僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第11話
次の日、平穏に一日の授業を終え、先生からの呼び出しも無く、いつものように三人で帰っている途中で、僕はつい口を滑らせてしまった。
「シリル、本当にお前の家に狩竜人船の人達が泊っているのか」
アーノルドにレイたちの事を話したら妙に絡まれてしまった、そういえばアーノルドの兄が狩竜人になりたいって言ってたんだっけ、これは失敗したな。
「みんな忙しそうに働いてるからさ、しゃべる事すらなかなか出来ないくらいだよ」
「ふうん、やっぱりそうなんだ、訓練とか色々とやる事いっぱい有りそうだもんな」
「そうそう、本当に忙しいんだよ」
なんとか誤魔化せたのだろうか、あまり勝手な事を言ってレイたちに迷惑をかけるのも嫌だし、アーノルドのお兄さんが狩竜人なんて危ない仕事に就くと、アーノルドの御両親が心配するだろう。
「おーい、シリルじゃないか、学校帰りか」
呑気な声の主はレイだった、なんて間が悪いんだろう。
「ねえシリル、あの人は誰なの」
マリーが肘を引っ張りながら聞いて来た、アーノルドも僕の方を向いて何か言いたげにしている、
「お、君たちはシリルの友達かい」
「はい、私はマリーって言います」
「あ、俺はアーノルド、です」
「そうか俺はレイナルド、二人ともよろしくな」
この四人の中で僕だけがどぎまぎしているようだ、僕の心配を他所にレイはニコニコとマリーとアーノルドと談笑している、どうしたものかと考えてレイに耳打ちをする事にした、
「わけは後で話すから、レイさんが狩竜人だって事は内緒にしておいて欲しいんだけど」
レイは暫くの沈黙の後で親指を立てた、どうやら解ってくれたようだ。
「こそこそと何の話をしてるの」
マリーが僕たちの内緒話が気になったようだ、何でもないよ、と僕は答えたがマリーは明らかに疑いの目を向けてきている。
「レイさんは船に乗っている人ですよね、何をやってるんですか」
「そうだな・・・色々だよ、そう色々やる事が有ってね」
アーノルドも僕とレイに疑いの眼差しを向け始めた、誤魔化すにしてももうちょっと上手く出来ないものかな。このままここに居るとまずいと考えた僕は、
「あーそうだ、お母さんにお店の手伝いを頼まれてたんだ。二人ともごめん先に帰るよ」
レイに目配せをして手を振って二人と別れた、マリーもアーノルドも僕たちを懐疑的な目をしながら手を振っている。
自宅までの道すがら、レイがなぜ狩竜人な事を内緒にするのか聞いて来た、
「アーノルドのお兄さんが狩竜人になりたがっててさ、その、とても危険な仕事なんでしょ」
「そう言う事か、確かに危ないな」
「だからさ、アーノルドもご両親も心配だろうし」
「シリルは、狩竜人になりたくは無いのか」
「なりたくは、無いね」
狩竜人に興味は有る、だけど自分が狩竜人になるという事は、父の跡を継いで宿屋をやらないという事になる、当然そうなるだろう、そうなって欲しいだろうと思っていた僕には、狩竜人になると言う選択肢が増える事は衝撃的な事だった、僕の答えを聞いてレイは少し寂しそうな顔をしたが、小さく頷いた後ですぐに目に輝きが戻り、
「まあまだ将来の話しは難しいよな、確かに狩竜人はとても危険だ、俺が知っているだけでも数えきれないほど狩竜人は命を落としている、だけど狩竜人は居なくならない、なんでかわかるか」
「・・・わからない」
「それはな、狩竜人になりたい奴らが沢山居るからさ、それこそ何人死のうが、どれだけ酷い怪我をしようが、それでも狩竜人になりたい奴らってのはいっぱい居るんだよ」
レイがこんなに雄弁に話す人だとは思わなかった、そして僕が真面目に話しを聞きこんでいる事に気を良くしたのかレイが続けた、
「狩竜人にはそれだけの魅力が有るんだ、困難を乗り越えて恐怖に打ち勝ち仲間と勝利を称え合う、一度でもそれを経験してみろ、今まで灰色だった世界が色を取り戻したような錯覚に陥るぞ」
「でも狩竜人になるのは難しいんでしょう」
それだけの魅力を持っているのに僕の周りではアーノルドのお兄さんぐらいしかなりたいと聞いたことが無い、狭い世界だけど噂ですら聞いたことが無いって事は恐らくはそうなんだろう、
「そうだな、狩竜人育成の学校に行くか、剣戟世界大会で上位に入るか、そんな事よりも船乗りの知り合いが居た方が手っ取り早いな」
「じゃあ僕は簡単になれちゃうね」
笑顔で言う僕にレイも笑顔で答えた、なんだ、なろうと思えば簡単に狩竜人になれるんじゃないか、この日、僕は大きな勘違いをしていた。