5.出会いと再会と―5
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふゥ。
季節は夏だ。
空は碧い。
現在、俺は、日本国防空軍の、と或る基地の飛行場にいて、
人気のない格納庫群の脇で一人、周囲の景色を眺めている。
周辺住民への配慮などカケラもない航空機の爆音が大気を震わせ、
方々に設置されている拡声器もまた大音量でアナウンスをながす。
そういった環境、俺はただ一人、目玉焼きさえ作れそうなくらいに熱された地面の上に寝っころがっている。
かなりな速度で雲が流れている蒼空の下、陽炎の立つ滑走路からわたってくる風に頬をなぶらせているのだ。
………………。
…………。
……。
よしよし。
だいぶん落ち着いてきたな。
あ~もォ、中佐の声が、まぁだ頭の中でガンガン残響していやがるぜ。
さんざん言いたい放題、勝手な御託を並べ放題ならべてくれちゃって。
挙げ句に自分だけ満足面で、元・部下はほったらかしにご帰宅ときた。
昔もそうだったけど、いまだに『コミュニケーション』が罰点らしい。
ッたく!
ぜんたい、アンタがそンな風だから、上司からは疎まれ、部下には嫌われ、同僚たちは煙たがり、
友人は減り、恋人は去り、親兄弟からは絶縁されて、ご近所からは村八分、世間様から非難の嵐、
アンタ個人は良くても、部隊はおかげで一蓮托生。
野垂れ死んでも死して屍ひろう者なし、なンだぜ。
日本人は和を以て貴しと為す民族なんだから、自分の為にもそこンところをひとつ勉強し直してきなさいっての――幼稚園生のあたりから、な!
「ふゥ……」
(虚しい……)
碧空に向け、ひとしきり口から鬱憤を噴火させると、俺はネクスト、胸から深々溜息をついた。
ウン。
もーちょいダメージチェックを続けよう。
いまは何時だ?
この醜態を見ていた奴はいねェよな?
ハンサム少尉で通ってるんだから、頼むぜ、オイ。
ま、ダイジョブだろう。元々人気の無い場所だしな。
よっしゃ、ドンマイ、気にすンな。
で――次は身体を動かしてみよう。
腕は――OK。
胸――異常なし。
腹――八分目。
足――バッチリ。
男の秘密兵器は、モチ、『RDY GO!』だし、腰がぬけて地べたに寝っころがってるのを除きゃあ、マ、こんなもんか。ハハ……。
だから、
「大丈夫か?」
不意に頭の上からふってきた声に、マジで俺はビビりあがったよ。
中佐がまたまた舞い戻ってきやがったのか、と思ってサ。
ガバッ! と半身――腰から上を、腹筋だけでもちあげて、座りポーズで凍りつく。
悲鳴をあげなかったのは奇跡だぜ。ホント。
そして、
こわごわ声のした方を見上げると……、
「クロベエ!」
そこには、案に相違して、なつかしい顔が碧空を背景にして、あった。
「久しぶりだな、トーウン」
陽焼けした顔に笑みを浮かべて、黒江安彦……、あ~、〈大尉〉が言った。(コイツも昇進してやがる)
「元気そうでなによりだ」
『お前もな……』
呆気にとられていた数瞬後、ポカンとあけていた(に違いない)口を笑顔にかえて、勢いこんだ口調で、俺はそう言おうとした、のに……、
「相変わらずのナイスな漫才、たっぷり堪能させてもらったぜ」
クロベエが続けたそのセリフ。
ニヤニヤと笑う、その目つき。
『元気そうだな』とか『今までどうしてた』の一言もなく、この言いぐさとは……、
(コイツ……)
(一部始終を見てやがったな)
「テメェ……、一体いつからそこに突っ立ってやがった?」
久方ぶりの再会の喜びもどこへやら。
先程までの、思い返すもおぞましい再会劇で、中佐から与えられた恥辱が怒りにかわり、頭のてっぺんから湯気(怒気?)となって吹きあがる。
しかし、
「最初ッからさ」
ドスをきかせた唸り声にも、クロベエの野郎は全然へーき。
逆に、
「俺は萩田中佐の副官だからな」と続けられたセリフに、俺の方が愕然となった。
「……副官……、だと?」
「そうさ、副官だ」と、そこで俺の正面にまわりこみ、左手をさしのべてきて
「オイ、いいかげん立てよ」と言ってきた。
その動作がいかにも自然だったので、一瞬、奴の目が不満そうな光をたたえるのをウカウカと俺は見過ごしてしまう。
せめて、相手に合わせ俺がさしだした左手をなぜか素直にうけとらず、クロベエが右手で俺の左手首を握った時点(こちらに差し伸べている手を左から右にかえた時点)で気付けばまだ良かったのに。
何となれば、
「副官なんてのはサ……」とクロベエが言い、
「エッ?」と俺が訊きかえす間もなく、
「ヨイショッ!」とばかりに引っ張られて俺の尻は地面から浮き上がり、その反動も加味した上で奴の左腕がカウンターパンチ――アッパー気味のボディーブロウとなって、俺のみぞおちに叩き込まれる。
「お前の役目だよな、本当なら」
体をくの字に折って、再び地面にくずれおちる俺の耳元で、クロベエはそう囁いた――そーゆー成り行きになったからだった。
で、やっぱクロベエも中佐の部下なんだよな。ケラケラ笑いながら、俺を見捨てていきやンの。
「文句があったら訪ねてこいや。昔の仲間が皆、手ぐすねひいて待ってるぜ。独立飛行第四七中隊だ――いいな?」とか言い捨てて。
地面に転がる俺に背を向け、じゃあな、とか気障にあげた片手を二、三度振って陽炎のたつ舗装の向こうへ去って行ったのだった。
…………。
あ~う~、やっぱ、お手紙の一通もだせば良かったかしら?
Hな本にお酒の類なんかを一緒につけて、
『皆さんお元気ですか? ボクは元気です』とかカードを付けて。
だ~~~ッ!
ンな馬鹿なこと言ってる場合か~ッ!
ヤローに嫌われるのは構わんが、こうも昔の同僚にからまれるのは問題だ。
模擬空戦?
昔と変わってないなら精鋭揃いな(中佐の)部隊と空戦しろって?
あの(お人形さンみたいな)女の子と一緒に?
まだ手元に届いてもない(開発にもたつきまくってる)丸腰の偵察機一機でもって?
……言葉も無いってのはこの事だ。
なんてェ日だい、天中殺か?
ああ、もう脳味噌蒸発してしまいそう。
ホント……、
どうしよう?




