第112話 ドリームランド編① 四具祖とナイラー夢見人になる
「ゼヒレーテよ、何故ヨグ=ソトースとナイアーラトテップの神格を奪わなんだ?きゃつらは覚醒しておらぬ容易かろう。」
「何度目でぇす?それを言うのはぁ?何度も説明してまぁすけど?」
「はて?そうであったかのう?もう一度説明してくれんか?」
「彼らに悪意や邪気はありませぇん!本心から人間との共存を望んでいまぁす!私は悪神になりたくありませぇん!」
ゼヒレーテはプンスカ怒りながら玉座の間を後にする。
ここは旧神の住まうドリームランド大神殿であり、主神ノーデンスの居城である。
ドリームランドの極点に位置する金剛石で作られた円錐形の大神殿は、直径10km高さ5kmの超巨大建造物で宇宙誕生の時から存在する。
ドリームランドは地球とよく似た惑星で光輝く1つの衛星を持つ。
ビッグ・バンの爆心地であり広がり続ける宇宙の中心点に位置し、虚無の空間にポツリと浮かんでいた。
旧神達はこの宇宙を創生するにあたり、自分達の次元から必要とする要素を投入するが、時にイレギュラーが発生しビッグ・バンのエネルギーを吸収して旧神と似た神格を持つもの達が出現した。
それが四大霊や大地の神々と呼ばれる神格であり旧神より力が劣る。
水のクトゥルフ
風のハスター
土のシュブ=ニグラス
火のクトゥグア
四大霊は常に自由奔放で規律や秩序に捕らわれない。
故に旧神に対する忠誠や帰属意識を持つことはなかったが、星に生きる生命体をむやみに殺す事は無かった。
故に放置をしていたが目に余る行為の場合、一時的に力を奪い封印を施していた。
大地の神々は惑星を守護する八百万の神であり、その呼び名は正に星の数ほどであり力は四大霊に劣る。
創生から100億年は秩序と親愛で宇宙の平和は保たれ多くの文明が開化し繁栄したが、別次元からの「外なる神々」の出現で多くの星が混沌勢力に侵略され破滅もしくは侵略されてしまった。
主神「白痴の魔王アザトース」
副官「最極の空虚ヨグ=ソトース」
使者「這い寄る混沌ナイアーラトテップ」
母神「自存する源ウボ=サスラ」
4大外神は旧神と同等の力を持つ。
また数えきれない「下級の外なる神」を配下に持ち、いずれも大地の神々よりも強く、もし混沌勢力に見つかれば瞬く間に取り込まれ侵略される。
旧神は大地の神々をドリームランドに避難させ保護をした。
旧神と外なる神々との戦いは熾烈を極め、幾つもの星雲が失われたが辛うじて4大外神の封印に成功し、現在は旧神及び外なる神が作りだした生命体同士の勢力争いで収まっていた。
「オスカルトここに参れ!」
玉座にノーデンスの声が大きく響き渡ると空間が揺らぎ、光輝く偉丈夫な壮年の巨人が現れ跪き一礼をした。
「父上何用でしょうか?」
「安定と秩序の四巨神を率いて、ヨグ=ソトースとナイアーラトテップの神格を我に捧げよ!」
「それは母上に止められているのでは?」
「構わぬ!儂が許可する!」
「はあ・・・承知いたしました。しかしながら目覚めの世界で行動を起こしますと例の六花なる者の妨害が入り大事になりますが?」
「この地に誘い込めばよかろう!多少の事は目を瞑る!」
「よろしいのですか?覚醒していないとはいえ2大外神ですが?」
「使えるだけの戦力を用いて構わん!いざとなれば儂自ら出る!」
「・・・仰せのままに。」
はぁと溜息を吐きオスカルトは転移した。
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「はて?ここはどこじゃ?」
「空様、ボケ爺のような物言いは止めてください。
落ち着いて観察しましょう。・・・どこでしょうね?」
普段通り抜かず3発をした後にそのまま寝入ってしまい、気が付くと見知らぬ場所に全裸で立っていた。
辺りは夜であり空には星ひとつ見えない。
かと言って真っ暗闇かと言えば遠くの山脈迄はっきりと見える。
足元は砂地で周りに樹木の類が見えないことから砂漠のような場所にいることはわかった。
「一般的な砂と違うようですね。とても細かいガラスの粒でしょうか?
透き通っていてとても綺麗です。」
ナイラーは砂をすくい取りまじまじと観察していた。
「暑くもなく寒くもなくか、砂漠にしては珍しい気候じゃ。」
地球上の砂漠であれば夜間はとても冷え込み、全裸で過ごすには厳しい。
四具祖はナイラーの周りを歩き回り状態を確かめた。
「重力も呼吸も別段変化無しで足裏にも違和感がない。
夢の中というわけではなさそうじゃな。」
「移動しますか?ここに居ても戻る手段が見つからないと思います。」
「そうじゃな、まずはあの山を目指すとするか。」
2人は三角錐の山を目指し歩き始めた。
「大分歩いたと思いますが全く近づいたと思えません。」
「ふむ、近くに見えたがとんでもなく大きな山だったのかもしれん。
少し休憩をするか。」
かれこれ体感で3時間は歩いたと思われるが目標の山に一向に近づく様子がない。
四具祖は振り向き後方を確認するが彼方に山脈が見えるだけで何も変わり映えがない。
2人は地面に寝転び空を見上げた。
「星があれば方角が読み取れるものだがやはりここは地球ではないのか。」
六花と付き合うようになり多少の怪異には慣れたが、今回はあまりに想定外であり混乱するどころか逆に冷静になる四具祖であった。
「あっ!流れ星!」
横向きに寝そべっていたナイラーが赤く光る流星を見つけ起き上がる。
流星は地平の向こうに消えると思いきや向きを変えこちらに迫ってきた。
「ええっ?!」
「逃げるぞ!」
四具祖は飛び起きるとナイラーを立ち上がらせ駆けだす。
流星は猛スピードで近づき2人の頭上を飛び越えて眼前で停止した。
(動くな!)
流星から異形が現れ2人に命令をする。
異形は言葉を発せず、脳内に直接話しかけてきた。
「四腕で毛むくじゃらの巨人か。ちと手強そうじゃな。」
身長は3mあるだろうか、四具祖は巨人を見上げて呟いた。
「ちょっと待ってください!戦うつもりですか?!無理ですよ!
階級が段違いです!モスキート級とヘビー級以上ですよ!」
「しかしなぁ、あのヨダレらしきものを見ろ。あれは儂らを喰うつもりではないか?」
巨人は頭頂部の口らしき部分から歯を剥き出し、液体をとめどなく溢れ出させ舌なめずりをしていた。
「アレに喰われたけなければオヌシも覚悟せい。六花に鍛えられているのであろう?」
「まあ、気術の幾つかを教わりましたが・・・」
「上等じゃ!援護を頼んだぞ!背中は任せた!」
「了解です!」
四具祖は体全体を使い円を描き気を高める。
巨人は奇妙な動きを見せる四具祖に警戒をして身構えた。
「儂も茜ちゃんに存分に鍛えられたからの!簡単にやられはせんぞ!」
全身に気を巡らせると筋肉が膨張し湯気が立ち上る。
裂帛と共に一気に間合いを詰め、気力を込めた連撃を放つ。
巨人は四腕で防御態勢を取り連撃を受けた。
「ボキンッ!ベキャッ!」
骨の砕ける音と共に両者が飛び離れる。
巨人の四腕の骨が砕かれダラリと折れ曲がっていた。
「ナイラー!治癒を頼む!」
四具祖の腕もまたズタズタに破裂していた。
ナイラーは四具祖の腕に治癒を施すが直ぐには全快しない。
おおよそ30秒をかけて治癒を完了させる。
その間巨人は苦痛で転げまわり、咆哮を上げ仲間を呼び続けていた。
地平線の向こうから赤い光点が幾つも現れるのを見た2人は死を覚悟し、抱き締め合うと長い口付けを交わした。
「お2人さん!こっちよ!急いで!」
突然呼びかけられ振り向くとそこに白い大きな帆船が浮かんでいた。
「早くして!奴らに喰われたくないでしょう!」
声の主は縄梯子を下ろして手招きしている。
四具祖とナイラーは考える間もなく縄梯子を登り甲板に降り立った。
「出発ヨーソロー!」
帆船は急速で浮かび上がると一瞬で姿を消し、再び現れた先は光溢れる青空の下であった。
「助けてくれてありがとう、礼を言わせてくれ。」
声の主は四具祖とナイラーの姿を見るとコロコロと笑いはじめた。
「どういたしまして。助けた理由は後でお話するとして、まずはお風呂に入って服を着ましょうか。目のやり場に困ってしまいます。」
黒色の髪、青い目、白色の肌、顔の作りはアフリカ系民族のふくよかな体形の中年女性は恥ずかしがる様子もなく微笑んだ。
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「もうパパちゃんの物忘れが酷くて嫌になるねぇ!100億年以上存在しているから仕方ないと思うけどねぇ!」
お昼時に薄葉亭を訪問したゼヒレーテは昼食の相伴にあずかり六花ファミリーの前で愚痴をこぼしていた。
「四具祖とナイラーの神格を奪えってしつこいよぉ!私は反対してるんだけどねぇ!コレ美味しいねぇ!」
狼牙秘伝のスパイスで漬けこんだ鶏のから揚げをヒョイパクッと次々に頬張り至福の笑顔を見せる。
「神格を奪われるとどうなるんだ!」
茜はゼヒレーテに負けぬ勢いで大皿のから揚げを頬張る。
「亜空間に封印されるねぇ。大昔から何度も封印してるけど眷属達に封印を解かれてのイタチごっこねぇ。
でも一度封印されると1億年は出てこれないからしないよりはマシねぇ。」
「なんとかならないの?理事長とナイラーさんは悪い人ではないのよ。
元邪神だということは知っているけど、人に対して悪い事をしないと断言できるわ。」
「萌葱ぃ、私もそう思って何度も断ってまぁす。
そしたらパパさん息子達にやらせることにしましたねぇ!
私怒って家出でぇす!というわけでしばらく厄介になりまぁす!」
最後の一個をパクリと食べて満面の笑みを浮かべた。
「さて、ママにお嬢達、紗英と知佳にゼヒレーテさんでありんすか。うちも手ぜまになりんしたね。」
契りを結んだファミリーが薄葉亭に住むことが決定し大所帯となった現在、寝る場所の確保にも一苦労の状態であった。
「新居を構えるのはいかがでしょうか。勿論費用は私達で工面します。」
寿子の提案に誰よりも賛同したのは意外にも薄葉であった。
「あちきは洋風の洒落た家に棲むのが夢でありんしたのでありんす。
とても楽しみでありんす。」
「えーと、薄葉母さんとお糸はこの家に棲み付いていたんじゃ?」
萌葱の質問に人差し指を振りチッチッチッと舌を鳴らした。
「仏壇を新居に移動すれば問題ありんせん。あちきの別荘はあの中にありんすから。」
ニコニコと笑う薄葉の心は既に新居のことで一杯で、お糸も同様に新居に思いを馳せていた。
こうして新居計画はとんとん拍子に進み、日本橋に新築された高層ビルの最上階ワンフロアが買い占められる。
居住区画は個室を設けないオープンフロアであったが、あまりにも広いため誰がどこにいるか直ぐには判別できなかった。
区画されたフロアは全部で6つ。
①広大なウォークインクローゼットは一流のブティックと見間違うほど洗練されている。
②各自の趣味や研究を行う作業場が設けられPCや設備が設置される。
③映画館並みのスクリーンと音響設備を備えた舞台。
④浴室は30名が同時に入ってもまだ余裕がある広さを確保し、窓越しに都下を一望でき富士山が見える。
⑤トイレは20室用意されパノラマを眺望しながら用を足すことができた。
⑥大規模飲食店並みの厨房は最新鋭の設備を備え、それを見た狼牙は歓喜の遠吠えをした。
また使用人を雇うことになり各財閥のメイド長が主を変え任に付いた。
こうして計画が発動してから僅か2週間で引っ越しを終え新たな生活がはじまる。
旧薄葉邸は歴史的価値があるとされ、最新の建築技術でリフォームと増築を行い残される事が決定した。




