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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
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第39話 夏休み最後の1日

「みんなとても元気そうだね。1名を除いてだけど。」

「蒼よ、どうした目のクマが酷いぞ。寝ていないのか?」

扶桑を押しのけて、伊勢が顔を覗かせる。


「へへ、ちょっとコダワリが暴走しちゃった!」

舌をペロッと出し「ごめんちゃい」のポーズを見せる。

伊勢はニタッと顔を緩ますと、「ほどほどにな」と言い引っ込んだ。


「では、改めて説明をするから寝ないでね。」

扶桑はウウンッと声を整えると顔を引き締めた。


「貴女達の編入する学校は「私立ミスカトニック女子学園」です。生徒のほとんどが裕福層のお嬢さまで占められています。

全生徒数360名、1学年120名、1クラス20名で6クラスの比較的少人数での英才教育が売りね。

場所については学校案内を見て、迷子にならないように気を付けてください。次に指令について説明します。」

扶桑が引っ込み、日向が現れると画面一杯に顔が映し出された。


「桔梗、少しふっくらしてきたな。可愛らしくて嬉しいぞ。」

桔梗はしばらく体重計に乗っていない事を思い出し、自分のお腹を摘んだ。


「さてと指令内容だが、まず、なにが学園で起きているか説明しておこう。未成年女子の売春グループの1つを摘発したのだが、メンバーは全員、ミスカトニック女子学園の生徒だった。


更に複数の売春グループの存在を、補導した女子生徒が漏らしたことにより、学園内での組織的売春活動の存在が浮上してきた。


そこで、君らに学園での潜入捜査を行ってもらい、全ての売春グループとメンバーの特定及び、必ずいるであろう組織売春の総元締を見つけ出し報告して欲しい。

言っておくが、くれぐれも自分達で捕まえようと思わないこと。

逮捕するのは国家権力の仕事だからな。」

六花がウンウンと頷くのを確認してから、長門に変わった。


「夜花子、少し大人っぽくなったんじゃない。これなら2歳サバ読んでも大丈夫ね。」

夜花子は長門の謎かけに首を捻った。


「では、現地での配置を通達します。

夜花子、蒼、3学年F組、萌葱、桔梗、2学年F組、茜、珊瑚1学年F組です。

今回は2マンセルで作戦行動を遂行します。

補導された生徒の学年がバラバラだったので、全学年が捜査対象となりました。」

バラバラになる事への不安と、学力が追い付かない不安で六花がざわついた。


「心配しなくて大丈夫よ、貴女達の学力なら問題ないわ。

通信教育の内容を理解できたでしょう。

あれは勉強に特化した訓練の一環なの。

実際に学園の授業を受ければ理解できると思うよ。」

ウフフと笑いながらウィンクをすると陸奥に変わった。


「売春の件の家裁の記録を伝えておくね。

例外なく全員が売春について罪悪感を持っていないわ。

また、誰かに強要されたのではなく、自分の意思で行ったと証言しているわ。これはかなり異例なのよ。


普通、家族や学校に知れ渡れば落ち込み、引きこもりや不登校、時に自殺未遂を起こすものだけど、彼女らにいたっては釈放された翌日に登校し、普通の生活を送っているわ。

全くカウンセリングを必要としていないのは明らかに異常ね。


まあ、これはあくまで予測だけど、彼女らはいずれ政略結婚で恋愛感情の無い男と結婚する子がほとんどだから、今のうちに楽しんでおこうと思っているのかも知れないわね。」

六花には声に出さないが「フーン」と思い、「私達には関係ない世界ね」と割り切り納得した。


「では最後に重要事項について説明するわよ。

ひとつ!金銭の受け渡しが発生したら必ず領収書、もしくはレシートを貰う事!私が必要経費として全て処理します。

それと自販機は極力使用しないでね!


ふたつ!今回の作戦はあなた達自身が、性行為を行う可能性がとても高いです!月に一度、必ず病院で検査を受けてください!


みっつ!通学で利用する鉄道沿線は、ち・か・んの多発エリアです。あなた達なら捕まえることは容易ですので、どんどん捕まえて駅員に突き出しちゃってください!

学園側も痴漢関連の遅刻ならば大目に見てくれます。


そして最後にひとつ、クラスメートとは仲良くしすぎない事!

普通に遊ぶ分には構いませんが、仲良くしすぎると後の行動に支障をきたす事が多々あります。

なにしろ将来、国の中枢をコントロールする家に嫁ぐ子がばかりです。親友を盾に取られて無理難題を吹っ掛けられることは目に見えています。十分に注意してください!」

山城の熱の籠った説明に「なにかあったんだ」と、容易に想像できてしまう六花だった。


雌ゴリラとのミーティングが終了した後、制服の着付けが蒼の主導で行われた。


「みんなの希望を元に校則ギリギリを攻めてみたわ!会心の出来上がりよ!」

今回改造を希望を出したのは茜、珊瑚、桔梗で、萌葱と夜花子はノーマルを希望した。


「茜と珊瑚は極限ミニよね。ネットで調べたら校外ではウェストを織り込んで好きなだけ短くするようね。

でも私はそんな野暮なことをさせないわよ!

スカートの両脇に裾上げアジャスターを取り付けたわ!

試してみて!」

怖い目をした蒼に圧倒されながら、2人がアジャスターを目一杯下げると、スカートの裾が上がり、絶対空域が現れる。

その様子を見ていた薄葉は「ほう」と声を上げた。


次にアジャスターを上げて、裾を引っ張ると校則規定サイズに戻る。2人は感心して何度も上げ下げを繰り返した。


「凄いね蒼!これいいよ!トイレに入らなくても長さ調整できるなんて、天才!」

「気に入ったぞ蒼!ありがとな!」

珊瑚と茜の感嘆の声に蒼は少し照れて赤くなった。


「次は桔梗!スカートの前のチャック引っ張ってみて!」

言われた通りにチャックを腰の少し後ろまで引くと、中からお気に入りのキャラが編み込まれたレース地のスカートが現れる。

元のスカートはお尻の下で二枚の羽のように垂れ下がっていた。


「きゃあ、可愛い!すごい!すごい!」

桔梗が感情を抑えきれずにピョンピョンと跳ねまわる。

その様子を見ていた薄葉は「ふむ」と呟いた。


「ショーツが透けて見えるけど、スパッツを履けばいいわ!」

こうして制服の着付けは、双方大満足で終了した。


夏休み最後の日を満喫するため、昼食に軽めな物をリクエストすると、ソーメンが用意された。

ササッと食事を済ますと、ジャージから普段着に着替えて、浅草寺を目指して外出する。

途中、吉原で通学することをおっちゃんらに話し、癒しをしてまわる。

いつも通り、社と杜にお参りすると、少しルートを変えて千束通りに出た。


「ここに寄り道しない?ゆであずきを食べてみたい。」

萌葱が喫茶店の前で立ち止まり指を差した。


「へえ、珍しいね。甘いもの食べたかったから丁度いいかも。」

徹夜で繕い物をした蒼の体が甘味を猛烈に欲していた。

皆が頷くのを確認すると、萌葱はドアを押し開けた。


「いらっしゃい。何名様?」

少し強面のおばさんがぶっきらぼうに迎えてくれる。


「6名です。」

萌葱が答えると奥に案内される。

席に着き、メニューを開くとオムマキという見慣れない料理を見つけた。


「オムライスの焼きそばバージョンなのか?」

茜が興味津々でメニューを凝視している。


「これ1つ頼んでみんなで試食しようよ。」

珊瑚の提案に皆が賛成する。

丁度、お冷やを運んできたおばさんに、オムマキ1つとゆであずきを6つ注文する。

おばさんは注文を復唱して戻っていった。


「お待ちどおさま。」

オムマキとゆであずき、割りばしが6本テーブルに置かれた。


「ごゆっくりどうぞ。」

料理を置くと伝票を差してささっと戻っていく。

六花は割りばしを持つと「いただきます」と言って、我先に中央部に箸を差し込む。


萌葱「ちょっ!夜花子取りすぎ!」

夜花子「こういう時は情け無用よ!」

桔梗「うわぁ!美味ちい!」

茜「この焼きそば、すげえ懐かしい味がする!」

珊瑚「やっ!青のり、歯についてない?」

蒼「両端ゲット!」

あっと言う間にオムマキを食べ尽くし、ゆであずきに手をける。


蒼「とても優しい甘さ。脳に染み込むわぁ。」

珊瑚「けっこうボリュームあるね。甘くて美味しい。」

茜「この甘さ、善一爺ちゃんの味だ。」

桔梗「お豆さんなのに美味ちい。これ好き!」

夜花子「これが歴史の味、美味しさは不変ということ?」

萌葱「うーんクセになるわ、この甘さ!」

まだ熱の残るゆであずきをフーフーしながら夢中で食べる。

グラスにあずきを一粒も残さず、綺麗に食べ尽くすと、お冷やで口の中を洗い流す。

レジで代金を支払い、忘れずに領収書を書いてもらう。


「宛名は六花でお願いします。」

領収書を受け取ると、「ごちそうさまでした」と合唱する。

すると、おばさんは初めて表情を緩め、「ありがとうございました」と送り出した。


ひさご通りに入る前に六花は変装を始める。

界隈に顔を覚えられてしまい、ゆっくり楽しめないし、またお土産を持たされることを防ぎたかった。


それぞれが帽子をかぶりマスクをすると、商店街に入って行く。

夏休み最終日は少し背伸びをして、居酒屋でお酒を飲むことを決め、客席が露天にあり開放感のある店を選んだ。


「いらっしゃいませ!何名様ですか!」

六花はドキドキしながらテーブルに案内された。


「お飲み物先にお願いしまーす。」

一番先に反応したのは蒼だった。


「とりあえず生中で!」

蒼の呪文がおねえさんに届く。

おねえさんは生中6つと厨房に叫んだ。

しばらくすると「お通し」が運ばれてくる。

おおきな茶碗のもつ煮込みが皆の前に置かれる。

六花はお通しに舌鼓を打ち生中が来る前に食べ尽くした。


「生中おまちどうさまでーす!」

タンタンタンとテーブルに置かれる生中を持ち、乾杯をすると一気にあおり、喉をグビグビさせて胃袋に流し込む。

つい先月まで、美味しいと思わなかったお酒が、今日はとても美味しく感じる。

その後、注文した鶏の唐揚げ、焼き鳥、ポテトサラダの量が明らかにサイズオーバーなのを見て、ばれている事を確信する。

空が茜色に染まる頃、会計をして店を後にした。


甘味が欲しくなり、鯛焼きとソフトクリームを食べながら街を散策する。

時々、チャラ男達がナンパをしてくるが、六花達がマスクを外すと脱兎のごとく走り去っていく。


隅田川の土手に上がると、川を渡る風が火照った体を、気持ちよく冷ましてくれる。

ライトアップされたスカイツリーが夜空を背景に幻想的な雰囲気を感じさせてくれた。


「あれってさ、どう見ても金色のウン〇にしか見えねえ。」

茜が飲料メーカーのオブジェを指さす。


「あれはフラムドール!フランス語で金の炎だったかな。

でも、ウン〇だよねぇ」

「さすが物知り蒼ちゃん!」

桔梗に褒められた蒼は上機嫌で、隣のビルがグラスに注がれたビールをイメージしていると説明してくれる。

しばらくベンチに座り、他愛のないおしゃべりをする。

狼牙の話題になり、皆狼牙が気になりだした。


桔梗「今、何ちているんだろう?」

夜花子「帰ろうか。」

珊瑚「カロリー消費大事!走って帰ろう!」

茜「身体強化して競争しようぜ!」

蒼「いいね、やろう!」

萌葱「それじゃ!3、2、1、ドン!」

6つの金色の風が浅草の街を駆け抜けていった。

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