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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第130話 後世への継承と、鋼の絆

第130話 後世への継承と、鋼の絆

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、『絆紋公国』の中心地であるこの場所は、極北の絶望的な脅威が去り、さらには旧魔王城の地下で胎動していた最大の特異点を完全に封印したことで、かつてないほどの清浄な気と、穏やかな調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ巨大な精霊樹は、深淵の虚無や魔王の怨念を完全に浄化した極上の光をたっぷりと吸収し、もはや一つの大森林と見紛うほどの神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 彼らの後に続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライたちが一斉に集まってくる。

 さらに極北の遠征や各地の迷宮で家族となった数え切れないほどの魔物たち。次元を司る星天の神狼シリウスや、時空の鯨クジラ、次元の螳螂カマ、星喰いのバク、星の精霊であるルミ、コア、ジュジュ。虚無の暴食者から浄化され生まれ変わった虚空の精霊ゼロ、時空猫のチク、星屑の幼竜アストラ。

 そして連日の日課である救済活動や探索で新たに仲間となった琥珀の狐コハク、翠玉の螳螂ジェイド、紫水晶の蝶アメ、鋼角の猛牛バフォ、晶翼の蜻蛉トン、地揺らしの穴熊アナ、癒水の精霊シズク、土塊の猪ブブ、豊穣の案山子ワラ、蜜の妖精蜂ハチ、水水晶の亀スイショウ、蜃気楼の狐キロ、オアシスの蓮妖精ハス、幻聴鳥のルリ。

 先日の残党狩りや旧魔王城での決戦で救い出した、聖騎士の霊鎧レイ、鎮魔の石獣ガルド、導きの聖犬ルプス。蒼炎の霊虎ヒエン、地熱の霊亀マグ、氷晶の霊鷹ヒョウ、恩寵の灰精霊ハイ。そして浄化された旧魔王城の聖域から生まれ出た、浄土の白鹿シロ、光輪の白梟リン、聖泉の水精ウルたちも、すっかり拠点に馴染み、わらわらと俺の周囲に集まり、心地よさそうに喉を鳴らしている。

「おはよう、みんな。今日もいい天気だな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、尻尾を振って応えた。庭の奥では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエン、鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグ、砂塵の魔蠍ゼットといった大型組も、朝の日差しを浴びて気持ちよさそうに背伸びをしている。平和な空気が、この庭には満ち溢れていた。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスと元宮廷料理人のセシルが、賑やかな声を上げた。

 ダイニングルームの巨大なテーブルには、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのハチミツがけパンケーキ』に、農学者セリーヌが育てた新鮮な野菜を使った『具沢山のコンソメスープ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『極上オーク肉の厚切りステーキ』が並べられている。

「ガハハ! 今日も飯が美味いねぇ! 旧魔王城での大一番を終えて、これで世界も本当に平和になったって実感できるよ!」

 女戦士のアイラが、ステーキを豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。とはいえ、世界にはまだ自分の欲望のために他者を踏みにじる愚か者や、残党たちが隠れ潜んでいます。最後まで気を抜くわけにはいきませんわ」

 少女魔導士のルウも、優雅にスープを飲みながら微笑んだ。

「その通りです。悪の根は、深く張る前に断ち切る。我が剣はいつでも抜けるよう研ぎ澄ませてあります」

 剣聖シルヴィアが静かに紅茶のカップを置いた。

憂いを断つための会議と、後世への継承

 朝食を終えた俺たちが執務室へ向かうと、そこにはアシュタル辺境国のアルベルト国王、首席文官のエレナ、特級密偵のシオン、騎士団長レオン。そして新たに陣営に加わった若き領主クレア、魔法生物学者のヴェイン博士、封印術士のノクト、千年の眠りから覚めた結界師リリィなど、公国を支える主要な面々が勢揃いしていた。

「レイン様、おはようございます。旧魔王城の特異点封印、本当にお疲れ様でした。世界中の魔力異常は完全に沈静化し、今は驚くほどマナが安定しております」

 エレナが深く一礼し、分厚い羊皮紙の束をテーブルに広げた。

「ですが、本日は今後の我が国の『真の防衛方針』について、皆様と重要な協議を行いたいと思います」

「真の防衛方針?」

 俺が首を傾げると、アルベルト国王が重々しく口を開いた。

「うむ。レイン殿の『絆紋』の力と、ここにいる皆の奮闘により、この世界は二度も滅亡の危機から救われた。極北の虚無も、旧魔王城の怨念も完全に消え去った。……だが、魔王軍の残党や、私腹を肥やそうとする悪政貴族、悪徳商人といった『人間の悪意』が残っている限り、数百年、数千年後に再び同じような特異点が発生しないとも限らない」

 その言葉に、千年前からやってきたリリィが静かに頷いた。

「はい。人間の負の感情や、行き場を失った怨念は、長い時間をかけて澱のように溜まり、やがて強大な悪意の器を生み出します。私が生きた時代からそうでした。武力で一度悪を討ち果たしても、人々の心に『調和』と『絆』の大切さが根付かなければ、歴史はまた悲劇を繰り返してしまいます」

「そこでだ」

 アルベルト国王が、力強い視線を俺に向けた。

「我がアシュタル辺境国は、レイン殿が築き上げたこの『絆紋公国』の歩み、魔物たちとの絆、そして正しき歴史を後世へ永遠に語り継ぐための編纂事業に、国の全予算を投じようと思う。名付けて、『絆紋公国物語』の編纂だ」

「絆紋公国物語……俺たちの物語を、歴史書として遺すってことですか」

「単なる歴史書ではありません」

 エレナが眼鏡を光らせた。

「これは『人類の継承』です。なぜ世界は滅びかけたのか。なぜ『絆』が世界を救ったのか。それを教育として世界中に広め、誰もが当たり前のように他者を思いやり、魔物と共生する心を育む。それが、再び魔王のような存在をこの世界に生み出さないための、最大の防壁となるのです」

「編纂の人選と執筆は、全て我がアシュタル辺境国が責任を持って請け負おう。レイン殿たちは、これまで通り目の前の民を救い、世界を開拓し続けてほしい」

 アルベルト国王の言葉に、俺は深く感動を覚えた。

「ありがとうございます。俺たちの背中を、後世の人々に託せるなんて、これほど心強いことはありません」

「ガハハ! アタシの武勇伝もたっぷり書いてもらうんだね!」

「もちろん、皆様の活躍は余すことなく記録させていただきますわ」

 エレナが微笑む。

「では、歴史の編纂と後進の教育はアシュタルにお任せするとして、我々の当面の動きについて報告します」

 シオンが地図を広げた。

「依然として、各地で魔王軍残党の小規模なアジトや、これに結託して暴利を貪る悪徳商人たちの暗躍が確認されています。また、平和な環境下で通常ダンジョンの活性化も継続中です」

「よし。俺たち絆紋公国の主力陣と、アシュタルの訓練生、そして魔境鎮圧部隊を複数に分け、並行して対処にあたろう。シオンの隠密部隊は引き続き、悪意の根を徹底的に炙り出してくれ」

 俺の号令に、全員が力強く頷いた。

東方の廃坑と、悪徳商人たちの密輸

 その日の午後。シオンの隠密部隊からの報告を受け、俺はアイラ、ルウ、シルヴィアの教官陣と、フェル、ピコ、ソラたち最古参の魔物、さらには実戦経験を積ませるためにアシュタル軍の若い訓練生数名を率いて、東方の山岳地帯へと向かった。空間転移の銀狐ギンの力で、一瞬にして目的地の近くへと跳躍する。

「レイン様、目標はこの先にある『東方の廃坑』です」

 先行して潜入していた新人獣人のミャオが、岩陰から姿を現して報告する。

「廃坑の奥深くで、表向きは善良な商会を装っている『ゴルドン商会』の悪徳商人と、魔王軍の残党が密輸の取引を行っています。取引の品は、通常ダンジョンから不法に採取された兵器転用可能な特殊鉱石と、残党が開発した違法な魔薬です」

「なるほど。平和な時代に武器と薬を売り捌いて、一儲けしようって腹か」

「はい。さらに、彼らは取引の秘密を守るため、良心的な若き交易商人や、彼に雇われていた腕利きの鍛冶職人たちを拉致し、廃坑の奥に監禁して強制労働させているとのことです」

「ガハハ! どこの世界にも、人の生き血をすするようなクズがいるもんだねぇ! まとめてスクラップにしてやるよ!」

 アイラが戦斧を構える。

「訓練生たち、実戦の空気を感じ取れ。ただし、決して無理はするな。教官陣の動きを見て学ぶんだ」

「「「はいっ!」」」

 若い訓練生たちが緊張した面持ちで武器を構える。

「よし。突入するぞ」

 俺たちは気配を殺し、廃坑の奥深くへと進んでいった。

 広大な採掘場のような空間に出ると、そこには山のように積まれた違法な鉱石の箱と、それを囲んで下品な笑い声を上げている太った商人ゴルドンと、不気味なローブを羽織った魔王軍残党の姿があった。

「ヒャハハ! この魔薬を売り捌けば、天下は我々のものだ!」

「残党の技術と私の商才があれば、アシュタルの連中など目ではないわ!」

 ゴルドンがワイングラスを掲げる。

 彼らの背後にある鉄格子の牢屋には、ボロボロになった青年の商人と、屈強だが酷く傷ついたドワーフの鍛冶職人が鎖に繋がれていた。

「くそっ……俺の商会が、こんな連中の隠れ蓑に利用されていたなんて……!」

 青年の商人、マーカスが悔しそうに床を叩く。

「すまねぇ、マーカスの坊ちゃん。俺の腕がなまっていたばかりに、こんなクズどもに捕まっちまって……」

 鍛冶職人のドガンが、血まみれの腕を押さえて歯噛みする。

「心配するな。アンタらの無念は、俺たちが晴らしてやる」

 静かな坑道に、俺の声が響き渡った。

「な、なんだ貴様らは!?」

 ゴルドンが驚愕してワイングラスを落とす。

「き、絆紋公国の……レイン公王!?」

 残党兵が悲鳴を上げる。

「訓練生たち、よく見ておけ。これが、自分の利益のために他者を踏みにじる愚か者の末路だ」

 俺が剣を抜き放ち、右手の甲の『絆紋』の光を灯した。

「ガハハ! お掃除の時間だ! まとめて吹き飛べ!」

「『極大旋風・星砕き』!!」

 アイラの戦斧が巻き起こす竜巻が、積まれた違法鉱石の箱ごと、私兵たちを空高く吹き飛ばす。

「燃え尽きなさい!『インフェルノ・バースト』!!」

 ルウの放つ業火が、残党兵が隠し持っていた違法な魔薬を瞬時に灰へと変える。

「我が剣の前に、立つことすら許しません。『神速・絶空の剣』」

 シルヴィアの神速の剣閃が、マーカスとドガンを縛っていた鎖を豆腐のように切り裂く。

「フェル、ピコ、ソラ! 残党を逃がすな!」

「ウォォォンッ!!」「キュイッ!!」「きゅるるーっ!!」

 フェルの天雷が轟き、ピコの浄化の蹴りが炸裂し、ソラの神聖なブレスが瘴気を中和する。俺たち『絆紋亭』の圧倒的な力の前に、ゴルドン商会と残党の野望は、わずか数十秒で完全に粉砕された。

救出と、暗闇を照らす新たな命

「ひぃぃっ……! 命だけは、命だけはお助けを……!」

 ゴルドンが床に這いつくばり、俺の靴にすがりつこうとする。

「お前たちの悪事の証拠は、隠密部隊が全て記録している。不当に得た利益は全て没収し、被害者への賠償と開拓の資金に回す。お前は一生、牢の中で自分の罪を数え続けるんだな」

 俺の言葉に、ゴルドンは白目を剥いて気絶した。

「マーカス、ドガン。怪我はないか?」

 俺が声をかけると、二人は涙を流しながらその場に深く跪いた。

「レイン公王様……! なんとお礼を申し上げればよいか……! 私たちの命を救っていただき、本当にありがとうございます!」

「礼には及ばない。民のために真っ当な商売をしようとする君たちのような人間は、俺たちにとって何よりの宝だ。……どうだろう、アシュタルへ来て、俺たちの仲間にならないか? マーカスの誠実な交易の知識と、ドガンの鍛冶の腕があれば、新しい街をさらに豊かにすることができる」

 俺の誘いに、二人は顔を見合わせ、力強く頷いた。

「はい……! 私たちの全てを、絆紋公国のために捧げます!」

 こうして、若き正義感溢れる交易商マーカスと、凄腕の鍛冶職人ドガンという逸材が、新たな人間の仲間として陣営に加わった。

「レイン様。この廃坑の奥に、残党の実験の被害に遭ったと思われる魔物たちが隠れていました」

 シオンが奥の暗がりから、怯えて身を寄せ合う三匹の小さな魔物を連れてきた。

 一匹は、全身が硬質な鉄鉱石で覆われ、不器用に身を丸めている獏――『鉄喰いのアイアン・バク』。

 一匹は、暗闇の中で淡い光を明滅させながら震えている、手のひらサイズの妖精――『蛍火の妖精ファイアフライ・ピクシー』。

 最後の一匹は、透き通るような美しい水晶の鱗を持ち、傷だらけになってとぐろを巻く蛇――『水晶のクリスタル・スネーク』。

 彼らは魔王の瘴気に当てられたわけではないが、ゴルドンたちに住処を荒らされ、無理やり鉱石を探させられたり、明かりの代わりに酷使されたりしていたのだろう。

「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」

 俺は剣を収め、右手の甲の『絆紋』の光を限界まで灯し、ゆっくりと彼らの体に手をかざした。

 翠色の極限浄化と調和の光が、廃坑の暗がりを温かく包み込む。

 魔物たちの傷が瞬時に癒え、恐怖に強張っていた体がゆっくりと解れていく。

(……あたたかい。痛くない……。お前が、悪い奴らを追い払ってくれたのか?)

 鉄喰いの獏から、ゴツゴツしているが温かい思念が伝わってくる。

「ああ。俺はレイン。お前たちをいじめていた奴らは、もう二度と悪さができないようにしておく」

 俺が微笑みながら獏の鉄の頭を撫でると、彼は安堵したように喉を鳴らし、俺の手に顔をすり寄せてきた。

 蛍火の妖精もふわりと俺の肩に留まり、美しい光を放ち始めた。水晶の蛇も、警戒を解いて俺の腕に優しく巻き付く。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」「きゅるるーっ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい仲間を優しく迎え入れる。

「もしよかったら、俺たちの家族にならないか? うちには、お前たちのように傷ついた過去を持ちながら、今は元気に暮らしている仲間がたくさんいる。お前たちの力があれば、夜の街も明るく照らせるし、新しい道具を作ることもできる」

 俺の誘いに、三匹の魔物は嬉しそうに大きく頷いた。

「よし。獏のお前は『テツ』だ。妖精は『ホタル』。蛇は『スイ』だ。今日からよろしくな、みんな!」

「キュゥゥッ♪」

「ピリリッ♪」

「シャァァッ♪」

 新たなる家族、テツ、ホタル、スイを迎え入れ、俺たちは廃坑の制圧を完了させた。

 訓練生たちも、本物の戦闘と悪党の末路、そして魔物との絆を目の当たりにし、その目に強い使命感を宿していた。

 アシュタル辺境国による『絆紋公国物語』の編纂という、後世への歴史の継承。

 そして、俺たちが続ける現在進行形の救済の旅。

 この世界から悪意の芽を完全に摘み取るその日まで、絆紋公国に集う英雄たちと魔物たちの、果てしなき日常は続いていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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