オーク洞窟調査 3
再びオークの洞窟にやってきたリオ。エーベンとダッツが奮闘していたエリアにはたくさんのオークが倒れていた。
外傷がないものはリオの魔術によって死に至らしめられている。奥に道が続いているが、リオはオークの死体を観察した。
エーベンとダッツによって倒されたオークに外傷はあるものの、やはり二人の魔術に決定力はないと再認識する。
「もっと魔術を磨かないと、いつか大怪我するかも……」
怪我でうなされる二人の姿を見たからこそ、リオは反面教師にすることができた。
もっと死を明確に認識させる魔術はないかと考えて一つ思いつく。歩みを進めて、次にオークと遭遇したら試そうと考えていた。
「さっそく来た!」
数体のオークがゾロゾロと奥からやってくる。しかし今度のオークは様子が違う。
鎧を着込んでおり、手には武器だ。オークの怪力でゴブリンと同じく武器を持つ。その危険度を認識したリオはさっそく試した。
エーベンの氷柱をヒントに、より鋭利で巨大な氷柱の幻を生成する。
「ふごっ!?」
「刺されたら死ぬよ!」
オークに言葉が通じるかどうかはリオにもわからない。より効きやすくなるようにダメ押しのダメ押しだ。
鋭いナイフがそれぞれのオーク目がけて放たれた。炎とは違って凶器は殺傷する為に作られている。視覚的に、より死をイメージさせるのだ。
幻のナイフがオークの心臓を含めて、胴体に深々と刺さる。結果、醜い断末魔をあげたオークがよろけながらもやがて倒れた。
個体によって痛みの感じ方などに時間差はあるものの、これもこれで成功だとリオは一息ついた。
「地図、地図……」
リオは洞窟内の地図を作製しながら進んでいる。すべての探索を終えないことには調査完了にはならないからだ。進むたびに大量のオークが襲ってくるため、リオは気を抜けない。
ヘルハウンズに始まり、リオは魔物討伐のたびに思うことがある。先日にしてもオークを醜悪と評したリオだが、彼らの住処を荒らしているのは自分だ。ではなぜ、こんなことをしているのか。
迷ったらアルムの顔を思い出す。エーベンとダッツを預けた村人も同じだ。
「うん、殺されたくないからだ……」
魔物にも事情があるかもしれないが、討伐しなければ殺されるのだ。魔の物と書くように、彼らは人に仇成す魔の存在。古来から互いの生存権をかけて争ってきた。
武器で戦い、今は魔術を駆使して生き延びている。魔物もあらゆる手段を用いて、人間を殺して食らう。
――魔物ってなんで人を襲うんですか?
――人間だって家畜を利用して食べたりしてるじゃない。
――生きるためですか?
――そもそも人だって痛めつける喜びに目覚めている奴がいる。リオ君はリオ君で自分なりの理由があるでしょ。
「僕は僕でいい」
セレイナは静かに暮らしたいという理由で魔物が住む森に住む。彼女はリオのように小難しいことなど考えていない。
生まれてから一度もストレスなど感じたことがないのではないかとリオすら思うのが魔女セレイナだ。
師匠のような人間を目指すべきではないが、学ぶべきところは学ぶべきだとリオは思った。
「君達だってたくさん人を殺してきたよね」
一際、巨躯のオークがやってくる。この個体がオークのボス、オークキングであることは疑いようがなかった。
何せ倒れている仲間のオークの頭部を踏み潰してやってきたのだから。一切隠さないその残虐性はリオの討伐意欲をより掻き立てる。
オークのボスがいたとすれば等級でいえば三級、迷わず逃げろ。ゴドルによる念入りの忠告だ。
「ゴドルさん、ありがとうございます。でも僕は勝ちます……!」
「ブゴァァァァッ!」
オークキングといえど、やることは同じだ。より死を明確に感じさせられるようにリオは集中する。
巨大なナイフではない。彼らが捕食にしろいたぶる為にしろ、対象となるのは弱い生物だ。それなら同じことをすればいい。リオはイメージした。
少ない経験の中でリオがもっとも強かった魔物の姿を幻で作り上げる。
「フゴ……!?」
「ヘルハウンズ。餌だよ」
ヘルハウンズの二つの頭部がオークキングを射竦める。部下を踏み潰して、リオを殺す気だったオークキングが固まった。
ヘルハウンズは植物だろうが構わず餌にする獰猛で雑食な魔物だ。その恐怖をオークキングに思い知らせるべく、二つの大口が開いた。
鋭い牙がオークキングに深々と刺さり、その時点で食われたと認識してしまう。激痛や咀嚼の工程を感じさせた時にはひどい惨状だった。
「お、お漏らし……」
オークキングは体中からありとあらゆるものを垂れ流していた。耐え難い激痛だけではなく、恐怖がそうさせたのだ。
リオは改めて自分の魔術の怖さを知った。ほんの少しでも本物だと認識させてしまえばいい。オークキングは自分が捕食されたと思い込んで死んだのだ。
自分でやっておきながら、リオはオークキングの粗相を見て思うところがある。
「こ、怖かったよね。僕もそうだったし……」
エーベンやダッツのような魔術による外傷があるわけではない。ある意味でもっとも残酷な魔物討伐だ。
初戦闘での自分の粗相をリオは嫌でも思い出す。同時にやがて感じる臭気に耐え切れず、リオは退散した。
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