優しさと意地悪。
詩苑の暴走にはもう手が付けられません(笑)
あえての放置でいこうと思います←
蓮ファイト!笑
詩苑が去った後も、私はしばらく動けなかった。
……ファーストキスだったのに。
何であんなことをされたのか、未だに理解出来てなかった。
————早く、教室に戻らないと。梓と麻衣が待ってる…。
廊下を早歩きで通りすぎる。動揺しっぱなしの頭で教室へ向かった。
扉を開けると一斉に囲まれた。主に女子に。
「ねぇどこ言ってたの!?」「あの男の子、誰!?」「今までの間なにしてたの!?」「もしかして付き合ってるの?」
お願いだからそんなに一斉に聞かないで。そんなに一斉に近づかないで。
耳に飛び込んで来る数々の声と女子達のつけている香水のにおいが混ざって気持ち悪い————
詩苑とのやり取りのせいで気疲れしていたのもあって、私はそのまま床に崩れた。
梓と麻衣が慌てて駆け寄る声。そこで私の意識は途切れた。
☆*。☆*。☆*。☆*。☆*。
「……ん」
目を開けると見えたのは心配そうな顔の梓。
ここはおそらく保健室だろう。
「蓮っ!!大丈夫!?」
「うん……大丈夫だよ。麻衣はちゃんと静くんと帰った?」
「ええ。本人は残るって言っていたんだけれど。せっかく静くんが迎えにきてくれてるんだから…って帰らせたわ」
「よかった!ごめんね、私重かったでしょ?」
「あ、違うのよ。私が運んだ訳じゃないの」
「え?あ、じゃあ先生?」
梓は首を横に振る。
「静くん……は、ないよね?」
これも違う。じゃあ他に誰が……?
「ほら、朝の男の子よ。確か…詩苑くん、だったかしら」
詩苑、という名前に勝手に体が反応して、思わず身を縮めた。
「えっ…なんで?」
「さぁ?本人曰く、たまたま通りかかったみたいよ?男の子ってすごいのね、あんなに細いのに軽々持ち上げてたわよ」
他にも、蓮が意識を失った後の女子の反応や、その後の詩苑の登場について、話を聞かせてもらった。
「私はもう、帰るわね」
「えっ待ってよ!私もいっしょに……」
帰る、と言いかけた時だった。
ガラッ…と保健室のドアが開く。
「先輩、約束忘れちゃったんですか?」
「あっ…………」
そうだった。昼休みの約束。ちゃんと守らないと何をされるか分からない。
くす…と笑った後、梓が笑顔で言った。
「じゃあまた明日ね。朝、いろいろ聞かせてちょうだい」
ひらひらと手を振って保健室から出て行った。
「ね、先輩…どーする?2人きりだよ…?」
一気に心臓のテンポが速まる。必死で意識しないようにしてたのに。
「私、鞄取って来る!」
そう言って保健室から逃げた。取りあえず、教室に緊急避難。
急いで上がってきたから息が切れる。
「…鞄、ありましたか?」
静かな声が教室に響く。
「……ない」
「保健室に置きっぱなしでしたよ」
「…………」
「猿芝居はやめてください。先輩、ほんとは知ってて教室に逃げたでしょう…?」
………ばれてる。そう、私は知ってた。だって近くの机に置いてあったから。
でもなんで分かったの…?
「僕が保健室に入った瞬間、鞄の位置を確かめてましたよね」
おそらく無意識に。そう、彼は付け加えた。
「逃げたらおしおきだって、言いましたよね…?」
ゆっくり近づいてくる。私も少しずつ後ずさった。壁に体がぶつかる。
後ろの扉から逃げようと試みた。だがその前に、手首を捕らえられてしまう。
これでもう、逃げ道はなくなった。
詩苑の指は、腕に食い込みそうなほど強い。
「…っいたい!」
「僕、結構怒ってるんですよ。…許して欲しいですか?」
私は必死で何度も頷いた。
「じゃあ、ちゃんと言葉にして…?」
「……っ許して…下さい…!」
「…だったら……」
開いている方の手で、私の唇をそっとなぞった。
「先輩から僕にキスして…?」
「…なっ!?」
「それが出来ないんだったら、このままずっと離さない」
「そんなの…無理だよ…」
「何故?」
かわいらしく首を傾げる。彼の纏う空気は、黒いまま。
「…だって………彼氏…とか、いたことない…から」
「ん、じゃあ10点出せたら帰らせてあげる」
10点……って低いよね。普通は100点だし。そのくらいなら…出来るかな?
でも彼の言う10点とは、そんなに甘いものではなかった。
彼の頭の中での10点はつまり、100点のことだったからだ。
ふっと軽く笑って彼は問う。
「………出来る…?」
しばしの沈黙。その後,蓮は意を決したように答えた。
「…頑張ります。」
じゃないと家に帰れないから。
「そう…じゃあ、好きなタイミングでどーぞ?」
覚悟を決める。蓮は持ちうる限りの勇気をふりしぼってキスをした。
詩苑の唇にそっと触れる。そして同じようにそっと離れると、詩苑の顔色を伺った。
…あれ?なんか、怖いんですけど。
「……はぁ」
彼は深い溜め息をついた。
「み じ か い!!」
一文字ずつ切って不満を伝える。
「しかも力入りすぎでしょ。感触が…ね?」
赤面。感触って……!あれが私の誠意一杯なのに…!?
私いつもは気が強いのに、なんで詩苑の前じゃそれが出来ないの!?
年下に負けてる私って…………。
「…何点くらい?」
「ん…強いて言うなら4点ってとこかな」
「4点!?」
「そーですよ、全然ダメ。もっと力抜いてやって下さい」
「だって教室だよ…?誰かに、見られるかもしれないし…」
そう言うと、詩苑は少し考え込むような仕草をした。
よし!チャンスだ、逃げよう!…と思ったけど、詩苑の手は未だに私の手を掴んでいて。
しかも、さっきほどの痛みはないものの結構がっちり。
「よし、分かった!付いてきて!」
私の鞄もいっしょに持ってくれるのはありがたい。
だけど手ぐらいは離してくれていいんじゃないかな…?
そう言うと、
「だって先輩の場合、鞄くらい余裕で見放せるでしょ?」
と返ってきた。うむ、確かに。
そして連れられるがまま付いたのは【滝本】という表札のある家。
「え…ここって……」
「僕の家です。理由はちゃんと説明するから取りあえず上がって下さい」
「えっ…ちょっ」
ぐいぐい引っ張るものだから、半ば転けそうになりながら付いて行く。
鍵を取り出して玄関を開け、2階へ上がる。
階段を上がってすぐ右にあるのが詩苑の部屋だった。
部屋に入る。カチャリという金属音に振り返ると、詩苑が鍵を閉めたあとだった。
「…なんで鍵閉めるの?」
「向かいの部屋に兄貴がいますから。僕のこの性格を知ってるのは、僕自身と先輩だけですよ」
理由になってない。不満そうにそれを伝えると
「先輩、分かってるんですか…?これから僕達がしようとしてること…」
「何って……キ」
キスの練習でしょ、と言いかけて気付く。頬が熱くなった。
しかも、これってもしかしてかなり危険な状態なんじゃ!?
「…ね?これからするのは、人に見られるとかなり恥ずかしいことですよ」
そう言って嬉しそうに笑った。
「……そんなに私で遊ぶのは楽しい?」
「当たり前ですよ。しかもその相手は僕が好きな女の子なんですから」
うぅ…そんなにストレートに言われると恥ずかしい。
「じゃ、満点がでるまで頑張って下さいね」
その言葉を聞いて思い出す。蓮にはずっと引っかかっていたことがあった。
「ねぇ10点って、100点の中の…ってことだよね?」
にやりと詩苑が笑う。え、なんか嫌な予感………
「まさか。僕の中の10点はつまり100点ですよ…?」
「!!!!」
忘れてた…こいつの本性は真っ黒だということを。
しかし今気付いても時すでに遅し。蓮はもう彼の部屋にいるのだった。
楽しんでいただけましたか?
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