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意外とバレないもんだな





「ーー……」


「お、もう朝か」



 夢中でカマキリ周回をしていたら、いつのまにか空が白んでいた。まだ太陽は出てきていないが、明るくなり始めた空に幽霊であるミュラがげんなりしている


 昼間、太陽が出ている場所だとアンデッド系モンスターは弱体化するからな

 昨日のスタンピードは例外だ



「次の進化まで粘りたいとこだけど、現実の俺も昼飯の時間だし今日はここまでにするか」


「ーー……」


「ミュラもお疲れさん、また夜にな。『リターンホーム』」



 『リターンホーム』は自分にしか使えないが、ミュラは俺のテイムモンスターなためやろうと思えば一緒に移動できる


 ハウスへ帰り、日光の入らない部屋の中にミュラを連れて行ったのち、一旦ログアウトした








 飯食って再ログイン。アバターはコオロギのままだ



「生産レベリングするか。……ついでにごっこ遊びも再開するかな」



 やる意味があるかわからないが、助言NPCごっこを再開するとしよう。昨日のスタンピードみたいに詰みかけるかもしれないし

 最初は夜にやろうと考えていたが、夜はミュラの育成をしたいからな


 手持ちアイテムを整えて『セカン』へ移動。『サーズ』の方が人が多そうだけど、まだファストラ開通してないからな

 それは夜にミュラと一緒に行くこととしよう


 さて、路地裏路地裏っと




「た、頼むっ、タバコをくれぇぇ……」


「うわっ」



 そういやそうだった。今の『セカン』の路地裏はこういう状況になってるんだったな


 ボロ布を纏った浮浪者NPC。こちらから話しかけないかぎりなんの動きも見せないはずの彼らが、俺を見てジリジリと這い寄ってくる


 原因は、俺が使っているタバコだ。こいつらは俺からタバコを恵んでもらおうとしているのだ

 面倒だな、ここじゃタバコは使いづらい


 ただこいつらがいるってことは、まだ()()()()()()はクリアされてないってわけだな

 ならまだ時間の猶予はあるとほっとする


 いや、クリアされてないってのも問題か。これは放置してたらバッドエンドシナリオに傾きかねないからなぁ



「最悪俺がクリアするかな。武闘大会が終わってもまだならやるか」


「タ、タバコをぉぉ……」


「うっせ、やらねーよ」



 足元までにじり寄ってきた浮浪者を振り払う。哀れなやつらだが、この世界じゃ本当に「金は命より重い」。こいつらの半数以上は自業自得だ


 うーむ、ただ路地裏が使えないとなると困ったな……。『サーズ』に進むか、『ファスト』にまで戻るか?


 いや、いっそのこと大胆に行ってみるか






      ・

      ・

      ・



「…………意外とバレないもんだな」



 目の前に見えるのは綺麗な噴水、その周りをNPCやプレイヤーが行き交っている


 そう、俺はこの噴水広場の隅に腰をおろし、『隠密』を使いながら生産活動をしていた


 すぐ注目されるかと思ったが、意外にも誰も俺に気づかない。そりゃそうか、こんな街中で『索敵』を使うやつは少ないし、使ったとしてもここまで人が多ければ俺だけを注視しない


 もし俺を見つけるやつがいたら………そいつは当たりだ。助言を与えるに足るやつだろう。俺というボーナスクエストを見つけたご褒美だな


 ……………見つけてもらえなかったら、どうしよう?

 自分で選んで話しかけるか?こんだけ人がいたらよりどりみどりだけど、逆に多すぎて選べんかも


 求める客は、1人か少人数でいて、情報を求めてる人。あ、あといきなり大袈裟な反応をしなさそうな人かな。それで大勢にバレたら困るし


 ……そんなん見てわかるわけないか。毎回俺は行き当たりばったりすぎるな

 もういいや、帰って普通に生産活動しよう───








「──なんで取っちゃったんだよ、そんなゴミスキル!!」


「なんだよ!オレが取るスキルに口出すなよ!!」


「みんなで取るスキル相談しよって言ったよね!」


「約束破りは泥棒のはじまりだぞ!」


「こらこら、みんな落ち着いて……」




 いきなり、噴水広場に喧騒が響き渡る


 いやに耳につくキャンキャン声の応酬。なんだと思ってチラリと見てみると、5人のプレイヤーが言い争っているところだった


 背格好は、成人した男性のようなプレイヤーが1人と、残りは高校生ぐらいの背丈。だが、その声と内容、イントネーションがどう聞いても中学生ぐらいのそれである


 おかしいな、時間加速型のVR機器って15歳未満は使用できなかったはずじゃ?思春期頃の精神の変化に影響を及ぼすとかなんとかで

 あ、その規制が追加されたのってもうちょい後だったか。そういや『AWR』って時間加速システムの先陣だったな




「しかもスキルオーブまで勝手に使っちゃうしさぁ!」


「なっ、それはいいだろ!オレがゲットしたやつだし!!」


「他のクランのクランマスターはみんなのために使ったって()ってたぞ!!」


「それはそいつらがやってるだけだろ!それにおまえらは自分で使ってるじゃん!!」


「クランマスターなのにみんなのこと考えないタツキが悪いんだー!」


「マスターのぎ、義務?もできないならかーわーれーよー!!」


「喧嘩はやめようか?ここは他の人もいるからね?みんなに迷惑だよ?」



 どうやらあの青年は、他の4人の保護者のようだな。父なのか兄なのかはわからんけど。優しく宥めようとしているが、中学生共は全く聴く耳を持たない


 ガキのお守りは大変そうだなぁと同情しつつも、はやく鳴き止ませてくれとも思ってしまう



「………いい加減にしなさい。これ以上続けるならゲーム禁止にするよ」


「っ…!でもっ…!」


「ここはみんなに迷惑だからね。クランハウスか、ログアウトして外で話し合いの続きをしようか」



 あ、ついに青年がお叱りモードになった。喚いていたガキ共に「ゲーム禁止」は効果抜群なようで、パタリと黙った


 と思ったら、1人のガキを責めていた他のガキ3人がまた喚き始めた



「じゃあクランハウス集合な!クランのみんなにも言いつけてやる!!」


「クランメンバーで票集めたらクランマスターでも追放できるんだからな!」


「タツキついほー決定!ばーかばーか!!」


「な、ちょ、なんでオレが追放なんだよ!おかしいだろ!!」


「あ、こら!待ちなさい!!」



 責められていたガキはクランマスターなようで、他3人のガキは彼をクランから除外すると言いながら走り去ってしまった



「はぁ……大丈夫だと思うけど、俺はあの子達を追いかけるから。タツ──ドラゴンシャイニングは、一旦気持ちを落ち着かせてから来な?」


「…………………………わかっだ」



 保護者の青年は走り去ったガキ共を追いかけていき、残されたガキは俯いてプルプル震えながらブツブツ何か言っている


 ……さっきから感じてたんだけど、なーんか既視感あるんだよなぁあいつ。どっかであったか?



「なんで……俺なら……使えるって思っだんだもん……」



 目的もなさげにフラフラトボトボと歩きながら、涙声でずっと文句を言っている


 あんなのとは関わり合いになりたくないな。知らんふりが安定だ






「………こんなゲーム……やめる………」



 ………それはちょっと聞き過ごせないな


 よし、今日のターゲットはあいつにしよう


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