38 こたつとおやつ
時代は進み惑星の環境は氷河期に突入していた。
赤道に近い地域を除いて生命の存在が希薄な、曇天と雪原に覆われた世界だ。
そんな静かな世界の片隅で人類種は原人から旧人類へとその姿を変えていた。
覗き窓には寒々とした雪景色、惑星とリンクしているシアも寒さが身に染みているようだ。
「ぁー冷えるわね。こたつ出しましょ、こたつ」
毎度恒例となった氷河期のこたつ出しである。
シアが指を鳴らすと神の部屋の開いてるスペースが淡く輝き、座って入るのにちょうどいい高さのこたつが生成される。
厚手の靴下や袢天なども生成されており、神の部屋が一気に和風に傾く。
さらには伸ばした足が寒くないように敷布が敷かれ、座っても脚が痛くならないように座布団も生成してあるなど、シアのこたつに抜かりはなかった。
氷河期を迎えるたびに豪華になるこたつ、ルナの対応も手慣れたもので台所から手早くお茶とどら焼きを持ってくる。
どら焼きは自生している小麦の原種を挽いて作った小麦粉と、マメ科の植物と果物から抽出した果糖を用いて作った自家製あんこで作ったものである。
ルナは通常の惑星運営の仕事も行いながら新しい植物が発見されるたびに食材テストを行なっている。
時代が経つにつれてレシピのバリュエーションは増え、味も進化していくのだ。
二つ以上の事柄を同時遂行できるのはルナの『マルチタスク』という特殊技能で成せる技だが、まだまだ余裕があるようだ。
三人でこたつに入りながら氷河期となった地上を見ていると、空からふわりふわりと雪が舞い始めた。
「……雪って美味しそう……」
「そんなラヴィーちゃんには特製のかき氷を用意しますよぉ!」
ルナの伸ばした手の先で『星の願いを』が発動し、こたつの上で淡い光が輝く。
光が収まるとそこにはペンギン型の可愛らしいかき氷製造機と受け皿、ペンギンの頭部にセットされた透明な氷、そしてルナが以前作った果汁シロップ入りの小瓶が生成されていた。
ルナがペンギンの頭部についたハンドルを勢いよく回すと、綿雪のようなかき氷がシャラシャラと受け皿へ舞い落ちていく。
程よい大きさになったところでシロップを掛け、溶けて萎んだ分のかき氷をもう一度積み重ねてさらにシロップをかける。
ついに完成かと思ったところでルナは更に『星の願いを』を発動させる。
牛っぽい偶蹄目の生乳と果糖で作った秘密兵器、コンデンスミルクをその手の輝きの中に生成する。
左右に振りながら細かい波形になるようにミルクをかけ、さらに九〇度ずらして交差するようにミルクをかけていく。
そうしてようやく出来たかき氷をお盆に乗せてラヴィーの前へと運んでいく。
興味津々でかき氷の作成過程を見守っていたラヴィーだったが、いざ完成したものが目の前に来ると戸惑った様子でなかなか食べ始まらない。
「ラヴィーちゃん? どうかしましたか?」
「……綺麗すぎて……食べていいのかわからなくて……」
「ラヴィーちゃんのために作りましたから、たくさん食べていいんですよ」
「ん……いただきます……」
ルナの諭すような笑みに見守られながら、ラヴィーは幸せそうにかき氷を頬張っていく。
「……おいしぃ……すごくおいしぃ……!」
「それはよかったです。……ちょっと失礼しますね」
そういってルナが引っ込んでいった台所から『ラヴィーちゃん可愛すぎかーーー!』と獣のような咆哮が何度も聞こえてきた。
しかし、目を輝かせてかき氷のおいしさに夢中なラヴィーには届かなかったし、シアは聞かなかったことにしたのでなにも問題はなかった。
ルナはラヴィーが半分ほどかき氷を食べたころに戻ってきたが、ラヴィーから幸せ成分を補充しすぎたようで一分もしないうちに再び台所へと引っ込んで雄叫びをあげていた。




