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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第121話 熱砂の陰謀と、清き泉の守護者

第121話 熱砂の陰謀と、清き泉の守護者

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、『絆紋公国』の中心地であるこの場所は、極北の絶望的な脅威が去り、世界が平和の祝祭に沸く中においても、いつもと変わらぬ穏やかで調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ巨大な精霊樹は、深淵の虚無を完全に浄化した光をたっぷりと吸収し、一つの大森林と見紛うほどの神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 彼らの後に続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライたちが一斉に集まってくる。

 さらに極北の遠征や各地の迷宮で家族となった数え切れないほどの魔物たち。次元を司る星天の神狼シリウスや、時空の鯨クジラ、次元の螳螂カマ、星喰いのバク、星の精霊であるルミ、コア、ジュジュ。虚無の暴食者から浄化され生まれ変わった虚空の精霊ゼロ、時空猫のチク、星屑の幼竜アストラ。そして連日の日課である救済活動で新たに仲間となった土塊の猪ブブ、豊穣の案山子ワラ、蜜の妖精蜂ハチたちも、わらわらと俺の周囲に集まり、心地よさそうに喉を鳴らしている。

「おはよう、みんな。今日もいい天気だな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、尻尾を振って応えた。庭の奥では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエン、鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグ、砂塵の魔蠍ゼットといった大型組も、朝の日差しを浴びて気持ちよさそうに背伸びをしている。平和な空気が、この庭には満ち溢れていた。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスと元宮廷料理人のセシルが、賑やかな声を上げた。

 ダイニングルームの巨大なテーブルには、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのチーズフォカッチャ』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なトマトを使った『冷製魔力トマトのスープ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『特大オーク肉と香草のグリル』が並べられている。

「ガハハ! 今日も飯が美味いねぇ! 連日小隊を分けてあっちこっち飛び回って人助けをしてるから、朝からガッツリ食わないと力が出ないよ!」

 女戦士のアイラが、オーク肉のグリルを豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。ですが、私たちの活動のおかげで、世界中の善良な方々が救われているのは事実ですわ。今日も気を引き締めていきましょう」

 少女魔導士のルウも、優雅にスープを飲みながら微笑んだ。

「平和の裏で泣いている人々を放置するわけにはいきません。我が剣は、いつでも悪を断つ準備ができています」

 剣聖シルヴィアが静かに紅茶のカップを置き、凛とした視線を向けた。

枯渴の陰謀と、隠密部隊の報告

 朝食を終えた俺たちが執務室へ向かうと、そこには特級密偵のシオンと首席文官のエレナが、厳しい表情で資料を広げていた。極北での決戦後、俺たち『絆紋公国』と『アシュタル辺境国』の合同部隊は、各小隊に分かれて世界各地の通常ダンジョンの間引きと、良心的な貴族や文官の救出活動を日課としている。

「レイン様、おはようございます。本日の対応事案について、急ぎご報告があります」

 シオンが、広げられた地図の南方に広がる広大な砂漠地帯を指差した。

「旧ザウエル帝国の南端に位置する『オアシス都市ザラク』でのことです。この都市を治めるザラク伯爵は、アシュタルからの水源確保の支援物資を不正に横領しているばかりか、都市の生命線である『地下水脈のダンジョン』の入り口を私兵で封鎖し、湧き出る水を不当に独占して、渇きに苦しむ領民や難民へ法外な値段で売り捌いていることが判明しました」

「……水は砂漠の命だ。それを独占して金稼ぎの道具にしているのか」

 俺がため息をつくと、エレナが眼鏡を押し上げて言葉を継いだ。

「問題はそれだけではありません。ザラク都市の水利を管理する若き水魔法使いであり技師の『ニア』と、彼女を護衛する砂漠の騎士『ザイド』が、ザラク伯爵の悪政を告発し、民のために地下水脈を解放しようと動いていました。しかし、それを察知したザラク伯爵が、彼らを『都市の水を枯らそうとした反逆者』という濡れ衣を着せて処断しようと動いたのです」

「反逆者だと? 民を渇きから救おうとした人間をか」

 俺の声が自然と低くなる。

「はい。ザラク伯爵は、現在魔物が過剰発生して危険な状態にある『地下水脈のダンジョン』の入り口に彼らを縛り上げ、魔物の餌として処刑しようとしています。魔物の襲撃による不幸な事故に見せかけて、口封じをするつもりのようです。現在、彼らの処刑がまさに始まろうとしています」

「ガハハ! 自分の手を汚さずに魔物を使って人を殺そうとするクズがまた出たか! どこの世界にも学習能力のない馬鹿はいるもんだねぇ!」

 アイラが戦斧を肩に担ぎ、怒りと呆れの入り混じった笑みを浮かべる。

「ええ。そのような下劣な行い、絶対に許してはおけませんわ。生命の源を私物化するその強欲、私たちが直接干上がらせてあげましょう」

 ルウも炎の杖を構え、周囲の空気がチリチリと熱を帯びた。

「シオン、エレナ、状況は完全に把握した。これより俺とアイラ、ルウ、シルヴィアの主力部隊でザラク都市へ向かう。ギンの空間転移を使えば、まだ間に合うはずだ」

「かしこまりました。我々隠密部隊も先行して潜入し、ザラク伯爵の退路を完全に断っておきます。彼の不正蓄財も、全て押収の手配を整えておきます」

 シオンが影のように一礼し、姿を消した。

砂漠の処刑場と、舞い降りる希望

 南方砂漠地帯、オアシス都市ザラクの地下水脈ダンジョン入り口。

 照りつける太陽の下、乾ききった岩棚の前に、二人の男女が太い縄で縛り上げられていた。

「くっ……ザラク伯爵! 地下の魔物を間引かなければ、いずれ水脈は魔物の毒で汚染される! 私を殺しても、都市はいずれ滅ぶぞ!」

 青い髪を砂埃に汚した水魔法使いのニアが、喉の渇きに耐えながら鋭く睨みつける。

「ニア様の言う通りだ! 民を搾取し続ける貴様の悪政、いつまでも続くと思うな!」

 屈強な肉体を持つ砂漠の騎士ザイドも、縄を引きちぎらんばかりに身をよじって叫ぶ。

 しかし、その訴えを聞いた肥満体のザラク伯爵は、豪華な日傘の下で冷たい果実水を飲みながら、下劣な笑い声を上げた。

「ヒャハハハ! 負け犬の遠吠えは心地よいなァ。水は金だ! 私が水を支配している限り、民は私に跪くしかないのだよ! ダンジョンが危険? ならばお前たちがその身を挺して、魔物の腹を満たしてやればいいだろう!」

 ザラク伯爵が指笛を鳴らすと、ダンジョンの暗がりから、過剰発生した『サンド・クロウラー(砂喰い虫)』や『ヴェノム・スコーピオン(猛毒蠍)』の群れが、獲物の匂いを嗅ぎつけてワラワラと這い出してきた。

「さあ、美しい処刑劇の始まりだ!」

 伯爵の私兵たちがニヤニヤと笑いながら後退し、魔物の群れがニアとザイドに襲い掛かろうとした、その瞬間。

「諦めるな。民を守ろうとするその意志は、絶対に無駄にはならない」

 上空から、静かで力強い声が響き渡った。

 ニアたちが驚いて天を仰ぐと、空の彼方から、一筋の翠色の光が彗星のように舞い降りてきた。

 ズガァァァァァァンッ!!!

 私兵たちと魔物の群れのど真ん中に、凄まじい衝撃と共に降り立ったのは、特級クラン『絆紋亭』のマスターである俺と、アイラ、ルウ、シルヴィア。そして、足元にはフェル、ピコ、ソラたち最古参の相棒が鋭い眼光を放っている。

「な、なんだ貴様らは!? どこから湧いて出た!」

 ザラク伯爵が日傘を落として叫ぶ。

「き、絆紋公国の……レイン公王様!?」

 ニアが信じられないものを見るように目を見開く。

「遅くなってすまない。あとは俺たちが引き受ける」

 俺が剣を抜き放ち、右手の甲の『絆紋』の光を灯した。

「ガハハ! さあ、日課のお掃除の時間だ! 民の水を奪う害虫どもは、アタシがまとめてすり潰してやるよ!」

「『極大旋風・星砕き』!!」

 アイラの巨大な戦斧が巻き起こす竜巻が、前列に押し寄せていたサンド・クロウラーの群れを一瞬にして空高く巻き上げ、粉砕する。

「燃え尽きなさい!『インフェルノ・バースト』!!」

 ルウの放つ灼熱の業火が、突進してくるヴェノム・スコーピオンたちを瞬時に炭の塊へと変えた。

「我が剣の前に、立つことすら許しません。『神速・絶空の剣』」

 シルヴィアの神速の剣閃が、私兵たちが持つ武器だけを正確に切り裂き、彼らの戦意を完全に喪失させていく。

「フェル、ピコ、ソラ! ダンジョンの入り口を固めろ!」

「ウォォォンッ!!」「キュイッ!!」「きゅるるーっ!!」

 フェルの天雷が轟き、ピコの浄化の蹴りが炸裂し、ソラの神聖なブレスが瘴気を中和する。俺たち『絆紋亭』の圧倒的な力の前に、ダンジョンから溢れ出そうとしていた魔物の群れは、わずか数分のうちに完全に押し返された。

「……す、すごい。これが、世界を救ったという絆紋公国の力……!」

 ザイドが、縛られたまま呆然と呟く。

愚者の末路と、ざまぁの結末

 魔物の脅威が一旦退いた後、俺たちは腰を抜かして震えている私兵たちの元へと向かった。

「ひぃぃっ! お、俺たちは金で雇われただけで……命だけは!」

「安心しろ、命までは取らない。だが、お前たちを雇った首謀者にはキッチリと落とし前をつけてもらう」

 俺がそう言うと、ザラク伯爵の影からシオンが音もなく姿を現した。

「ヒッ!? き、貴様いつの間に……!」

「あなたが闇市場で横流しした水資源の証拠、そして、民から搾取した不当な税の帳簿。全て裏取りは完了しています。隠し財産も、すでに我が隠密部隊が全て回収し、渇きに苦しむ難民への支援に回させていただきました」

 シオンが懐から書類の束を叩きつけると、ザラク伯爵の顔から一気に血の気が引いた。

「ひっ……! わ、私の全財産が……! そ、それは……ち、違う! これは何かの陰謀だ!」

「往生際が悪いですね。あなたの裏帳簿も、隠密部隊のミャオが全て聞き出し、幻聴鳥のルリが録音済みです。もはや言い逃れは不可能です」

「ガハハ! 自分の懐を潤すために民を干上がらせるクズには、お似合いの末路だな! お前みたいなヤツは、一生極寒の開拓村で井戸でも掘り続けて反省するんだね!」

 アイラが戦斧をザラク伯爵の鼻先に突きつけると、彼は白目を剥いてその場に気絶した。

「ニア、ザイド。大変だったな。水資源の件も、魔物の件も、これでもう心配はない」

 俺が振り返り、彼らを縛っていた縄を剣で断ち切ると、二人は涙を流しながらその場に深く跪いた。

「レイン公王様……! なんとお礼を申し上げればよいか……! この命、そして都市の民たちの命を救っていただき、本当にありがとうございます!」

「礼には及ばない。民のために命を懸けられる君たちのような人間は、俺たちにとって何よりの宝だ。……どうだろう、アシュタルへ来て、俺たちの仲間にならないか? ニアの水利技術と、ザイドの武勇があれば、もっと多くの人々を救い、この砂漠を豊かな緑に変えることができる」

 俺の誘いに、二人は顔を見合わせ、力強く頷いた。

「はい……! 私たちのような若輩者でよければ、この命、絆紋公国のために捧げます!」

 こうして、民を想う若き水魔法使いニアと、勇猛なる砂漠の騎士ザイドが、新たな人間の仲間として陣営に加わったのである。

地下水脈の守護者たちと、新たなる家族

 事後処理をシオンたちに任せ、俺はニアとザイドと共に、過剰発生した魔物たちを間引くために『地下水脈のダンジョン』の奥深くへと足を踏み入れた。

 ダンジョン内は、過剰繁殖した魔物たちによって荒らされていたが、俺とフェルたちの連携により、驚異的なスピードで沈静化が進んでいく。

 やがて、ダンジョンの最深部にある美しく澄み切った巨大な地底湖へと辿り着いた。

 そこで俺は、湖の中心にある魔力の源泉を守るようにして、傷だらけになりながらも必死に他の凶暴な魔物たちと戦っている三匹の魔物の姿を発見した。彼らは、ザラク伯爵が放置したせいで溢れ返った魔物たちから、この都市の生命線である清らかな水を守るために、野生の本能で戦ってくれていたのだ。

「この子たち……魔物なのに、水脈を汚させまいと戦ってくれているんです」

 ニアが涙ぐみながら言う。

 戦っていたのは三匹の魔物だった。

 一匹は、透き通るような美しい水色の水晶でできた甲羅を持つ亀――『水水晶のクリスタル・トータス』。

 もう一匹は、蜃気楼のように揺らめく美しい尾を持つ、誇り高き狐――『蜃気楼のミラージュ・フォックス』。

 最後の一匹は、水面に浮かぶ巨大な蓮の花そのものの姿をした妖精――『オアシスの蓮妖精ロータス・フェアリー』。

 彼らは明らかに野生の魔物だが、純粋な心を持ち、オアシスを豊かにするこの水源を守るために限界まで戦い抜いたのだ。

「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」

 俺は右手の甲の『絆紋』の光を灯し、そっと彼らの体に手をかざした。

 翠色の極限浄化と調和の光が、波紋のように三匹の体を優しく包み込んでいく。

 傷口を侵していた魔物の毒が瞬時に浄化され、ヒビ割れていた甲羅や傷ついた体が再生していく。

(……あたたかい。この光は、なんだろう……。とても、優しい……清らかな泉と同じ匂いがする)

 水水晶の亀から、涼やかな水音のような穏やかな思念が伝わってくる。蜃気楼の狐も、蓮の妖精も、痛みが消え去ったことに驚きながら、ゆっくりと目を開けた。

「見ず知らずの人間たちの都市を救うために戦うなんて、お前たちは本当に勇敢だな。立派だったぞ」

 俺が微笑みながら彼らを撫でると、魔物たちは心底安堵したように息を吐き、俺の手に顔をすり寄せてきた。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」「きゅるるーっ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい仲間を歓迎する。

「もしよかったら、俺たちの家族にならないか? うちには、お前たちのように優しくて強い仲間がたくさんいる。俺たちの街には、もっと大きくて豊かな泉を作る計画があるんだ。一緒に守ってくれないか?」

 俺の誘いに、三匹の魔物は嬉しそうに大きく頷き、俺の周囲を囲むように身を寄せた。

「よし。亀のお前は『スイショウ』だ。狐は『キロ』。妖精は『ハス』だ。今日からよろしくな、みんな!」

「キュゥゥッ♪」

「コンッ♪」

「ピロロォッ♪」

 新たなる家族、スイショウ、キロ、ハスを迎え入れ、ザラク都市の騒動は完全に決着を見た。

 悪意を持つ愚者は己の強欲の報いを受け、民を想う良心的な者たちと、自然を愛する純粋な心を持つ魔物たちは、確かな絆で結ばれた。

 日課となった救済の旅は、絆紋公国をさらに豊かにし、世界に真の平穏をもたらすための確かな足跡として、これからも永遠に刻まれていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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