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昇級会議

「では昇決会議を始める」


 王都の魔術協会支部長クリード他、数名によって行われる昇決会議の空気は重い。

 明るい会議とはならないからだ。免許習得に値しない魔術師、ろくに活動すらしてない魔術師、犯罪に手を染めた魔術師。

 そんな者達をまともに吟味せずに免許を与えた前任の支部関係者。彼が着任する前の惨状だ。


「私が支部長となってからは少しはマシになったと思いたいが……今一つだな」


 自戒を込めたクリードの発言だ。

 近年、魔術師の質の低下が著しかった。理由は様々だが、この事態を重く見たクリードはより習得条件を厳しく設定する。

 その結果、免許習得率が下がってはぐれ魔術師が増えたが彼にとってはどうでもいい。 


「賢者によって魔術は手軽なものとなった。その結果、ある程度の魔術が使える者が増えた。それ自体は悪くない。質が低い魔術師が魔術師面して大手を振って歩く。大衆は彼らを賞賛する。彼らがまともな魔術師だと思い込む。これによる弊害は今更、話すまでもないな」

「それどころか近頃では魔道具なるもので、魔術を放てるようになりましたからね。いつか魔術師が不要になる時代がくるかもしれませんぜ」

「ゴドルさん、それはそれでいい。私が言いたいのは……」

「このままじゃ魔術という概念が悪い意味で形骸化して後世に伝えられる……。クリード支部長が危惧するのもわかります。すでに現状、この有様ですからね」


 ゴドルが資料をつまみ上げる。そこには魔術師による討伐任務失敗の事情が赤裸々と綴られていた。

 光と影が表裏一体であるように魔術師が賞賛される一方で、彼らの不始末を認識している者が少しずつ増えている。これがどのような事態を招くか。魔術師の地位の失墜や衰退だけではない。


「魔術師に対する反乱……第二の革命が起こる可能性すらある」

「かといって出来の悪い魔術師の免許を剥奪するだけじゃ解決は厳しいですね。はぐれ魔術師になるだけだ。そもそも教育体制や法整備がまったく追いついてないからこうなる」

「国は魔術師への無駄な支援をやめない……と、愚痴をいっても仕方ないな。本題に入ろう」


 クリードが魔術師の資料を改めて確認する。各等級、一定期間でのそれぞれの実績を考慮した上で昇級を決定するのだ。

 同じ等級の魔物を一定数、討伐すれば昇級というのが一般的な条件だが厳密には細かく決められている。

 日頃の素行、仕事への積極性、討伐内容。様々な要素を取り上げて議論を交わし、最終的にはクリードが決定するのだ。さっそくクリードが嫌悪したのは二人の魔術師だった。


「五級魔術師のエーベンとダッツ。先日のオーク討伐で大怪我を負っている。まったく不甲斐ない……」

「討伐任務もここ最近はほとんどやってなかったみたいですぜ。そこで目をつけたのが新人魔術師のリオってわけですな」

「彼の件はすでに把握している。こんなカスどもの命を救った上にオークキングまで討伐したようだな」


 あのオークキングを、と誰かが呟く。そして誰もが魔女の弟子というフレーズを真っ先に思い浮かべた。


「オレとしては彼の昇級に異論はありませんな。他は?」

「ゴドルさん、あるはずがないでしょう」

「オークキングなんて出来れば俺でさえ戦いたくない」

「私なんか父上からはオークの討伐方法よりも、オークキングから逃げる方法を教わったほどだぞ」


 満場一致、リオの昇級に異論がある者はいない。それどころか何度も資料を読み返している者さえいた。


「あのセレイナが弟子と認めただけはある。いや、ただ強いだけではないな。彼の魔術については疑問が多い」

「クリード支部長も気づいてましたか」

「実技で使われたあの板、破壊された痕跡がまるでないな。夢でも見ていたのかと思うほどだ。が、彼の昇級については問題ない」

「では四級に?」


 場がざわつく。彼らも認めていたとはいえ、異才と評された一級の魔術師『閃光』と並ぶ昇級速度だからだ。

 ここまでくると根掘り葉掘り知りたくなる者が出始めるのも仕方なかった。


「先日、オークキングの死体を確認した者によれば実に奇妙な状態だったそうだ」

「外傷が一切なかったと聞いた。何か恐ろしいものでも見たかのような有様だったと……」

「あの少年は何者なのだ?」

「セレイナとはどこで出会った?」


 クリードもまた考えていた。他にもう一つ、決めねばならない事があるのだ。

 

「御前試合の代表候補枠がまだ残っていたな」

「へ? ク、クリード支部長。まさか……」

「ゴドルさん、彼の真価を知るにはいい機会だと思わないか?」

「で、でもさすがに早すぎませんか?」

「まぁ後々の話としてな」


 流したクリードだがゴドルを含めて、興奮が収まらなかった。時には三級以上の魔術師を批判することもある辛口のクリードがリオを改めて高評価したのだ。

 貴族や王族は常に優秀な魔術師を欲している。御前試合は魔術協会支部を彼らに売り込める数少ない場だ。魔術師としての最高峰、夢。様々な形でいろいろな魔術師が語る。


「では次、エーベンとダッツ……この二人は」

「支部長、その二人はもう終わりましたぜ」

「そうだな、すまない」


 クリードが資料を取り違える。珍しいこともあるものだと会議の場は少しだけ和んだ。

 それはリオという特異な存在によって、クリードの心が揺れている証拠だった。謎の魔術、素性。本来であれば関わりたくない相手だが、セレイナを問いつめようかと本気で考え始める。

 しかしそんな思惑も、なぜ魔境を越えてまであの女の相手をしなければならないのかと思った時点で頭の中で雲散した。

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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