
庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、日を追うごとにその存在感を増し、今や拠点の絶対的な要として太く力強い幹を天へと伸ばしている。その豊かに茂った枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、庭全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。
宝石蜘蛛のルリが編み上げた虹色の天蓋を透過して降り注ぐ朝日は、精霊樹の放つ淡い翠色の光と見事に混ざり合い、視界に入るものすべてをきらきらと輝かせている。魔力農園で育つ野菜たちは、その恩恵を受けて、朝ごとに一回りも二回りも大きく、鮮やかに色づき、はち切れんばかりの生命力を誇示していた。
「きゅるるーっ!」
「ウォンッ!」
「ピィィィッ!」
「ヒンッ♪」
「ルルゥッ♪」
「シャァンッ♪」
「きゅあぁっ♪」
「キュゥッ♪」
澄み切った青空を背景に、空色小竜のソラ、雷鳴の怪鳥ライ、黄金の天馬ルミナ、そして翡翠の風呼びであるシルフィが楽しげに上空を旋回している。ルミナの放つ神聖な黄金の光、ライの纏う青白い雷光、ソラの美しい空色の鱗、そしてシルフィが巻き起こすエメラルドグリーンのそよ風が交差し、まるで空に生きた巨大な芸術作品が描かれているかのようだった。
そんな賑やかな空の舞を地上から見上げながら、二匹の魔物が堂々たる足取りで庭を歩いていた。
銀色のウルフである『フェル』と、純白のポーションラビットである『ピコ』だ。
彼らは、俺が王都を追放され、この名もなき辺境の森にたどり着いたその日に、一番最初に俺の『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たちである。
出会った当初は、フェルは群れからはぐれた傷だらけの狼であり、ピコはただの臆病な森の小動物に過ぎなかった。しかし今、フェルの銀色の毛並みは月明かりのように美しく気高い光を放ち、その体躯は一回りも二回りも大きくなり、森の王者のような風格を漂わせている。ピコもまた、その小さな体には信じられないほどの敏捷性と強靭な魔力を宿し、仲間たちを癒やす要として立派に成長を遂げていた。
今や彼らは、花纏いの黒豹フロリアや月影の白蛇ルナといった強力な魔物たちからも一目置かれ、新しく生まれた瑠璃色の幼竜ラピスや、紅蓮の精霊狐イグニス、大地の巨熊の幼獣ベルといった幼い魔物たちを優しく導く、頼れる「兄貴分」としてクランの魔物たちを束ねている。
「フェル、ピコ。今日もみんなの面倒を見てくれてありがとうな」
俺ことレインは、縁側に腰掛けながら、足元にすり寄ってきた二匹の頭を順番に優しく撫でた。
「ウォンッ♪」
「キュイッ♪」
フェルは嬉しそうに目を細めて俺の手に頬をすり寄せ、ピコは自慢の長い耳をピクピクと動かして俺の膝の上に飛び乗ってきた。
王都の勇者パーティーにいた頃は、毎朝が息の詰まるようなプレッシャーと冷徹な命令の連続だった。自分がどれだけ尽くしても、誰からも感謝されず「無能」と切り捨てられ、すべての居場所を奪われた。睡眠時間すら削って剣を磨き、魔石を浄化し、食事を作り続けた日々は、ただ泥水のように冷たく苦しいだけのものだった。
だが、今の俺には、こんなにも温かく、かけがえのない家族たちがいる。誰もが互いを尊重し、足りない部分を補い合い、笑顔を交わす。彼らは俺を頼りにしてくれ、俺も彼らを心から愛している。この『絆紋亭』こそが、俺にとっての絶対の帰る場所だった。
「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか。今日は魔力農園の野菜がとびきり美味しく育っているはずだからな」
俺がそう呟くと、フェルとピコは「任せておけ」と言わんばかりに力強く鳴き、ラピスやベルたちを連れて水路の方へと遊びに行かせてくれた。
* * *
一階の広々とした厨房へと降りると、そこにはすでに見習い魔導士のエリス、仕立屋のリナ、元王都特級密偵のシオン、元宮廷料理人のセシル、元聖騎士のフレア、天才錬金術師のノエル、そして昨日新たに仲間となったばかりの流浪の精霊弓士ライラがエプロン姿で立ち、手際よく調理を進めていた。
「あ、レイン様! おはようございますっ!」
「レインさん、おはようございます。今朝も魔力農園のお野菜がキラキラしてますよ。今日は特別なチーズがたくさん手に入ったんです!」
「皆さん、おはようございます! 今朝のメニューは、特製の魔力卵と三種のチーズをふんだんに使った『ふわふわスフレオムレツ』と、自家製ベーコンの厚切りグリル、そしてライラさんが森で採ってきてくれた新鮮な果実を使った特製ジャムのトーストですよ!」
「私も、微力ながらお野菜を切るのをお手伝いさせていただいております!」
「あ、あのっ、おはようございます……。ティタンの火力調整機能を使って、フライパンの温度を完璧に保っています!」
「ふふっ、人間の料理というのは、見ていてとても興味深いですね。精霊の森では木の実や生野菜ばかりでしたから」
七人がそれぞれの持ち場から、明るく温かい笑顔で迎えてくれる。ノエルの背後では、心優しきゴーレムであるティタンが、その巨大な鉄の体で繊細に魔道コンロの火加減を調整していた。
厨房いっぱいに広がるのは、バターがたっぷりと溶けたフライパンで卵が焼ける甘く幸せな香りと、厚切りベーコンから滲み出た肉汁が焦げる暴力的なまでに食欲をそそる匂いだ。セシルが加わったことで、俺の『料理』スキルや『植物知識』との相乗効果が生まれ、クランの食事はもはや開拓地の料理の域を完全に超え、王都の最高級レストランすら凌駕するクオリティに達していた。
巨大な皿に盛りつけられたスフレオムレツは、まるで雲のようにふっくらと膨らんでおり、ナイフを入れると中からとろりとした半熟卵の黄身と、とろける三種の濃厚なチーズが滝のように溢れ出す。その横には、外はカリッと中はジューシーに焼き上げられた厚切りの自家製ベーコンと、シオンが寸分の狂いもなく均等に切り分けた色鮮やかな魔力野菜のサラダがたっぷりと添えられ、フレッシュなトマトとハーブのドレッシングの酸味が食欲をさらに引き立てた。
女戦士のアイラ、少女魔導士のルウ、老薬師のゴット、ドワーフの若き職人ドーラもリビングに集まり、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。
「んんっ! このスフレオムレツ、口の中でシュワっと溶けるねぇ! チーズのコクと卵の甘みが絶妙だ! ベーコンの塩気と合わせると、無限にパンが食えちまうよ!」
アイラが豪快にパンを頬張りながら、目を輝かせる。
「本当によ……セシルが来てから、毎朝の食事が楽しみで仕方がないわ。こんなに美味しいものを毎日食べていたら、王都の貴族たちの食事がどれだけ貧相だったかよくわかるわね」
ルウもうっとりとした表情を浮かべて、オムレツを口に運ぶ。
「このベーコン、野営で食べていた硬い干し肉とは次元が違います……。涙が出るほど美味しいです……!」
フレアは、美しい顔をほころばせながら、信じられないものを見るような目で肉を噛み締めていた。
「……驚きました。精霊の森で数百年生きてきましたが、これほどまでに生命力に溢れ、心を満たす食事は初めてです。レインさんたちの絆が、この料理にも溶け込んでいるのですね」
ライラが、エルフ特有の優雅な所作でトーストをかじりながら、感動の涙を浮かべていた。
テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。ラピスやイグニス、ベルといった幼い魔物たちには、セシルが特別に消化の良い特製ミルク煮込みを作ってくれており、顔を突っ込んで美味しそうに頬張っていた。ソラやライ、ルミナたちも、上質な魔物肉や果実を存分に堪能している。
誰もが満ち足りた顔で、笑い合いながら食卓を囲む。この他愛のない日常の風景こそが、俺にとって何よりの宝物だった。
* * *
和やかな朝食を終え、食後のティータイムを楽しんでいた時のことだ。
俺は、昨日採取してきた『魔力水晶』や、以前から貯まっていた高品質な魔物素材のリストをテーブルに広げた。
「みんな、今日は少しアシュタルの街の市場へ買い出しと売却に行こうと思うんだ」
「買い出しですか? クランの備蓄はまだ十分にあると思いますが」
シオンが首を傾げる。
「ああ。食料やポーションの素材は農園で自給自足できているが、リナが服を作るための特殊な絹糸や、ノエルとドーラが魔道具を作るための精密な金属パーツなんかは、街の商人から買い付けないといけないからな。それに、昨日手に入れた魔力水晶の欠片を売れば、かなりの活動資金になる」
「おっ、街へ行くのかい! アタシも行くよ、最近は森の中ばかりだったから、たまには街の酒場の空気も吸いたいしね!」
アイラが元気よく手を挙げる。
「私も護衛として同行します。王都から流れてきた不届き者が、街に入り込んでいる可能性もありますから」
フレアが真剣な表情で頷いた。
「シオンも情報収集のために来てくれるか? それと、荷物運び兼護衛として、フェルとピコにも付き合ってもらおう」
「了解しました」
「ウォンッ!」
「キュイッ!」
フェルとピコが、久しぶりの俺とのお出かけに嬉しそうに尻尾と耳を揺らした。
こうして、俺、アイラ、フレア、シオンの人間四人と、フェル、ピコという最古参の相棒二匹を連れた買い出しパーティーが結成され、俺たちはアシュタルの街へと向かった。
* * *
アシュタルの街の市場は、いつにも増して大変な活気と、そしてどこか異様な熱気に包まれていた。
本来は辺境の穏やかな街であるはずのアシュタルだが、最近は魔王軍の侵攻から逃れてきた王都の難民や、没落した貴族、さらには治安の悪化に乗じて一儲けしようとする怪しげな商人たちが大量に流れ込んでおり、人口が急激に膨れ上がっているのだ。
そのため、物価は不安定に乱高下し、至る所で小競り合いが起きている。
「なんだか、街の空気が少しピリピリしているわね」
アイラが周囲を見渡しながら眉をひそめる。
「王都からの避難民が増えすぎているんです。衛兵たちも手が回っていないのでしょう」
シオンが深くフードを被りながら、密偵の目で周囲の状況を的確に分析する。
俺たちは目的の金属パーツや絹糸を無事に購入し、魔力水晶の欠片を馴染みのギルド商人に高値で買い取ってもらった。その帰り道、市場の裏通りを通りかかった時のことだ。
「やめてくださいっ! この荷車は私の全財産なんですっ!」
裏通りの薄暗い一角から、若い少女の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
俺たちが駆けつけると、そこでは三人の柄の悪い男たちが、小柄な少女を取り囲んで荷車を蹴り倒そうとしていた。
少女は、亜麻色の髪からピンと尖った猫の耳を生やし、背中にはふさふさの尻尾を持つ、猫の獣人の女の子だった。ボロボロの行商人の服を着ており、倒れそうな荷車を細い腕で必死に押さえている。
「うるせぇな、薄汚い獣人風情が! 俺たちは王都の由緒正しき『バウマン商会』の者だぞ! このアシュタルの市場は、今日から俺たちが仕切ることになったんだ。ここで商売がしたけりゃ、売上の九割を『場所代』として上納しな!」
男たちのリーダー格である、脂ぎった顔の太った商人が、少女の顔に唾を吐きかけるようにして怒鳴り散らした。
「そんな……九割なんて、明日食べるパンも買えなくなってしまいます! それに、私は正当なギルドの許可証を……」
「許可証だと? そんな紙切れ、王都の権力の前じゃケツ拭く紙にもならねえよ! いいからさっさと荷車の金目の物を置いて消えろ!」
太った商人が、少女の髪を乱暴に掴み上げて突き飛ばした。
少女は泥水の中に倒れ込み、「ああっ……私のお薬が……」と、荷車から転げ落ちて割れたポーションの瓶を見て涙を流した。
「おい、その汚い手を引っ込めな」
俺は、怒りで頭が沸騰するのを抑えながら、静かに、だが絶対的な威圧感を込めて男たちの前に立ち塞がった。
「あぁん? なんだてめぇは。俺たち王都の商人に逆らう気か? 痛い目を見たくなかったら、すっこんでろ!」
太った商人が鼻で笑うと、背後に控えていた二人の用心棒が、ニヤニヤと笑いながら剣を抜いた。
だが、彼らが俺に切りかかろうとした瞬間。
「ウォォォンッ!!」
銀色の閃光が、裏通りを駆け抜けた。
フェルだ。
フェルは目にも留まらぬ速度で用心棒たちの懐に飛び込み、その強靭な顎で彼らの剣をいとも容易く『噛み砕いた』。
「なっ……!? はがねの剣が、一瞬で……!?」
驚愕する暇もなく、今度はフェルの背中から純白の弾丸が飛び出した。
「キュイッ!!」
ピコだ。
ピコは小さな体を丸めて錐揉み回転しながら、用心棒の顔面に強烈な『ラビット・キック』を叩き込んだ。
ドゴォッ!という鈍い音と共に、屈強な用心棒二人が白目を剥いて路地のゴミ山へと吹き飛ばされた。
「ひぃぃっ!? な、なんだこの化け物どもは!?」
太った商人が腰を抜かし、後ずさる。
「化け物じゃない。俺の大切な家族だ」
俺は冷たい眼差しで男を見下ろした。アイラが戦斧を肩に担いで凄みを効かせ、フレアが聖剣の柄に手を添えて退路を塞ぐ。
「く、くそっ! 舐めるなよ辺境の田舎者どもが! 俺たち王都の人間が、ただ逃げてきたとでも思ってるのか! やっちまえ、『ポイズン・マンティコア』!!」
太った商人が懐から不気味な笛を取り出して吹き鳴らすと、路地の奥に停められていた巨大な檻を積んだ馬車から、凄まじい咆哮が響き渡った。
檻をぶち破って現れたのは、体長が三メートルを超える、ライオンの体に蝙蝠の翼、そして蠍の猛毒の尾を持つ凶悪な魔物――Bランク上位の『ポイズン・マンティコア』だった。
その首には、以前水晶鳴りの山で見たのと同じ、王都の裏社会の道具である『狂乱の呪具(首輪)』が嵌められており、魔物は理性を失い、ただ目の前の動くものを破壊する殺戮兵器と化していた。
「グガァァァッ!!」
ポイズン・マンティコアが、猛毒の液体を口から撒き散らしながら俺たちへと襲いかかってきた。
「きゃぁぁっ!?」
倒れていた獣人の少女が悲鳴を上げる。
「フレア、シオン! あの少女を庇って下がれ! アイラ、俺たちで迎え撃つぞ!」
「任せな! 王都のクズどもに、辺境の冒険者の恐ろしさを教えてやる!」
アイラが戦斧に闘気を纏わせ、マンティコアの突進を真っ向から受け止める。
ガギィィィンッ!!
凄まじい衝撃音が響き、アイラの足元の石畳が砕け散るが、アイラは一歩も引かない。
「フェル、ピコ! お前たちの力を見せてやれ!」
「ウォンッ!!」
「キュイッ!!」
俺の言葉に応え、フェルの全身から青白い雷光と、竜巻のような風の魔力が立ち昇った。
フェルはもはや、ただのウルフではない。俺の『絆紋』の魔力と、共に過ごした長い時間の中で、その力はAランク魔物すら凌駕する領域に達していた。
フェルはアイラと交刃しているマンティコアの死角へと瞬時に回り込み、雷を纏った前足で強烈な一撃を叩き込んだ。
『白銀の迅雷』!
「グギャァァァッ!?」
マンティコアが雷の衝撃に悲鳴を上げ、体勢を大きく崩す。
そこへ、ピコが跳躍した。
ピコの体から、淡い翠色の光――俺の『野戦調薬』の魔力を受け継いだ、浄化と治癒の光が溢れ出す。
ピコは空中で体を捻り、マンティコアの首に嵌められた『狂乱の首輪』に狙いを定めて、光を纏った強烈な両足蹴りを放った。
『浄化の月面蹴り(ホーリー・ムーン・キック)』!
パキィィィンッ!!!
ピコの蹴りが首輪に命中した瞬間、浄化の魔力が首輪の闇の魔力を一瞬で相殺し、呪具は粉々に砕け散った。
「グォ……?」
首輪が壊れたことで、ポイズン・マンティコアの瞳から狂気の赤い光が消え去り、どさりとその場に崩れ落ちた。
「すごい……! あんな恐ろしい魔物を、一瞬で……!」
保護されていた獣人の少女が、目を丸くして震えていた。
「ひぃぃっ!? ば、化け物だ! お前ら、人間じゃねぇ!」
太った商人が恐怖で顔を青ざめさせ、這いつくばって逃げようとする。
「逃がしません」
シオンが瞬時に男の背後に回り込み、冷たい刃を首筋に当てて動きを封じた。
「衛兵を呼んできます。王都の権力を笠に着た違法な魔物使役と、恐喝の罪。辺境の法の下で、たっぷりと裁きを受けてもらいましょう」
数分後。騒ぎを聞きつけたアシュタルの衛兵たちが駆けつけ、太った商人と用心棒たちは全員縛り上げられて連行されていった。
正気を取り戻したポイズン・マンティコアは、俺の『絆紋』の光で傷を癒やしてやると、深く頭を下げて感謝の意を示し、そのまま森の奥へと帰っていった。今回は呪具で操られていただけであり、本来は群れを持たず森の奥で静かに暮らす魔物だ。俺たちの家族になるというよりは、森の良き隣人として生きていくことを選んだのだ。
* * *
「あの……本当に、ありがとうございました。助けていただかなければ、私……」
騒ぎが収まった後。猫の獣人の少女は、壊れた荷車の前で深く頭を下げた。
「気にしなくていい。俺はレイン。絆紋亭のマスターだ。君の名前は?」
「私は『ミーア』と申します。王都の商人ギルドで下働きをしていましたが、獣人というだけで不当な扱いを受け、自分の店を持つ夢を叶えるために、全財産をはたいてこの辺境にやってきました。でも……」
ミーアは、無惨に壊された荷車と、売り物であったポーションや布の残骸を見て、ポロポロと涙をこぼした。
「荷車も壊れて、売り物もダメになって……。私、もうどうやって生きていけばいいのか……」
その言葉に、俺の胸の奥がギュッと締め付けられた。
理不尽に居場所を奪われ、夢を踏みにじられる絶望。それは、かつての俺が嫌というほど味わったものだった。
「ミーア。……帰る場所がないなら、うちのクランの『専属商人』にならないか?」
「えっ……?」
ミーアが涙で濡れた顔を上げる。
「うちのクランには、最高のポーションを作れる薬師もいれば、すごい魔道具を作るドワーフと錬金術師もいる。それに、魔力農園で採れた極上の野菜や、今日みたいに高品質な魔物素材もどんどん手に入るんだ。でも、俺たちはみんな作るのが専門で、それを適正な価格で売り捌いたり、必要な物資を買い付けたりする『商売のプロ』がいなくて困っていたんだ」
俺が手を差し出すと、アイラやフレア、シオンも優しく微笑んで頷いた。
「フェルもピコも、君のことが気に入ったみたいだぞ」
「ウォンッ♪」
「キュイッ♪」
フェルがミーアの頬を優しく舐め、ピコがミーアの腕の中に飛び込んでスリスリと甘えた。
「あ……あぁ……っ!」
ミーアは、俺の差し出した手と、温かい仲間たちの姿を見て、声を上げて泣き崩れた。それは絶望の涙ではなく、安堵と希望の涙だった。
「……はいっ! 私、レイン様と皆様のために、一生懸命、商売を頑張りますっ!!」
こうして、猫耳の行商人であるミーアが、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。
* * *
その日の夕暮れ。
街で新しい荷車を購入し、ミーアを連れて、俺たちはアシュタルの拠点へと帰還した。
拠点では、エリス、ゴット、ドーラ、ノエル、セシル、そしてライラたちが温かく出迎えてくれ、新しい仲間の加入に拠点中が歓喜の声を上げた。特にゴットとノエルは、「これで自分たちの作ったポーションや魔道具が世に出せる!」と大喜びしていた。
そして夜。
庭の虹色の天蓋の下、精霊樹の優しい光に照らされながら、ミーアの歓迎会が開かれた。
セシルが腕を振るった極上の料理がテーブルを埋め尽くす。魔力農園の野菜を使った色鮮やかなマリネ、肉汁溢れる特大のロースト、そしてマシロの氷室で冷やした絶品のチーズケーキ。
「ミーア! うちのクランへようこそ! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」
アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。
「は、はいっ! ありがとうございます! ……このお料理、本当に涙が出るほど美味しいです……!」
ミーアは、猫耳をピコピコと動かしながら、初めて味わう温かくて美味しい料理に夢中で頬張っていた。
テラスでは、ソラやフェル、ライ、ルミナたち魔物組が、ダイヤの巨大な甲羅の上に乗って遊び、ラピスやイグニス、ベルといった幼い仲間たちが、ライラの弾く竪琴の美しい音色に合わせて楽しそうに踊っている。シーナが精霊の池から美しい歌声を響かせ、ティタンがその手拍子に合わせてゆっくりと体を揺らしていた。
賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。
王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失った俺の周りには、今、これほどまでに頼もしく、温かい家族たちがいる。
急ぐ必要なんてない。俺たちの絆は、この満天の星空のように、どんな暗闇でも決して色褪せることなく、この辺境の地で永遠に輝き続けていくのだから。
星降る夜の下、笑い声と美しい音楽が、いつまでも絶えることなく響き渡っていた。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者 / 導きの光
Lv:43
HP:450 / 450
MP:250 / 250
【スキル】
・生活魔法 Lv.10(極まる)
・剣術 Lv.3
・解体 Lv.8
・野営技術 Lv.10(極まる)
・野戦調薬 Lv.10(極まる)
・植物知識 Lv.10(極まる)
・建築・修繕 Lv.10(極まる)
・鑑定 Lv.7
・気配察知 Lv.9
・魔導知識 Lv.9
・料理 Lv.10(極まる)
【固有スキル】
・絆紋:対象の魔物(および心を持つ存在)と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちと精霊樹の魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の絶対結界を形成している。
【クラン『絆紋亭』メンバー】
・空色小竜:絆レベル5
・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5(※強敵との戦闘により戦闘能力が大幅に進化)
・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5(※強敵との戦闘により戦闘能力が大幅に進化)
・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル5
・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル5
・クリア・スライム(スイ):絆レベル5
・宝石蜘蛛:絆レベル5
・雷鳴の怪鳥:絆レベル5
・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル5
・水妖の獺:絆レベル5
・氷雪の幻獣:絆レベル5
・黄金の天馬:絆レベル5
・花纏いの黒豹:絆レベル5
・月影の白蛇:絆レベル5
・人魚の少女:絆レベル5
・瑠璃色の幼竜:絆レベル5
・紅蓮の精霊狐:絆レベル5
・翡翠の風呼び(シルフィ):絆レベル5
・大地の巨熊の幼獣:絆レベル5
・心優しきゴーレム(ティタン):絆レベル5
・虹水晶の巨亀:絆レベル4(※絆深化)
・ウールシープの群れおよび森の小動物たち
・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)
・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)
・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)
・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)
・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)
・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)
・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)
・セシル(元宮廷料理人・クラン専属料理人)
・フレア(元聖騎士・クラン専属護衛担当)
・ノエル(天才錬金術師・クラン専属錬金術師)
・ライラ(流浪の精霊弓士・クラン専属狩人)
・ミーア(猫耳の行商人・クラン専属商人として新規加入)
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