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ミュラと仲直り(賄賂)


 赤黒いオーラを纏ったミュラが、両手を振り上げて俺に攻撃してくる



「ーーーーー!!!」


「ハッハッハ!効かんな!!痛くも痒くもないでっ、いでででで!!?ちょ、ダメージ入ってる!?!?」



 俺の頭にしがみついてペチペチと叩き始めたミュラ。その一撃一撃がかなり重く、シャレにならないダメージが出ている



「ーーーーー!!」


「『エンチャント・ダーク』!ごめんごめん!悪かったって!!」



 暴れるミュラをむんずっと掴み、頭からひっぺがす。ミュラはそれでもなおジタバタと荒ぶっている


 あちゃあ、これは好感度がマイナスに行ったな

 霊体系なら()()()()()()んだけど、離反される可能性が出てくるからなんとかしないとな


 よし、手っ取り早く物で釣るか



「ほら、これあげるから許して?」


「ーーー?」



 俺は一つの魔石を取り出し、ミュラに渡す。ただの屑魔石じゃないぞ?ダークサーペントからドロップしたボス魔石だ


 魔石は、魔物を倒した際にほぼ確定でドロップするもので、ピンからキリまである。スライムやゴブリンの魔石は二束三文にしかならないが、強い魔物の魔石にはその魔物の魔力が篭っていることもある

 そのせいか属性結晶と混同されることもしばしば


 今回俺が取り出した魔石は、持ち主であったダークサーペントの闇魔力がたっぷり入った質のいいものだ

 未だに怒気を振り撒いているミュラはそれを受け取り………食べた



「……ーーー!」


「美味いか?そりゃよかった」



 魔石は、テイムモンスターの餌になる。といっても空腹度(EP)は満たされないし、魔力も回復しない。ただの、好感度が少し上がるだけの嗜好品だ


 魔石を口に含んで、モキュモキュと咀嚼(?)しているミュラ。そんなミュラの体からは、赤黒いオーラは綺麗さっぱり消え去っていた。よかった、好感度マイナスゾーンからは脱したようだな



「説明不足で悪かったよミュラ。俺が参加すると経験値が減っちゃうんだ」


「ーーー?」


「さてと、巣の中にいる残りを片付けるか。ミュラ、手伝ってくれるか?」


「ーーー……」


「はいはい、もう一個な」



 マイナスは脱したけど、ゼロに近いプラスになっただけだ。ご機嫌取りとして、ダークサーペントの魔石をもう一つミュラにあげる


 うーむ、ちゃんと親密度を上げてから放り込むべきだったな。ミュラ1人で無双できることと、俺が参加できない理由を説明すべきだった


 俺が戦闘に参加してしまうと、アリから貰える経験値が少なくなってしまうのだ




 このゲーム、パワーレベリング避けのためか、経験値システムがちょっと複雑になっている。順を追って説明しよう


 まず、自分と相手とのレベル差。相手のレベルが自分よりも高かったら、そのぶんだけ倒した時の経験値量が増える。逆に低かったら減る

 レベル5のスライムを自分がレベル1の時に倒したら経験値を10貰えるとすると、同じスライムをレベル10の時に倒しても4くらいしか経験値が入らない

「最初の草原でスライム倒してレベルカンスト」は絶対に無理だな。あるレベルから、スライムからじゃ経験値が入らなくなるし


 次に、パーティでの経験値分配。これは、「戦闘に参加した」メンバーで()()()割り振られる。どれだけ貢献度に差があってもだ

 合計1,000ダメージ与えたやつも、10ダメージしか与えられなかったやつも同じ量の経験値がもらえる



 ならば、高レベル者による低レベル者のパワーレベリングもできるんじゃないか?ところがそうもいかない。ここで一つ目の話に戻ってくる


 問題。レベルがバラバラのパーティでモンスターを倒した場合、入ってくる経験値はどうなる?


 答えは、まず、戦闘に参加したパーティメンバーの内、()()()()()()()()人のレベルが参照され、総経験値量が決まる。その後、決まった経験値が参加メンバー数で頭割りされる


 レベル5のスライムを2人パーティで倒した場合、2人ともレベル1なら、10経験値を2人で割った5経験値が2人とも貰える

 だが、自分がレベル1でも相方がレベル10なら、総経験値は4に減る。1人あたりの経験値が2に減ってしまうのだ

 たとえ、ほとんど自分1人で倒していて、相方が補助程度しかしてなかったとしてもだ



 ……うむ、複雑って言ったけど、割と単純だったな。一文で言ってしまえば、「仲間に強いやつがいると経験値が減る」、以上。簡単なことだ


 まあ、それでも寄生プレイはできちゃうけどね。レベルだけ上がっても意味ないけど

 結局は、同じレベル帯の人同士でパーティ組むのが1番効率がいい




 てなわけで、ミュラにがっつり経験値を入れるためには俺は観戦するしかなかったのだ


 本当は巣の中のアリも、女王部屋以外は全部ミュラに任せたかったが、この様子じゃ無理だな。俺もちゃんと手助けしよう



「ミュラ、今からあそこに毒を流し込んで、あの中のアリを弱らせる。ミュラは弱ったアリを倒していってくれ」


「ーー…?」


「大丈夫、毒はミュラには効かないから。あとそうだ、壁は透過しないで、道なりに行けよ?」


「ーーー?」


「塞がれた道の奥にはクイーン(女王アリ)がいてな、そいつに強化されたアリはミュラにも攻撃できるようになるんだ」


「ーーー!?」


「そうだな、だから後で、一緒に、倒しに行こう」


「ーーー!!!」



 ミュラとちゃんと話をする。女王アリのところで、「一緒に」を強調したら、喜んでやる気を見せてくれた

 よし、楽しく話せたな!(パーフェクトコミュニケーション)



 この前と同じように、巣の入り口に[見習い錬金セット]の錬金釜を設置し、もろもろの素材を投入して『強制錬金』。巣の入り口を『クレイウォール』で蓋をし、ミュラには土壁を貫通して突入してもらう


 その間俺は、地上でミュラが倒したアリの素材を回収することにする。[黒大蛇のポーチ]が集めてきた素材を、[初級錬金セット]の錬金釜にどんどん投入する


 釜の中に素材がパンパンに詰まったところで、『錬金』スキルのアーツを発動



「『等価交換』」



 すると、釜の中で素材がドロドロと溶け出し、混ざり合う。まるで粘体生物のようにグニョングニョンとした後、急に収縮し始め、ビカッと光った


 光が収まった後釜の中を覗いてみれば、手のひら大の一つのアイテムのみが入っていた



「よし、[土結晶]に変換完了」



 『錬金』の魅力といえば、アイテムを圧縮して上位のアイテムにできる点だな。まあ、『等価交換』なんて名前のくせして全然等価じゃないから、()()()()()()と組み合わせない限り使うことはないが


 今回は、このままでは持ちきれないため、渋々変換した形だ。アリ200体分近くの素材があったが、土結晶3個にしかならなかった



「さて、ミュラは頑張ってるかなっと、『索敵』」



 おお、地下の反応がどんどん減ってってるな。今のミュラなら、ソルジャー(兵隊アリ)どころかガーディアン(近衛アリ)でさえペチッのワンパンで倒せるだろう


 レベルが上がったことに加え、現在()()()()()()状態だからな


 レイスとかの幽霊系の魔物は、好感度が低ければ低いほど()()()()()()()という特性がある。怨みが強いほど強化されるってことだな

 レイスを初テイムして、「強くて可愛くて最強!」と甘やかしていたら、いつのまにかダメージが減っているってのは初心者あるあるだったりする


 さっきのミュラは、好感度がマイナスなことに加えてレベルも上がっており、なおかつ〈怒り〉状態だったためかかなりの攻撃力を持っていた。危なかったな


 廃人達は「好ゼロ調整」なんてものをするが、ミュラはドッペルゲンガー予定だ。意思疎通をスムーズにするために、好感度は上げていくつもりだ



 まあ、今はその高火力の恩恵にあやかろう。地獄絵図のようにうじゃうじゃいたアリの反応が、錬金毒とミュラの活躍で急速に減っていってる


 それに比べて、地上は平和なもんだ。元々このアリの巣周辺には、ジャイアントアント以外近づかないからな。そのジャイアントアントも殲滅した。なので人も魔物もいない……




「……ん?」



 いきなり、俺の『索敵』範囲内に人間の反応が出現した。範囲外から入ってきたのではない、なにもないところからポッと湧いたようなかんじだ


 結構近くにいるな。しかも、『索敵』で見えるその反応にノイズのような物が入っていて……あ、消えた


 ああ、なるほど。『隠密』スキルのアーツを使っていたのか。効果時間切れと再使用の切れ目をたまたま感知しちゃったっぽいな


 夜の森の中を『隠密』ありきで進んでたプレイヤーがいたんだな。夜はモンスターの数も強さも上がるし、警戒しながら進むのは何もおかしいことではない────



 違和感を覚える


 この辺りにはモンスターはいないのに、何故『隠密』のアーツを再使用した?

 俺の『索敵』でもノイズが入るほど高レベルの『隠密』持ちが、何故この最初のフィールドにいる?


 そして─── 何故、俺の近くにいる?



 生唾をごくりと飲み込む。気づいたような素振りを見せないように注意しつつ、声を出さずに思考操作で『魔力感知』を発動する


 すると、さっきまで何もいなかったはずの場所に、新たに6()()()魔力反応が出現した


 す、既に囲まれている…!?


 さらに、その内の1つの反応が、ジリジリと俺の真後ろから近づいているところだった



 その距離──のこり3メートル


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