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スパルタレベリング

※『生活魔法』のアーツ『デオドラント』を『消臭』に変更しました






「ミュラ、そいつに攻撃」


「ーーー!」


「ギィィ──」


「『ストレートパンチ』。あとそっちとそっちも倒しといて」


「ーーー!!」


「ギィッ──」


「ギギィ──」



 森に入った俺は、手始めにたまたま近くにいたジャイアントアントの群れを殲滅した

 10体はいたが、10秒足らずで倒し切れたな。ちなみに3体はミュラが、残りは俺が倒した


 うーん、経験値が思った以上にしょっぱいな。ミュラのレベルが一つしか上がらなかった。レベルが低い時はもっとポンポン上がるもんなんだが、『公式鯖』は厳しいな


 まあ、この群れはたまたま見つけたから倒しただけで、ただの準備運動だ。目的のレベリング場所に行くとするか



 俺はミュラを伴って森の中をズンズンと進んでいく。このエリアはやっぱり人気がないな。『索敵』に映るのはモンスターの反応ばかりで、人間は一人もいない



「……おっ?」



 『索敵』の範囲に一つの人間の反応が入ってきた。位置は俺の後ろ、この森と草原の境界辺りだな。動きからしてプレイヤーかな?


 あ、離れてった。夜の森を見てビビって帰ったっぽいな


 まあしょうがないか。夜の森ってだけでも怖いのに、巨大昆虫がうじゃうじゃいるもんな。しかも今ならアンデッドのおまけ付き。俺も慣れるまではキツかった



 道中の魔物は、全部ミュラに対処させる。俺が近づく魔物を見つけると、ミュラがフヨフヨと向かっていって、その小さなおててでペチッと1叩き


 それだけで、大抵のモンスターは「ギィッ」と一鳴きしてポリゴンとなる。つよい


 それもそのはず。ミュラのパッシブスキル『魂撃』は、通常攻撃をSTRではなくINT値参照に変更するスキルだ。もちろん攻撃を受ける側も、VITではなくMNDによってダメージが決まる


 デメリットは、消費するのがSTではなくMPになるところか。ミュラのペチッは、一発大体1MPぐらい。それなのに、俺のボール系魔法(5MP消費)並の火力が出ている。つよい(確信)


 この辺の魔物って、STRやVIT、AGIが高いやつは結構いるけど、INTやMNDが突出してるやつはほとんどいないから、ミュラにとってはみんなカモだ

 強いて言えば、ダークサーペントやライトサーペントがMND型、昨日のレッサーリッチがINT,MND特化だな


 うーむ、にしてもサッカーボールサイズのレイス(半透明なシーツ)に、ペチッとされるだけで昇天していく魔物はシュールだな

 昨日みたいに、ゴースト(ゾンビの上半身)に四方八方から群がられてHPが溶けていくプレイヤー達はホラーそのものだったけど




「よし、着いた。ここだな」


「ーー?」


「ミュラ、着いてこい。『シャドウダイブ』」



 とある場所に到着した俺は、影に入って周囲を確認する


 森の中にぽっかりと開けた場所、中心には直径1mほどの穴が空いている。そしてその周囲には、六本足の兵士が10体以上も巡回している


 そう、ここは懐かしのジャイアントアントの巣だ。『索敵』を使ってみれば、下方向に無数の反応があるのがわかる。数えきれない、というか反応が重なりすぎて、アリの巣の形をした巨大な生物に見えてしまうほど大量にいる



 ということで今日は、ミュラのレベリングついでにここを攻略しに来ました


 よさげな場所を見つけ、影から出てミュラに話しかける




「ミュラ、あれが見えるか?アリんこがめっちゃいるだろ?」


「ーー?」


「あの穴の中には、さらに大量にいるぞ。多分500匹ぐらいかな?」


「ーー!?」


「あれを今から、全部倒す」


「!?ーーー!!?」



 ミュラが首を──というか体全体を──ブンブン振って拒否してくる。「ご主人と一緒でも、あの数は無理だよー」とでも言いたげな表情だな?




「なに勘違いしてるんだ?アレを倒すのは二人でじゃない」


「ーー?ーー!」


「お前一人で倒すんだ」


「………ーーーーー!!?!?」



 一瞬安堵の表情を見せたミュラが、直後にガビーンと、全身を使って驚愕を表現してくる


 ほんわかしたのも束の間、今度は俺にしがみついてイヤイヤと首を振って懇願してくる。ちょっと涙目になってる。かわいい


 だが、ここは心を鬼にしなければならない。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすのだ




「いいからやれ。お前ならできる」


「ーー!!ーーー!!!」


「あ、そうだ。途中で魔力尽きるだろうからタバコ渡しとくぞ」


「ーー!?ーーー!!」



 ギャーギャー喚いてるミュラの口にズボッとタバコを突っ込む。どうやら飲み込んでしまったようで、半透明な身体の中でタバコが浮いている。あ、さらに怒ってる


 うーん、親密度が低いから全く説得できんな。こうなったら強硬手段でいこう




「『エンチャント・ダーク』、つべこべ言うな。行ってこーい!」


「〜〜〜〜!!?!?」



 エンチャントした両手でミュラをムギュッと掴み、アリの巣に向けてポイ〜ンと投げ込む




「『消臭』、『隠密』。頑張れ〜」


「ーーーー!!!……?」


「ギギッ」「キチチチチ」「キイィィイ!!」「カチカチカチ…」


「ーーーーー!!?!?」



 アリの中心に投げ込まれて苦情を言うミュラ。だが、周囲のアリの注目が全て自分に集中しているのに気づいて、悲鳴をあげて逃げ始めた


 だけど、右に行ってもアリ、左に行ってもアリ、前も後ろもアリアリアリアリ、アリーヴェ・デルc((

 さらにアリが応援を呼び始め、巣の中からゾロゾロと追加のアリが出てくる


 レイスなんだから上に逃げればいいものを、おバカなミュラは気づけない




「ーーーーー!!!!!」


「「「「ギギギギッ!!!」」」」



 逃げられないと思い込んだミュラが、その場で泣きながらおててをプリプリと振り回し始める


 そんなミュラに向かって、ジャイアントアント達が一斉に飛びかかり───






「「「「ギィィィ──」」」」


「「「「「「ギギギッッ!?!?」」」」」」


「……………ーー???」



 全員もれなくポリゴンへと変わってしまう


 仲間が一瞬で死んで驚愕するアリ共。何が起こったのかわからず戸惑うミュラ

 先に混乱から復活したのは、アリ共の方だった




「「「「「「「ギギギギッッ!!!」」」」」」」


「ーーー!?」



 先ほどの3倍以上の数で襲いかかるアリ共。それにびっくりしたのか、短い腕で頭を守るように丸まるミュラ


 そんなミュラにアリが次々と飛び掛かるので、外から見たらキショい大玉に見えなくもない。だが、ミュラがやられることは()()()ない




「………ーーー?」


「「「「ギギッ!??」」」」



 ほら、もう出てきた。アリに全方位を固められ、中で集中攻撃を受けているはずのミュラは、何食わぬ顔でスポッとアリ玉から抜け出してきた


 そりゃそうだ。このアリ達じゃ、文字通り()()()()()()()できないからな


 だってこのアリ、魔法を持っていない。魔力で肉体を強化する術もない。霊体のミュラ相手には、1ダメージすら与えることはできない




「……ーーーーー!!!!」


「「「「ギギギギッ!?!?」」」」



 ようやく状況を理解したらしいミュラ。両手を振り上げて、ついにアリ共へと襲いかかった


 正面にいたアリに向かってペチッ。後ろから襲いかかってきたアリにもペチッ。少し大きいソルジャー(兵隊アリ)にはペチペチッ。雪崩のように押し寄せてきてもペチチチチチッ


 それに対しアリ共は、ただ愚直に攻め続けるしかできない。なにをやっても無駄だが、後ろには巣があるため、逃げることはできない




 俺がミュラを放り込んでわずか3分後。そこには、夥しい数のアリの素材と、200体近くのアリを1人で殲滅したミュラの姿があった



「よく頑張ったなミュラ!偉いぞ!」


「………………」


「ん?ミュラ?」



 隠れてた茂みから顔を出し、ミュラに労いの言葉をかける。が、ミュラの反応がない


 ホラー映画さながらゆっくりと振り返ったミュラは、恨みがましい目でこちらをみていた。明らかに怒っている。さらに、身体の周りに赤黒いオーラが現れ始めた



「おっと……流石にやりすぎたか?」


「ーーーーーー!!!!!」



 〈怒り〉状態のミュラが俺に襲いかかったのは、当然の結果だった


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― 新着の感想 ―
[良い点] ミュラが可愛い [一言] 夜の森と蟻の巣の中を突破か… 自業自得だけど、追いかけてたPK?達はひどいことになってそうね(´・ω・`)
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