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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第101話 広がる氷闇の迷宮と、極光の白蛇

第101話 広がる氷闇の迷宮と、極光の白蛇

 常闇の極北に建設された白亜の要塞『絆紋亭・極北出張所』。

 外では猛烈な吹雪と赤黒い瘴気が吹き荒れているが、精霊樹の枝と魔導結界が展開する『絶対浄化結界』の内部は、アシュタル本国と何ら変わらぬ、春の陽だまりのような温もりに包まれていた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 出陣の朝。要塞の広間で装備の最終確認を行っていた俺の足元へ、最古参の相棒である銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、空色小竜の『ソラ』が飛び込んできた。

 それに続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移の銀狐ギンをはじめとする数多くの家族たちも一斉に集まってくる。極北への進軍中に仲間となった氷牙の白虎ビャク、吹雪の妖精ユキ、霜結びの蜘蛛シモ、オーロラの精霊アウラ、氷晶の鹿ルカ、雪豹のマシロたちも、要塞の心地よい空気にすっかり馴染み、闘志に満ちた瞳で俺を見上げていた。

「おはよう、みんな。初日の昨日は五十階層まで一気に駆け抜けたが、今日からはそう簡単にはいかない。頼むぞ」

 俺が彼らの頭を順番に撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、力強い鳴き声で応えた。

 背後では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエンといった大型組も、静かに闘気を練り上げている。

「レイン様、朝食をお持ちしましたよ!」

 エリスとセシルが、巨大なワゴンに山積みの料理を乗せて運んできた。

 今日のメニューは、魔力小麦の『こんがりチーズブレッド』に、極北の寒さを吹き飛ばす『特製スパイスの激辛炎竜スープ』、そして『厚切りオーク肉のスタミナステーキ』だ。

「ガハハ! 今日も飯が美味い! 初日で五十階層のボスまでぶっ飛ばしたからね。今日もこの勢いで最下層までカチ込んでやるよ!」

 アイラがステーキを豪快に頬張りながら大笑いする。

「アイラ、油断は禁物よ。ニーナの索敵報告を聞いたでしょう?」

 ルウがスープを優雅に飲みながら、たしなめるように言った。

「ええ。ここから先のダンジョンは、昨日までの『ただ深いだけの迷宮』とは次元が違うようです」

 シルヴィアも真剣な表情で剣の柄を握り直す。

 朝食の席で、幻術索敵のニーナが広げた手書きの立体マッピング図には、信じられない構造が描かれていた。

「レイン様。第五十一階層以降は、階層を下るごとに空間が異常なほど横へと拡張されています。一つの階層が、まるで一つの巨大な『世界』のように広がっているのです。地形も複雑化し、極寒の森林や、瘴気の沼地が果てしなく続いています」

 ニーナの報告に、クロードやガレスたち『魔境鎮圧部隊』の面々も息を呑んだ。

「なるほど。ただ階段を降りればいいという構造ではないわけだ。……今日の目標は、第八十階層とする。焦らず、確実に前線を押し上げていくぞ」

 俺の号令に、全軍が力強く頷いた。

第五十一階層への突入と、広がる氷獄

 要塞の地下から続く転移陣を抜け、俺たちは昨日到達した第五十階層のボス部屋跡地へと降り立った。そこから続く巨大な氷の階段を下り、第五十一階層へと足を踏み入れた瞬間、目の前に広がった光景に全員が言葉を失った。

 そこは、地下であるにもかかわらず、見渡す限りの広大な『氷雪の荒野』だった。

 天井は遥か高く、赤黒い瘴気が雲のように渦巻き、そこから毒を含んだ黒い雪が降り注いでいる。

「これが、ダンジョンの内部……? まるで、極北の外の世界そのものじゃないか」

 クロードが呆然と呟く。

「驚いている暇はありません! 前方より、超巨大な熱源が多数接近中!」

 ニーナの警告が飛ぶ。

 地鳴りと共に現れたのは、体長十メートルを超える『変異マンモス』の群れだった。赤黒い瘴気を纏い、氷の棘が生えた巨大な牙を振り乱して突進してくる。

「前衛、壁を作れ! 後衛は最大火力で迎撃!」

 クロードの指示が飛び、アシュタルの精鋭たちが即座に動く。

「俺の盾で、全てを受け止める!『フォートレス・ガード・極』!」

 ガレスとセオドアがタワーシールドと盾槍を構え、変異マンモスの絶望的な突進を真正面から受け止める。凄まじい衝撃波が氷の大地を砕くが、彼らは一歩も退かない。

「今だ! 叩き斬る!『大剣・剛断』!!」

「『巨剣粉砕』!!」

 ルークとカイルの重装前衛コンビが、ガレスたちの盾を足場にして跳躍し、マンモスの極厚の装甲を大剣で叩き割る。

「動きを封じます!『氷結槍・絶対零度』!!」

 セリスの放つ氷結魔法がマンモスの足を床に縫い付け、そこへザックの『貫きの風矢』と、リリアの『幻惑の鏡面』による撹乱が容赦なく叩き込まれる。

「ガハハ! アタシらも負けてられないね!『旋風大車輪』!!」

 アイラの戦斧が巻き起こす竜巻が、後続のマンモスたちを空高く巻き上げる。

「消えなさい。『インフェルノ・バースト』!」

 ルウの極大魔法が、空中のマンモスたちを炭の塊へと変えた。

「ウォォォンッ!!」「キュイッ!!」

 フェルとピコ、そしてビャクやユキたち魔物組も、広大なフィールドを縦横無尽に駆け回り、変異魔獣たちを圧倒的な力で蹂躙していく。

 しかし、ダンジョンの広さと魔物の数は、昨日の比ではなかった。

 倒しても倒しても、地平線の彼方から新たな魔物の群れが押し寄せてくる。

「くっ……! 空間が広すぎて、敵の湧き出るポイントが絞りきれません!」

 ニーナが焦りの声を上げる。

 第五十一階層から第八十階層までの道のりは、まさに終わりの見えない消耗戦だった。階層を下るごとに、氷の荒野は瘴気の沼へと変わり、毒の霧が視界を奪う。

 それでも、俺が放つ『絆紋』の浄化の光が周囲の瘴気を中和し、ミリーのバフが部隊の体力を支え続けることで、俺たちは確実に一歩ずつ、深淵へと歩みを進めていった。

氷樹の森と、極光の白蛇

 数時間に及ぶ激戦の末、俺たちは第七十階層へと到達した。

 そこは、クリスタルのような巨大な氷の樹木が鬱蒼と茂る『氷樹の森』だった。

「レイン様、前方から凄まじい魔力の衝突を感じます! 変異魔獣の群れが、何かを囲んで一斉攻撃を仕掛けているようです!」

 ニーナの報告を受け、俺たちは息を潜めて森の奥へと進んだ。

 開けた広場に出ると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。

 数百体に及ぶ『変異フロスト・ドレイク』の群れ。

 その中心で、一匹の美しくも巨大な魔物が、孤軍奮闘していた。

 全長二十メートルはあろうかという、純白の鱗に覆われた巨大な蛇。その背中からは、まるで夜空のオーロラのような七色の光の帯が立ち昇り、周囲の空間を神秘的に照らし出している。

「あれは……『極光の白蛇オーロラ・サーペント』! 伝説クラスの神聖な魔物よ!」

 ルウが驚愕の声を上げる。

 極光の白蛇は、氷と光の魔法を操り、ドレイクの群れを次々と薙ぎ払っていた。しかし、多勢に無勢。その純白の鱗は赤黒い血に染まり、体力の限界が近いことは明らかだった。

「シャァァァァッ!!」

 白蛇が悲痛な咆哮を上げる。よく見れば、彼女の背後には、淡く光る数個の卵が氷の巣の中に安置されていた。

「あの白蛇、自分の卵を守るために、こんな瘴気の底で戦い続けていたのか……!」

 クロードが長槍を強く握りしめる。

「見殺しにはできない! 全軍、あの白蛇を援護するぞ!」

 俺の号令と共に、アシュタル軍と絆紋亭の総力が、ドレイクの群れへと雪崩れ込んだ。

「俺の盾は、命を守るためにある!『フォートレス・ガード』!!」

 ガレスが白蛇の前に躍り出、ドレイクのブレスをタワーシールドで完璧に防ぐ。

「『マルチ・アイス・シールド・極』!!」

 アリスが多重の氷壁を展開し、卵を死守する。

「今ですわ! 一網打尽にします!」

 セリスとルウが連携し、極寒の氷槍と灼熱の業火を同時に放つ『熱膨張破壊サーマル・ブレイク』の魔法が、ドレイクの群れを凄まじい爆発と共に吹き飛ばした。

「フェル、ピコ、ソラ! 俺に続け!」

「ウォォォンッ!!」「キュイッ!!」「きゅるるーっ!!」

 俺は空間転移のギンにサポートを頼み、一気に敵陣の中央へと跳躍した。

 右手の甲の『絆紋』の光を限界まで解放し、長剣に纏わせる。

「これで、終わりだ!!」

 ズバァァァンッ!!

 翠色の極限の浄化の光が波紋のように広がり、残存していた変異フロスト・ドレイクの群れは、一瞬にして光の粒子となって浄化された。

 戦闘が終了し、静寂が戻った氷樹の森。

 極光の白蛇は、満身創痍の体を横たえ、荒い息を吐きながら俺たちを警戒して睨みつけていた。

「シャァァ……」

「大丈夫だ。もう敵はいない」

 俺は武器を収め、両手を広げてゆっくりと近づいた。右手の甲の『絆紋』の光を灯し、そっと彼女の純白の鱗に触れる。

 翠色の温かな波紋が、白蛇の巨大な体を優しく包み込む。

『万物の調和と極限浄化』の力が、深くえぐられた傷を瞬時に塞ぎ、枯渇していた魔力を七色のオーロラと共に呼び覚ましていく。

(……あたたかい。この光……。あなたたちが、私と子供たちを救ってくれたのですね……)

 極光の白蛇から、気高く、そして深い慈愛に満ちた思念が伝わってくる。

「ああ。俺はレイン。お前、こんな深いダンジョンの中で、よく一人で卵を守り抜いたな。立派な母親だ」

 俺が微笑みながら撫でると、白蛇は巨大な頭をすり寄せて、心地よさそうに喉を鳴らした。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい家族を歓迎する。アウラやルカたち極北出身の魔物たちも、白蛇のオーロラの光に引き寄せられるように集まってきた。

「もしよかったら、俺たちのところに来ないか? 地上には、お前の卵を安全に孵せる暖かな場所がある。もう、一人で戦わなくてもいいんだ」

 俺の誘いに、白蛇は大きな瞳から一筋の涙を流し、深く頷いた。

「よし。お前の名前は『ローラ』だ。よろしくな、ローラ」

「シャラァァッ♪」

 巨大な白蛇ローラを新たな家族として迎え入れ、俺たちは卵を丁重にアイテムボックス(時間停止機能付きの特製収納)へと保護した。

第八十階層の到達と、深淵からの胎動

 ローラの案内もあり、その後の進軍は劇的にスムーズになった。彼女の放つオーロラの光は、周囲の瘴気を中和し、変異魔獣たちを威圧する効果があったのだ。

 俺たちは次々と階層を突破し、ついに本日の目標である第八十階層へと到達した。

 そこは、巨大な地底湖が広がる安全地帯セーフエリアだった。

 魔物の気配はなく、清らかな水が静かに湛えられている。

「よし、本日の進軍はここまでとする! 全員、よく戦い抜いた!」

 俺の号令に、アシュタル軍と絆紋亭の面々は、安堵の息を吐きながらその場にへたり込んだ。

 一日で三十階層。数字だけ見れば初日より少ないが、その空間の広大さと魔物の数は、比較にならないほどの激戦だった。

「お疲れ様でした、皆様! すぐに野営の準備と、温かい食事を用意しますわね!」

 エリスとセシルが、手際よく魔導コンロを展開し、携帯用の野戦食とは思えないほど豪華なスープと焼きたての肉料理を振る舞い始める。

 クロードやルークたち訓練生は、互いの健闘を称え合いながら、熱いスープをすすって疲労を癒やしていた。

「レイン様。このペースなら、数日以内には二百階層の最深部に到達できるはずです」

 シオンが、マッピングを終えた地図を見ながら報告する。

「ああ。だが、下に行けば行くほど、空間の歪みと瘴気の濃度が尋常じゃなくなってきている。……最深部にいる『何か』は、確実にこちらの接近に気づいているはずだ」

 俺が地底湖のさらに奥――果てしなく続く闇の底を見つめた、その時だった。

 ズンッ……。

 鼓膜ではなく、魂を直接揺さぶるような、不気味な重低音がダンジョン全体を震わせた。

『…………来ル……。光……。喰ウ……』

 悪意。飢餓。そして、絶対的な破壊の意志。

 最深部で胎動する『究極の変異体』の思念が、確かな形を持って第八十階層まで届いたのだ。

 その禍々しいプレッシャーに、訓練生たちは思わず武器を構え、フェルやピコたち魔物組も低い唸り声を上げた。

「……随分と腹を空かせているようだな」

 俺は剣の柄に手を当て、不敵に笑い飛ばした。

「だが、お前の思い通りにはさせない。俺たちの『光』は、お前のような絶望を飲み込むためにあるんだ」

 深淵の底から這い上がろうとする究極の怪物。

 そして、それを迎え撃つ俺たち『絆紋公国』の最強の絆。

 二百階層を越える極北ダンジョン攻略戦は、いよいよ互いの存亡を懸けた未知の領域へと突入していくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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