第38話 星屑の廃坑と、天才錬金術師
第38話 星屑の廃坑と、天才錬金術師
辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今日という日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。
庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、日を追うごとにその存在感を増し、今や拠点の要として太く力強い幹を天へと伸ばしている。その豊かに茂った枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、庭全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。
宝石蜘蛛のルリが編み上げた虹色の天蓋を透過して降り注ぐ朝日は、精霊樹の放つ淡い翠色の光と見事に混ざり合い、視界に入るものすべてをきらきらと輝かせている。魔力農園で育つ野菜たちは、その恩恵を受けて、朝ごとに一回りも二回りも大きく、鮮やかに色づき、はち切れんばかりの生命力を誇示していた。
「きゅるるーっ!」
「ウォンッ!」
「ピィィィッ!」
「ヒンッ♪」
「ルルゥッ♪」
「シャァンッ♪」
「きゅあぁっ♪」
「キュゥッ♪」
澄み切った青空を背景に、空色小竜のソラ、雷鳴の怪鳥ライ、黄金の天馬ルミナが楽しげに上空を旋回している。ルミナの放つ神聖な黄金の光、ライの纏う青白い雷光、そしてソラの美しい空色の鱗が交差し、まるで空に生きた巨大な芸術作品が描かれているかのようだった。
その三つの美しい影を追いかけるように、地上では銀色のウルフであるフェルが、花纏いの黒豹フロリアと並んで軽やかに駆け回っていた。フェルの背中には、初期からの相棒である純白のポーションラビットのピコがちょこんと乗り、風を切る感覚を楽しそうに味わっている。そしてその後ろを、生まれたばかりの瑠璃色の幼竜ラピスと、紅蓮の精霊狐イグニスが、よちよちと、しかし元気いっぱいに追いかけていた。
縁側の特等席では、クリスタル・ゲッコーのルチルが鉱石の鱗を虹色に輝かせて日向ぼっこをし、精霊獣のミエルは優雅な足取りで精霊樹の周りを散歩している。クリア・スライムのスイと水妖の獺ミロは、庭に引かれた清らかな水路の中でパチャパチャと水を掛け合って遊び、人魚の少女シーナが、新設された『精霊の池』から嬉しそうに美しい歌声を響かせながらその様子を眺めていた。
氷雪の幻獣マシロは、心地よい冷気を放ちながらミエルの足元で丸くなり、影猫のクロはシオンの肩の上からその平和な光景を眺め、月影の白蛇ルナは精霊樹の太い枝にその美しい銀白の体を巻きつけて、穏やかに目を細めていた。
「おはよう、みんな。今日も最高の天気だな」
俺ことレインは、フェルとピコ、そして足元にすり寄ってくるラピスとイグニスを順番に優しく撫でながら、自然と口元を緩めた。
王都の勇者パーティーにいた頃は、毎朝が息の詰まるようなプレッシャーと冷徹な命令の連続だった。自分がどれだけ尽くしても、誰からも感謝されず「無能」と切り捨てられ、すべての居場所を奪われた。
だが、今の俺には、こんなにも温かく、かけがえのない家族たちがいる。誰もが互いを尊重し、足りない部分を補い合い、笑顔を交わす。この『絆紋亭』こそが、俺にとっての絶対の帰る場所だった。
「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか。今日は魔力農園の野菜がとびきり美味しく育っているはずだからな」
俺がそう呟くと、魔物たちは嬉しそうに歓声を上げ、それぞれの持ち場へと散っていった。
* * *
一階の広々とした厨房へと降りると、そこにはすでに見習い魔導士のエリス、仕立屋のリナ、元王都特級密偵のシオン、元宮廷料理人のセシル、そして元聖騎士のフレアがエプロン姿で立ち、手際よく調理を進めていた。
「あ、レイン様! おはようございますっ!」
「レインさん、おはようございます。今朝も魔力農園のお野菜がキラキラしてますよ。特にトマトが真っ赤で美味しそうです!」
「レインさん、おはようございます。お肉とハーブの仕込みは完了しています」
「皆さん、おはようございます! 今朝のメニューは、特製の魔力小麦を使った焼きたてのチーズフォカッチャと、具沢山のポトフですよ!」
「私も、微力ながらお野菜を切るのをお手伝いさせていただいております!」
五人がそれぞれの持ち場から、明るく温かい笑顔で迎えてくれる。
厨房いっぱいに広がるのは、オリーブオイルとチーズが焼ける香ばしい香りと、厚切りのベーコンとたっぷりの野菜が煮込まれる食欲をそそる匂いだ。セシルが加わったことで、俺の『料理』スキルや『植物知識』との相乗効果が生まれ、クランの食事はもはや開拓地の料理の域を完全に超え、王都の最高級店すら凌駕するクオリティに達していた。
石窯の魔道コンロから取り出されたチーズフォカッチャは、表面のチーズがカリッと焦げ目をつけ、中はもっちりとした極上の仕上がり。ポトフには、シオンが寸分の狂いもなく均等に切り分けたニンジンやジャガイモ、そしてフレアが丁寧にアクを取ってくれた特製ブイヨンが使われ、野菜の自然な甘みがスープに溶け出して黄金色に輝いている。
アイラ、ルウ、ゴット、ドーラもリビングに集まり、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。
「んんっ! このフォカッチャ、口の中でチーズの旨味が爆発するねぇ! ポトフの野菜もホクホクで最高だ!」
アイラが豪快にパンをちぎりながら、目を輝かせる。
「本当によ……セシルが来てから、毎朝の食事が楽しみで仕方がないわ。このスープ、体に染み渡るわね」
ルウもうっとりとした表情を浮かべる。
「ほっほっほ、このポトフは野菜の魔力がたっぷりと溶け込んでおる。これ一杯で、並のポーションよりもよっぽど元気になるわい」
ゴットも満足そうに髭を撫でた。
テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。ラピスやイグニスといった幼い魔物たちには、セシルが特別に消化の良いミルク煮込みを作ってくれており、二匹とも顔を突っ込んで美味しそうに頬張っていた。
誰もが満ち足りた顔で、笑い合いながら食卓を囲む。この他愛のない日常の風景こそが、俺にとって何よりの宝物だった。
* * *
和やかな朝食を終え、食後のティータイムを楽しんでいた時のことだ。
ドワーフの少女職人であるドーラが、少し真剣な顔つきで俺に話しかけてきた。
「レイン、ちょっと頼みがあるんだけどいいかい?」
「ん? どうした、ドーラ。工房の設備で足りないものでもあるのか?」
「いや、設備は最高なんだけどね。実は、ゴットじいさんと共同で、新しい魔道具と特級ポーションの開発を進めてるんだ。だけど、どうしても『星屑の鉱石』っていう特殊な素材が必要でさ」
「星屑の鉱石か……。確か、魔力を純粋なまま増幅・保存できる極めて希少な鉱石だったな」
俺の『魔導知識』がその名前に反応する。
「そうなんじゃ」とゴットが頷く。「その鉱石があれば、さらに強力な結界具や、万能薬の精製が可能になる。しかし、王都周辺ではすでに枯渇しており、辺境でも滅多に見つからん代物でのう」
「アシュタルの近くに、心当たりはあるのか?」
俺が尋ねると、シオンがスッと手を挙げた。
「アシュタルの北西に位置する『嘆きの廃坑』。あそこなら、可能性はあります。かつては豊かな魔鉱石の産地でしたが、強力な魔物が住み着いたため、数十年前から放棄されている場所です」
「嘆きの廃坑か。あそこは迷宮のように入り組んでいて、毒性のガスが溜まっている場所もあると聞く。だが、ルチルがいれば鉱石の脈を正確に見つけ出せるし、俺の野戦調薬で毒への対策も可能だ」
「よし、行こう。クランの設備と防衛力を高めるためにも、その鉱石は手に入れておきたい」
俺が立ち上がると、アイラがニヤリと笑って戦斧を担いだ。
「もちろんアタシも行くよ! 廃坑の魔物なんて、アタシの斧で一掃してやる!」
「私も同行します。閉鎖空間での魔法戦なら、私の氷魔法が役立つはずよ」
ルウも杖を構える。
「護衛は私とシオンにお任せください。どんな暗闇でも、お守りします」
フレアが聖剣の柄に手を添え、シオンも深く頷いた。
「よし、今回の探索パーティーは俺、アイラ、ルウ、シオン、フレアだ。魔物は、鉱石探知のルチル、索敵のフェルとクロ、そして空気の浄化と冷気による防毒が可能なマシロを連れて行く。エリス、ゴットさん、ドーラたちは、拠点の防衛と新しい家族たちの世話をお願いできるか?」
「はいっ! ラピスちゃんとイグニスちゃんの面倒は、私にお任せください!」
エリスが元気に返事をした。
こうして、星屑の鉱石を求めて、俺たちはアシュタルの北西にある『嘆きの廃坑』へと出発した。
* * *
アシュタルの街から馬車と徒歩で三時間ほど。
木々が枯れ果て、荒涼とした岩山の中腹に、ぽっかりと口を開けた巨大な洞窟の入り口があった。そこが『嘆きの廃坑』だ。
入り口からすでに、カビと湿気、そして微かに硫黄のような毒ガスの匂いが漂ってきている。
「うわ……中から冷たくて嫌な空気が流れてくるわね。暗くて気味が悪いわ」
ルウが身震いしながら、杖の先に小さな光の球を灯す。
「シオン、クロ、周囲の警戒を。フェルは魔物の匂いを追ってくれ。マシロ、周囲の空気を少し冷やして、毒ガスを中和してくれ」
「了解です。クロ、影の探知を広げて」
「にゃっ!」
「キュゥ♪」
マシロが額の青い宝石を輝かせると、冷たく清浄な冷気が俺たちの周囲を包み込み、嫌な匂いを完全に遮断してくれた。
廃坑の中は、まるでアリの巣のように複雑に入り組んでいた。しかし、クリスタル・ゲッコーのルチルが、壁のわずかな魔力残滓を感知し、虹色に輝く鱗を明滅させながら正確に先導してくれる。
「キュピルッ!」
ルチルが立ち止まり、壁の一部を指差すように鳴いた。
「おお、ここか。アイラ、少し壁を砕いてみてくれないか?」
「任せな!」
アイラが戦斧の柄で壁を叩き割ると、その奥からキラキラと星空のように瞬く美しい鉱石が顔を出した。
「これが星屑の鉱石……! すごい魔力量ね、見ているだけで吸い込まれそうだわ」
ルウが感嘆の声を上げる。
俺たちは順調に鉱石を採取し、収納袋を満たしていった。
だが、廃坑のさらに深部へと進もうとした時だった。
「ウォンッ!!」
「にゃぁっ!」
フェルとクロが同時に足を止め、前方の暗闇に向かって鋭い警戒の唸り声を上げた。
「……レインさん、前方から人間の気配がします。それも、複数。一人は必死に逃げていて……残りは、殺気を持った追手です」
シオンが瞬時に短剣を抜き放ち、声を潜めた。
「人間同士の争いか。……こんな廃坑の奥深くで?」
俺たちは気配を殺し、ルウの灯りを消して、慎重に前進した。
やがて、少し開けた巨大な採掘場に出た。
そこでは、一人の小柄な少女が、息を切らしながら岩陰に追い詰められていた。
灰色のくせっ毛に、ススで汚れた丸い眼鏡。ぶかぶかの作業着のようなコートを羽織ったその少女は、恐怖に顔を歪めながらも、背後に庇うようにして『大きな金属の塊』を守っていた。
その金属の塊は、人間の形を模した巨大な機械人形――『ゴーレム』だった。しかし、そのゴーレムはあちこちの部品が欠落し、片腕は失われ、機能停止しているように見えた。
「往生際が悪いぞ、ノエル! さっさとその『試作型ゴーレム』の設計図と起動キーをよこせ! お前のような孤児を王都の錬金ギルドで拾って育ててやった恩を忘れたか!」
少女を追い詰めていたのは、豪奢な服を着た強欲そうな男と、その周囲を固める十人以上の武装した悪徳傭兵たちだった。
「嫌だ……! この子を……ティタンを、あなたたちの兵器になんかさせない! 錬金術は、人を傷つけるためのものじゃない!」
ノエルと呼ばれた少女は、涙を流しながらも必死にゴーレムを庇い続けた。
「チッ、聞き分けのないガキだ。お前が持つ『錬金術の才能』は惜しいが、逆らうなら死体から設計図を奪うまでだ。やれ!」
強欲な男が指示を出すと、傭兵たちが下卑た笑いを浮かべながら剣を抜き、少女へと歩み寄った。
「そこまでだ、外道ども!!」
俺の怒りが頂点に達するより早く、アイラとフレアが飛び出していた。
「オラァッ!! 弱い者いじめしかできないクズどもが、アタシの斧の錆になりな!」
アイラの戦斧が凄まじい風圧を伴って振り下ろされ、傭兵たちの前衛数人をまとめて吹き飛ばす。
「聖なる光よ、邪悪を退けよ!『ホーリー・スラッシュ』!」
フレアの聖剣が眩い光を放ち、傭兵たちの武器を一瞬で両断した。
「な、なんだ貴様らは!? 我々は王都錬金ギルドの正規の取り立てだぞ!」
男が狼狽えて後ずさる。
「ルウ、シオン、一気に制圧しろ!」
「エリスちゃんがいなくても、私一人で十分よ!『フレイム・バースト』!」
ルウの放った灼熱の炎が傭兵たちの足元で爆発し、陣形を完全に崩す。
「了解です! クロ、影縛り!」
「にゃぁっ!」
シオンが影から影へと跳躍し、男たちの死角から次々と短剣の峰打ちで気絶させていく。クロが『シャドウ・バインド』で彼らの影を縫い付け、逃げ道を完全に塞いだ。
「ウォォォンッ!!」
フェルが雷のような速度で駆け抜け、残った傭兵たちの武器を強力な顎で噛み砕いた。
圧倒的な実力差。王都で腐敗した権力に甘んじていた傭兵たちなど、今の俺たちの連携の前では赤子同然だった。数分のうちに、強欲な男を含むすべての追手が地面に這いつくばることとなった。
* * *
「大丈夫か?」
俺は武器を収め、岩陰で震えている少女、ノエルへとゆっくり近づいた。
「あ、あなたたちは……?」
「俺は絆紋亭のレイン。ただの通りすがりの冒険者だ。もう大丈夫だ、追手は全員無力化した」
俺が微笑みかけると、ノエルはその場にへたり込み、安堵の涙をぽろぽろとこぼした。
「ありがとう……ございます……。私、王都の錬金ギルドから逃げてきて……この子を、兵器にされそうになって……」
ノエルは、背後にある壊れかけのゴーレムに縋り付くようにして泣きじゃくった。
「このゴーレム……すごい精巧な作りだ。これ、君が作ったのか?」
俺が驚いて尋ねると、ノエルはコクリと頷いた。
「はい。私は、命を宿すような、人に寄り添う優しいゴーレムを作りたくて……この『ティタン』を作りました。でも、ギルドの大人たちは、ティタンの出力を見て、これに強力な破壊兵器を搭載して軍に売り飛ばそうとしたんです。だから、私はティタンの起動キーを抜いて、一緒に逃げてきました……」
その言葉に、俺とシオン、フレアは顔を見合わせた。
王都の腐敗。才能ある若者を道具としてしか見ず、その純粋な思いを踏みにじる大人たち。彼女もまた、俺たちと同じように居場所を奪われた被害者だったのだ。
その時だった。
「ギ……ギギギ……」
突如として、機能を停止していたはずのゴーレム・ティタンの胸の奥から、不気味な赤い光が漏れ出し、機械の軋む音が響き始めた。
「えっ!? ティタン!? 起動キーは抜いてあるはずなのに……!」
ノエルが青ざめる。
「まずい! 錬金ギルドの連中が、逃げられた時のために自爆用の『暴走回路』を仕込んでいたんだ!」
俺の『魔導知識』が、ゴーレムから漏れ出す異常な魔力の膨張を警告していた。
「ギィィィンッ!!」
ティタンの目が赤く染まり、残された片腕を振り上げて、最も近くにいたノエルに襲いかかろうとした。
「危ないっ!」
フレアが飛び出そうとするが、距離が近すぎる。
俺は思考するより早く、ティタンの懐へと飛び込んでいた。
「ティタン、やめろ! 彼女は君を作ったお母さんだぞ!」
俺は両手を広げ、右手の甲にある翠色の痣――『絆紋』の光を限界まで解放した。
翠色の温かな波紋が、暴走する機械の体に直接流れ込んでいく。
ゴーレムは魔物ではない。ただの無機物だ。だが、ノエルが愛情を込めて作り上げたこのティタンには、微かではあるが、間違いなく『心』と呼べるものが宿っていた。
絆紋の波動が、ティタンの奥底に眠るその純粋な意識に届く。
(……お母、さん……まも、る……。でも、からだが……あつい……こわしたく、ない……!)
俺の脳内に、機械のノイズ混じりの、しかし確かにノエルを想う悲痛な感情が流れ込んできた。
「大丈夫だ。君は誰も傷つけない。俺が直してやる」
俺は『野戦調薬』のポーションと『生活魔法』、そして『建築・修繕』のスキルを融合させ、絆紋の浄化の光と共にティタンの胸の装甲の隙間に手をねじ込んだ。
暴走回路の熱で俺の手に火傷が走るが、構わずに原因となっている黒い魔石を掴み取り、強引に引き抜いた。
「ふんっ!!」
バチバチッ!と火花が散り、ドス黒い魔石が砕け散る。
同時に、ティタンの目から赤い光が消え、暴走状態がスゥッと静まり返った。ティタンはその巨大な体をゆっくりと崩し、ノエルの前で膝をつくようにして停止した。
「ティタン……! ティタン!」
ノエルが泣きながらゴーレムに抱きつく。ティタンの残された片腕が、不器用に、しかし優しくノエルの背中を撫でた。
(……お母、さん……なかない、で……)
「すごい……無機物であるゴーレムの暴走まで止めてしまうなんて……。レインさんの『絆紋』は、愛情が込められたものなら何でも心を通わせられるのですね」
シオンが感嘆のため息を漏らす。
「ノエル。帰る場所がないなら、うちのクランに来ないか?」
俺が手を差し出すと、ノエルは涙で濡れた顔を上げ、丸い眼鏡の奥の瞳を見開いた。
「えっ……?」
「うちには、腕利きのドワーフの鍛冶師もいるし、どんな魔法でも教えてくれる魔導士もいる。何より、君の才能を兵器なんかに使わせない、優しい家族たちが待ってる。ティタンの修理も、みんなで手伝うよ」
俺の言葉に、アイラやルウ、フレアたちも温かく頷き、フェルやマシロがノエルの足元に優しくすり寄った。
ノエルは、俺の差し出した手と、ティタンの温かい鉄の温もりを感じながら、満面の笑みを浮かべた。
「……はいっ! 私、皆さんと一緒に、もっともっと優しい錬金術を研究したいです!」
こうして、天才錬金術師の少女ノエルと、心を持ったゴーレム・ティタンが、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。
* * *
その日の夕暮れ。
大量の『星屑の鉱石』と、新しい家族であるノエルとティタンを連れて、俺たちはアシュタルの拠点へと帰還した。
(錬金ギルドの追手たちは、廃坑の奥に縛り付けて放置した。彼らが自力で王都へ帰る頃には、二度と辺境に近寄る気は起きないだろう。)
拠点では、エリス、ゴット、ドーラ、リナ、セシルたちが温かく出迎えてくれ、新しい仲間の加入に拠点中が歓喜の声を上げた。特にドーラは、ティタンの精巧な作りに目を輝かせ、すぐにノエルと意気投合して修理の計画を立て始めていた。
そして夜。
庭の虹色の天蓋の下、精霊樹の優しい光に照らされながら、ノエルとティタンの歓迎会が開かれた。
セシルが腕を振るった極上の料理がテーブルを埋め尽くす。魔力農園の野菜を使った色鮮やかなサラダ、肉汁溢れる特大のロースト、そしてマシロの氷室で冷やしたフルーツタルト。
「ノエル! ティタン! うちのクランへようこそ! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」
アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。
「は、はいっ! ありがとうございます! このお肉、すごく美味しいです……!」
ノエルは、初めて味わう温かくて美味しい料理に、涙を浮かべながら夢中で頬張っていた。ティタンも、専用に調整された魔力オイルを嬉しそうに補給している。
テラスでは、ソラやフェル、ライ、ルミナたち魔物組が、ラピスやイグニスといった幼い仲間たちと一緒に遊び回り、シーナが精霊の池から美しい歌声を響かせている。
賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。
王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失った俺の周りには、今、これほどまでに頼もしく、温かい家族たちがいる。
急ぐ必要なんてない。俺たちの絆は、この星屑の鉱石のように、どんな暗闇でも決して色褪せることなく、この辺境の地で永遠に輝き続けていくのだから。
満天の星空の下、笑い声がいつまでも絶えることなく響き渡っていた。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者 / 導きの光
Lv:41(※ゴーレムの暴走停止とノエルの救出によりアップ)
HP:430 / 430
MP:230 / 230
【スキル】
・生活魔法 Lv.10(極まる)
・剣術 Lv.3
・解体 Lv.8
・野営技術 Lv.10(極まる)
・野戦調薬 Lv.10(極まる)
・植物知識 Lv.10(極まる)
・建築・修繕 Lv.10(※ティタンの応急修理により極まる)
・鑑定 Lv.6
・気配察知 Lv.8
・魔導知識 Lv.8(※レベルアップ)
・料理 Lv.10(極まる)
【固有スキル】
・絆紋:対象の魔物(および心を持つ存在)と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちと精霊樹の魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の絶対結界を形成している。
【クラン『絆紋亭』メンバー】
・空色小竜:絆レベル5
・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5
・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5
・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル5(※星屑の鉱石探知で大活躍)
・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル5
・クリア・スライム(スイ):絆レベル5
・宝石蜘蛛:絆レベル5
・雷鳴の怪鳥:絆レベル5
・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル5
・水妖の獺:絆レベル5
・氷雪の幻獣:絆レベル5
・黄金の天馬:絆レベル5
・花纏いの黒豹:絆レベル5
・月影の白蛇:絆レベル5
・人魚の少女:絆レベル5(※絆深化)
・瑠璃色の幼竜:絆レベル4(※絆深化)
・紅蓮の精霊狐:絆レベル4(※絆深化)
・ウールシープの群れおよび森の小動物たち
・心優しきゴーレム(ティタン):新規合流 / 絆レベル3
・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)
・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)
・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)
・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)
・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)
・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)
・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)
・セシル(元宮廷料理人・クラン専属料理人)
・フレア(元聖騎士・クラン専属護衛担当)
・ノエル(天才錬金術師・クラン専属錬金術師として新規加入)
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