35 やきにく!
シアの神域で行われたバーベキューはおおいに盛り上がっていた。
ルナが切り分けた肉も半分以上が消費されていた。
「おいしいわねー」
「……まだまだ焼く……」
「残った枝肉は干してジャーキーにするのも良いかもしれませんね」
焼き肉の楽しみ方は各自バラバラだった。
シアは薄く切ったロースを軽く炙っただけのミィデアムレアで、わさび醤油でのんびりと。
ラヴィーはモモ肉の塊に鉄串を刺して、軽く塩胡椒をかけたものを丸焼きにして豪快に。
ルナは残りそうな部位を燻製にかけて保存食に加工しながら、シアとラヴィーの面倒も見ながらたまにつまむ程度。
まさに三者三様。
それでも皆で一緒に食べる食事はとても満たされたものだった。
「そういえば、だいぶ調味料も増えてきたわね」
「地上の植生もだいぶ現代に近づいてきましたからね」
ルナが用意したのは海水から生成した塩、殺菌作用と辛味のある赤い実を乾燥させて粉末にした胡椒モドキ、マメ科の植物を発酵させて作った醤油と、山奥の清流に生えて居たわさびの原種だ。
ルナの食材探しはラヴィーが来てからより一層気合が入っていたが、シアがいた地球の食材を再現しようとしても限界があり、歯がゆい思いをしていたのだ。
しかしこの世界の星の歴史が進んだことで、似たような食材が続々と誕生してきた。
最近では食材研究が格段に捗り、日々新しいメニューが食卓に上がるようになっていた。
今回使われた調味料類も食材研究の成果なのだ。
お昼前から準備を始め、正午には食べ始まった焼き肉パーティーも楽しい雰囲気の中、二時間ほどで終りを迎えた。
食事の片付けをしていると、ラヴィーがシアの近くを浮遊する謎の物体に気がついた
それはノート大で白いフレームの液晶端末のような形をしていた。
両側には渦巻いた意匠の丸っこい羽がついており、シアのそばでゆらゆらと滞空している。
「……シア様……それなに?」
「ん? あーこれ? これは携帯型の地上観察窓よ。何かあったら困るから一応作っておいたのよね。まぁ特に何もなかったけど」
「シア様。少し見せていただいてもよろしいですか」
「あら、ルナもこういうの好き?」
「いえ、原人達の様子が気になりまして」
「あぁ、そっちね」
「シア様、わたしは可愛くてこれ好き……」
「ありがとーラヴィー!」
正面から抱きしめられたラヴィーは幸せそうな表情でシアの胸元に収まっている。
それを見たルナはたまらず批判の声を上げる。
「むむ! シア様ばかりずるいです!」
「えーいいじゃない。ラヴィーはかわいいから、いつまでもこうしていたいわー」
「ん……シア様あったかい……」
そんなこんなでラヴィーが開放されたのはしばらくしてからだった。
シアの胸元から開放されたラヴィーは、とてとてとルナに近づいていく。
「……ルナおねぇちゃんも……ぎゅー」
「ああああぁ! ラヴィーちゃん!? 私は幸せ者です!」
「ラヴィーは優しいわねー」
ルナの顔はだらしなく弛みきって、口の端からはよだれが滴り落ちている。
ラヴィーのほうが身長が高いのもあって、これではどちらがお姉さんかわからない。
ラヴィーのぬくもりを堪能したルナが佇まいを直してシアと向き合う。
「焼き肉をしている間に原人達の集団生活も板についてきましたし、そろそろ火起こしの道具を授けても良いかもしれません。自然に任せるのもいいですが、石器の例もありますし早いに越したことはないでしょう
」
携帯型覗き窓から得られる情報で、地上の現状を把握しシアへと今後の方針を伝えるルナ。
しかしその背後には未だラヴィーが抱きついており、いまいち締まりがない。
「……ラヴィーそこ気に入ったの?」
「ん……落ち着く……」
「も、もう! ラヴィーちゃんは甘えん坊さんですねぇ!」
ルナの顔はまたもとろけきり、時たま『ぐへ……ぐへへへ』と歓喜の嗚咽とヨダレらしきものが口元からダダ漏れになっていた。




