8.馬に蹴られて死んじまえ―3
おゝ、青年よ、
平然と過失を
犯すことは青年の権利だ、
われらは過失を目標としてゐない、
だが過失を怖れては
何事も為し得ないだらう、
小熊秀雄 『春は青年の体内から』(抜粋)
チョッと……今は何も喋りたくない気分なんだけど、
きっと、そうはいかない。そんな勝手はとおらない。
だって俺は婦女暴行の加害者、それも現行犯だから。
噫……、何てこったい阿呆か俺。
そうだ。そうだよ。やらかした。
年端もいかない女の子相手にこの俺、東雲藍はやらかした。
『ウッキャ~~ッ!』と奇声を発したかどうかはわからない。
ただ、
『すッッげェェ~~ッッ!』と叫んで女の子の両肩をぐわし! と掴んだ事はおぼえてる。
更に、
あるまい事か、『エスパーだ! エスパーだ!』と錯乱しまくって、許可なく当の女の子の身体をペタペタ触りに触りまくった事も……、
憶えてる……。
憶えてるんだ。
噫……、この、ハンサムで、背が高く、お洒落、モテモテの東雲藍ともあろう男が……。
ウキャウキャのお猿さんモードに先祖返りしてしまうとは……。
(だ~~~~ッ!)
反省…………。
「少尉殿?」/「タコ?」
丸いテーブルの向こうから女の子(と、もういいかげん名前で呼ぶとしようか)新橋愛二飛曹が問いかけてきた。
「ああ、悪い悪い」
無意識のうちに掻きむしっていたらしい両手を頭からどける。
ふい、と俺が黙り込んで髪の毛をガシガシやりはじめたので、どうも心配されたらしい。
なにしろ、突然、雄叫んだかと思うと、遠慮会釈もまったく無しに、他人の……、女の子の身体を触りまくったこの俺だ。
警戒されても仕方がない。
「これから、どうなさるんですか?」/「とっとと計画たてろよな」
「そうだなァ……」
言われて俺は、今日これからの予定を考える。
相も変わらず空は晴れ。
舗装路面からは陽炎がゆらゆら立ち昇ってる。
時間はお昼をすこし過ぎた頃。
カフェテラス風に屋外に設けられた座席は、大きな日傘の下にあってさえ、じりじりとした暑熱にさらされている。
クリーム色をしたテーブルに頬杖をつき、網膜を白く灼かれる前に視線を路面から並木、すこし離れた公園の緑へとうつす。
二階建てか三階建て程の建物群で構成された商店街は、すでに全ての店がオープンし、カップルや仲間連れ――いろいろな人々が、さまざまな装いで街路をゆきかっている。
平日ではあるが、人出は結構あるようだ。
といったところで現況を説明しとこうか。
五W一Hは物語の基本。
場面の(唐突な)変化についてこれない女の子がいたら大変だ。
まず、先祖返りしたモンキー野郎はどうしたか?
正解――もう一度ニンゲンに進化した。
次。ヒンシュクもののセクハラ野郎はどうしたか?
正解――『お嬢さん、背骨が曲がってるアルよ』とエセ整体術士にトラバった。
そして、超能力オタク野郎はどうしたか?
正解――自分と女の子の間を(ホテルの備品の……、と、もとい! 『愛♡』の)手錠でガッチリ結んだ。
(って、をいをいをい!)
『お前(貧弱な)理性が、まァだ死んでるンじゃねェか?』と天の声が何処からか聞こえてくるような気もするが、
『訓練プログラムの変更をお伝えします。東雲少尉の休暇は取消しとなりました。ただちに戦隊指揮所まで出頭して下さい』って(まるで電報でも読み上げるような棒読み口調で)用件を伝え終えた途端、
『それでは私はこれで……』と腰を上げられてみろ。非常手段をとるもやむなしってェ気分にきっとなるから。
「…………」/「ならん、ならん」
も、もちろん非礼の埋め合わせはチャンとやったさ。
セクハラのお詫びに、愛ちゃんには服を一式プレゼントした。
なにせ手錠で互いを連結したからね――はじめての時ふたたび、って感じでとっとと帰ろうったって物理的にムリ。
「行こう、行こう。遊びに行こう♪」と、俺が宿から表に出たら、否が応でもそれに同行するしかなくなるって寸法。
幸いに、ってか、非難の一言、わずかな抵抗さえなく、おとなしく手を引かれるままついてはきてくれたんだけど。
……感情面にとどまらず、意志も希薄な子なんだろうか……。
で、
それはさておき、そんなこんなで、いの一番にやったのが装備の変更、ならぬ、着衣のお着替え。
何度か入ったことのあるブティックの入り口をくぐると、そこの店員と一緒になって、あぁでもない、こぉでもない。アレがかわいい、コレがぴったりと、在庫を総ざらえする勢いで着せ替え人形しまくった。
女の子と一緒に買い物に行って、よく、『疲れた~』とか、ボヤく奴もいるけど、俺に言わせりゃ『未熟者』
女の子と時間をともにしているだけでもウキウキなのに、ショッピングするのがどーして負担になるのか理解不能。
だって、衣服にしたって、アクセサリにしたって、一緒にワイワイ品定めするのって楽しいじゃんか。
でもって、選んだ品でその女の子の魅力が増すんだぜ?
当然、相手の機嫌も上々だろうし、言う事ないじゃん。
と、
まぁ、そんな感じでデコりまくった愛ちゃんは、ブティック入店前と入店後――ビフォー/アフターで別人だった……、ってのは言い過ぎ、もとから可愛かったんだけども、何て言うのか、ほら原石だ。
宝石だっても、そのままだったら只の石ころと大差なく見えても、それを磨いてカットしてって、手をくわえたら、『をを……ッ』ってくらいに輝くだろ?
言葉の通りに宝の石になるじゃあないか。
それと同じで、グッドな素材を更にデコれば、もぉサイコーさ。
ブティック後に、とりあえず一服、と、このカフェに来るまで、まぁ、愛ちゃんの注目されることされること。
まっこと、努力の甲斐があったでごわす。
「…………」/「おんなに貢いで身を滅ぼすおとこの典型例だな、気をつけよう」




