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石中の恋歌  作者: モノノベワークス
一対一対応の枕辺(まくらべ)
81/81

フラッシュモブで告白する女はいない

明日は用事があるので月曜のところを急遽土曜に変更しました。

次回の更新は5/24です。

「確かにあれはマズいかも…」


 私の言葉にフランも頷く。そしてお互いに顔を寄せ合ってヒソヒソ話を始める。


 あれはアレだ…。初めてのデートで男が女に身の丈に合わないプレゼントを持って来てひかれるやつ…。


「あれだよね。初デートで急にクソ高いプレゼント持ってきて女の子引かせるやつ 」


「うん」 


 これだけの人前じゃあ公開処刑みたいなもんだし…。


「ほんとさぁ、渡す側って貰う側のこと全然考えてないんだよね」


「…しかも周り絶対勝手に盛り上がるし…」


「“きゃー愛だー”とか言い出すやつね」


「最悪…」


 ほんっとうにああいうのって…


「「完全に男の自己満足だよね…」」


 そう言って一緒にため息をつく。 


 しかし師匠の言葉にわいた会場にむけてアキンボが一歩前に出て言った。


『まってくれ。これは師匠の言う通り贈り物だ。だが、オレはそんな大層なつもりはない 』


 そう言うとアキンボは皆の顔を見た。私はアキンボの言葉を団長に訳すと彼女が謎の能力で皆にその言葉を伝える。


「ただ一人、喜ばせたかっただけだ。…だが、どうやらオレは、そいつを困らせることをしたらしい」


「しかしそいつをオレは困らせたくない。だから、この氷を使った料理を皆に振舞おう」


 そう言うと、アキンボは私の肩に手を乗せて言った。


『コイツが』


 私はアキンボの言葉を翻訳しつつ、振り返って言った。


「いや、私がやるんかい!」


『お前の方が腕がいいだろ?』


 それを聞いてフランが立ち上がって言った。


『アキンボ! 流石に甘え過ぎだから! やるなら最後まで筋は通しなよ。作り方はルリコが教える。でも、作るのはあなた!』


 それを聞いてアキンボは苦虫を噛みつぶしたような表情のまま頷いた。


 エルフ語で何を言っているかわからないまま困惑している会場の混乱を沈める為、私はリリア団長に耳打ちをする。


「申し訳ありません団長。アイツがあの氷のつららを作った料理を会場に皆さんに振舞う許可を下さい」


 それを聞いたリリア団長は微笑みながら頷いた。


「承知した。では皆様。エルフのアキンボ様より、冷たいデザートが振る舞われます。どうぞお楽しみください」


 それを聞いた会場の人達はお互いの顔を見合わせながらまばらな拍手を送る。それを尻目に私は立ち上がって言った。


『アキンボ、今からその氷を砕いて器に取り分けて』


 それを聞いたアキンボは『ああ』と頷く。そして私は遠くに控える使用人を手で呼び寄せると言った。


「砕いた氷に切った果物を盛り付けて冷やして皆に配って」


 それを聞いた使用人は頷いて天幕の後ろに消えて行った。


『切った果物を盛り付けるだけって…。手抜きすぎない?』


 いつの間にか横に来ていたフランに答える。


『百人も居るんだからシンプルな方が良いよ』


 私達が話している間に、アキンボは渡されたミノで懸命に氷を砕き始めた。


 …あれ? そう言えば鎧の少女って会場に来てるのかな? 


 気になって振り返って会場を見渡しても褐色の少女の姿はない。


 …居なくない?


 そう思って団長の顔を見ても、彼女は素知らぬ顔のまま微笑んだままだった。


 なんか企んでるのかな…。騎士なのに?


 そんな杞憂を尻目にアキンボはつららを大まかに砕いた。その砕いた氷を横の農民たちが更にミノで細かく砕いてザルに乗せると、農民の妻達が天幕の向こうへと運んだ。天幕の向こうの妻たちは粗目に砕かれた氷を更に細目に砕くと器に乗せる。臨時の厨房の使用人たちは切り分けた果物を氷の器に盛りつける。私は厨房の奥様方にキレイにみえるカットを教えると、使用人たちにキレイな果物の盛り付け方を教えた。するとその手伝いの中にヘルミが居るのを見かけた。


「あ、ルリコ様」


 ヘルミは急いでいたのか甲高い声を上げると、私を追い越しながら後ろ手に振り返って会釈する。


「丁度よかったヘルミ、ちょっと頼みがあるんだけど。農家に行って牛のお乳をもらってきてくれない?」


「えーめんど…くさくない…っす。ひとっ走り行ってきまーす」


 不満を口にしようとしたヘルミが私の背後の誰かを見て踵を返して走って行く。振り返るとそこには半眼のままヘルミを見つめるアキレアが立っていた。


「あ、そうだ」


 走り去ったと思ったヘルミが振り返ると言った。


「ルリコ様、ティッダが言ってたんだけど…」


「ティッダ?」


「あの…エルフで褐色の彼ですよ。この前ウチが水渡した…」


 私の脳裏に冷たい目でヘルミを見ていた褐色肌のエルフの顔が浮かぶ。


「ああ…アイツね」


「はい、あの彼から伝言を頼まれて…。クリシダさんがバナナ以外に代用できる素材を探しておく…って言ってたって伝えてくれって…」


「ふーん。わかった」


 そう答えるとヘルミははにかんで言った。


「じゃあちゃんと伝言したってティッダに伝えておきますね」


 そう言われて嫌な予感がした私はヘルミを手で止めて言った。


「ヘルミ、ヘルミは可愛いんだから。ちょっとガード硬くしないと駄目だよ」


「わかってますって! じゃあ行ってきます」


 そう答えると脇見もふらずにスッとんで行ってしまった。


 あー…。なんかホストに騙されそうな女みたいな感じがする。どうしようヘルミ…。


 そう思って顎に手を当てて考えていると、背後の天幕からフランの声が響いた。


「ルリコちょっと来て! アキンボが大変!」


 声に振り向くと、天幕の切れ目の向こうでフランが手招きをしていた。私が歩み寄ると、天幕の裾を持ち上げながら耳打ちをするそぶりをした。


「見て」


 そう言うと、フランは天幕の裾の向こうを顎で示したので、覗き込むんだ。すると布の向こうで氷を砕くアキンボに群がる人だかりが見えた。その人だかりの中から一人の女性がアキンボに近づいて背中に声をかけている。


 あれってポテじゃない? 紙すきを頼んだハズのポテがどうしてここに?


 ポテはアキンボの背中から覗き込むようにして彼に懸命に何かを語り掛けていた。私は屈んでフランの腕の下を通ると、アキンボの方へと足早に歩み寄った。その途中、ポテがアキンボに語りかけている内容が耳に入る。


「それ以上はお止めになったほうがよろしゅうございます。もう手が真っ赤ではありませんか。痛くないんですか?」


 その声を聞いて私がポテの手元を見ると、彼女の言う通りアキンボの手は氷のせいで真っ赤になっていた。


「痛くはない」


 そう言うアキンボの口元は強く引き締まり、深い眉間のシワがよっている。


 いや、どう考えても強がりでしょ。


 そう思って屈みこんで作業するアキンボの足元に近づくと言った。


「アキンボ、アタシが交代するよ。手をお湯で温めて来な」


 その言葉に彼は振り返りもせずに「必要ない」とだけ言った。


 いや、日曜大工の頑固親父かよ…。


 そう内心思いながら、彼の横に腰を下ろしてかける。


「モテない男がやりがちなダメルーティーン。一生懸命やれば、相手が想いが届く、報われると思い込むこと」


 その言葉を聞いたアキンボが強面を私に向ける。


「いきなり凄いプレゼントとか無茶な努力は相手からしたら重すぎるって…」


 まあ、初めての好きな人ができた男の人ってそういうの結構あるあるではあるけど…。


 それを聞いてアキンボは手のミノを膝に置いて眼を伏せた。


「ではどうすればいいんだ?」


「相手が喜ぶことをやるんだよ。男の人が苦しい様子を見て喜ぶ女の子なんて居ないよ」


「しかし俺は…奴が何をすれば喜ぶのかを知らない…」


「だからそれを知らなくちゃ。そっからだって。一旦話してみな? そんなところで氷削ってるヒマなんてないって」


「いや、氷を削らせたのはお前だろう?」


 いや、それはそうだけど…。


「だから変わるって言ってるじゃん。いいから行ってきなよ」


「しかし一体何を話せば…」


「そんなの…この氷を取って来た土産話でも聞かせれば? まあ…その前にあの子に言葉が通じるなんてわからないけど…」


 ていうかあの鎧の娘ってこの会場に来てるの? 全然姿が見えないけど…。


 そう思って立ち上がって会場を見渡すと片手を小さく上げたリリア団長が目に留まった。その隣に白無垢のドレスを着た褐色の少女が立っている。私の背後でアキンボが立ち上がった気配がする。


 多分あの子、鎧の娘だよね? うわー。こういうのって失礼だけど…馬子にも衣裳ってやつ? 褐色の肌に白いドレスというギャップ効果が…。凄く可愛い…。


 そう思った瞬間ソルヒルドは自身の身をかがめて自分のお尻に手を運んだ。団長はその手をすかさず掴むとそのまま私達の元へと連れて来た。ソルヒルドは手を取られた間、まるで苦い薬を飲まされた子供様に露骨に嫌な顔をしながら付いて来る。


 あー…。どんなに外見が良くても行儀が良くないと女って駄目なんだな…。


 そう思ってつい頭をかこうとした私の手が頭の上で止まる。


 リリア団長が上座のテーブルの前に立つと会場を振り返ると、ソルヒルドの手を掲げて言った。


「皆様、どうか静粛に。ご覧あれ。いま、この舞台に一つの光が現れた」


 そう言うと団長はソルヒルドの肩に手を置く。


「名は、ソルヒルド。 かの《太陽の騎士》に仕えし従者にして、その輝ける鎧を受け継ぎし者。けれど長き旅路は、彼女を世から遠ざけた。 友なく、言葉を選ばず、まるで野に咲く花のようにただ、まっすぐに」


 慈しむような表情でソルヒルドの顔を覗き込む団長にソルヒルドはあくびで返す。


「その孤独を、私は見過ごさない。 その輝きを、私は埋もれさせない。ここに宣言する。

ソルヒルドをクインストラナイツの従者として迎え入れる!その身のすべて、栄光も責めも、この私が引き受けよう。さあ、見届けよ。新たな光が、いま騎士団に加わる瞬間を!」


 その宣言を聞いて場内のクインストラナイツの騎士達が拍手をする。すると場内で困惑していた貴族や有力農民っぽい人達が一斉に手を叩く。


 すると団長から離れた所で副団長が前に出て言った。


「会場の者、傾聴せよ。ただいまより、エルフ様の御厚意による氷菓を下賜される。各々、感謝をもって受けよ 」


 その言葉と共に、天幕から使用人たちが一斉に現れると、手に持った盆に乗った氷に乗った果物の小鉢を会場内の人達に配り始めた。途端に困惑していた会場の人達は器にも割れた果物と氷に眼を奪われて、上座の団長と鎧の少女のことは眼に入らなくなってしまったようだ。それを尻目に団長が私達の方を見ると片目でウィンクしてくる。


 成程なぁ…。明らかに身分違いのソルヒルドと私達を会わせるために一芝居打ったみたいな感じなのかな?


 そんなアキンボに使用人から果物の器を受け取ったフランが近づいて行った。


「ホラ、持って行ってあげなよ」


 フランに背中を押されて鎧の少女の前に出たアキンボはゆっくりと近づいた。それを見て、団長もソルヒルドからそっと離れて副団長の方へと向かう。器を持ったアキンボに気づいて見上げるソルヒルドに器を差し出すアキンボ。二人の視線が交差すると彼は口を開いた。


「果物は好きか? 俺は…苦手だ。果物は簡単に潰れるからな。でも…お前が好きだったらそれでいい」


 その言葉にソルヒルドはポカンとした顔をしつつも、器の氷と果物を見て目を輝かせた。そして彼女は手の餌をついばむ鳥の様に器から果物をつまむとそのまま開けた大口に放り込んだ。途端に口からこぼれる果物の汁に副団長は目元を手で隠して天を仰ぐ。横の団長もやれやれと肩をすくめる。その汁が口元から顎に流れ、ドレスに滴りそうになったのをアキンボの指が拭った。その瞬間私と、フランの息を飲む音が聞こえた。


 アキンボが女の人を触った。


 そう思って私とフランは顔を見合わせる。他の人は気づかないだろうが、力が強すぎて子供や女の人を触れない彼が不意に彼女を触った。そのことがとても意外で嬉しかったからだ。


「アハ」


 フランが笑う。私も笑った。振り返るとソルヒルドはそんなことは構いもせず、果物の下に引いてある氷をバリバリとかみ砕き始めた。そうして汚れたまた口元を拭こうとアキンボが手を差し出すと彼女はその手を掴んだ。


「あ――」


 そう呟くアキンボの赤く腫れた手をソルヒルドがジッと見ると、その手をそっと頬に当てさせた。すると途端に彼女は身を震わせると笑って言った。


「冷やっこい」


 それを見て私の頬がゆるむ。私達は顔を見合わせる。


 ――いい感じじゃん。


 そう思っていると、横から先ほど誰かが近づいて来た。見るとそれは先ほどアキンボを諫めていた若奥様のポテだった。


「かわいらしい二人ですね」


 そう含み笑いをしながら近づいて来るポテに笑いかけながら聞いた。


「さっきはありがとう。あれは私達の幼馴染でね…ところでポテは何でここに?」


 そういうポテの恰好は以前のモブっぽい農民女性の恰好より大分小ぎれいになっている。


「あの…団長様が、その、紙が要るって来なさって…。いろいろ…相談、されて…その、そんな具合でして… 」


 ええ…。まあ…現場に騎士の団長が来たら作ってしまうもんだろうけど…。団長さんはそんな無作法しないと思ってたんだけどな…。


 そう思っていると横から近づいて来た団長が胸に手を当てて頭を下げる。


「ルリコ様、先日は御工房のご助力に深謝を。あの紙面、実に見事でございました。ポテのような逸材を見出しておられたとは、ルリコ様の慧眼、まことにお見事にございます 」


 そう言われて頬をかきながらしどろもどろに答える。


「いや…褒めてくれるのは嬉しいんだけどさ…。紙は表に出せない商品みたいになってるから…。次回からはそういうの報告してからやってくれると助かるかなーって…」


 そう言うと、団長は下げていた顔を上げて言った。


「おや? その場に居合わせたエルフの方には、確かにお伝えしたのですが」


 そう言われて私は団長を振り返る。


「え、そのエルフの方って…どんな人? 名乗ってた?」


「いえ、彼女は名乗りませんでしたが、確かにルリコ様にお伝えすると…。人相は忘れもしません。森の闇の様に黒い髪に、顔にあるアザがありながらも怖気をふるうような美しい方でした」


 クリシダだな…。


「わかったありがとう。この件は私の方で整理しておくね」


 そう言って不安そうにしているポテを大丈夫と安心させる仕草を送りながら再びアキンボ達に視線を向ける。アキンボ達はいつの間にか少女と一緒に立った氷柱を触ったり舐めたりしてふざけている。すると、団長が更に続けた。


「ルリコ様。今宵お招きしたのはポテのみならず、ラッセルとクラリネもでございます。

いずれも、ルリコ様との御歓談を心より楽しみにしておりましょう」


「クラリネが?」


 そう言われて私は会場内を見渡す。緑の芝生の上に貴族や商人、裕福そうな農民

達が所狭しと並んでいる。そのきらびやかな装いに囲まれていると、空気まで整っているようで、なんだか掃除したての部屋にいる気分になる。


 言っちゃあ悪いけどボロボロの服着てる人達より、小ぎれいな人達に囲まれてる方が心が洗われる気分になるよね…。


 そう思ってクラリネを姿を探して人ごみに分け入ると「ふざけるな!」と場違いな怒声が耳に飛び込んできた。声の方を見ると、やせ形の中年貴族が給仕の恰好をした赤毛の女騎士に食ってかかっていた。神経質そうなやせ形の貴族は女騎士を睨みながら地面を指さして言った。


「おい、貴様! これを見ろ! お前のせいでエルフ様の賜物がおじゃんではないか!」


 見ると、二人の間の地面には器に盛った果物が落ちてぶちまけられていた。


「はあ…? 私のせいですか?」


 あの娘…。以前にアキンボと試合してた娘だよね…? なんかやらかしそうだなぁ…。

最近はなろうや異世界市場も色々あります。しかし結局最後に残ったのは、「ルリコの旅の果てを見たい」という気持ちでした。


作品ごとに形や舞台が変わっても、今自分が追いかけているテーマは、ルリコの旅の果てに辿り着くまでは、多分あまり変わらない気がしています。


なので、この物語も最後まで書きたいと思っています。


もしよければ、この先も付き合っていただけたら嬉しいです。

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