ミュラ
ドッペルゲンガー
幽霊系モンスターの進化ルートの一つであり、人間や他のモンスターを真似るという特徴がある
しかもただ外見をコピーするだけではなく、一部スキルやステータスさえも模倣できるというとんでもなさだ
ただ、アンデッド系統の中では戦闘能力はあまり高くないほうだ。その代わり、ストーリー攻略でめちゃくちゃ役にたつ。姿を真似るってだけで、無限に悪用方法が思いつくだろ?
てか、そもそも【テイマー】自体がそんな性能だったりする。戦闘力はどの解説動画でもワーストランキング常連だったが、攻略オススメランキングでは毎回ぶっちぎりの一位だ
ボス戦とかじゃない限り、「迷ったらメイン【テイマー】のサブ【錬金術師】で行け」で大体なんとかなる便利屋性能をしている
おっと思考が逸れた。さて、このレイスには名前をつけてやるか。スライムみたいにポイ捨てするつもりはないからな
「お前の名前は、そうだな………よし、「ミュラ」なんてどうだ?」
「ーーー!!」
〈テイムモンスター[レイス]の個体名を「ミュラ」に設定しました〉
うむ、気に入ってくれたようだ
まあ、悩むそぶりをしたけど、実は前から決まってた名前なんだけどね。俺が[ドッペルゲンガー]予定のモンスターにつけるお決まりの名前だ
名前の由来は……なんだったっけ?たしか「姿を似せる→鏡写し→ミラー→ミュラ」みたいな連想だった気がするが、違う由来があったはず。むぅ、思い出せん
まあいいや。せっかくテイムしたんだし、さっそく「ミュラ」の育成をするか
俺はその場にシートを敷いて座り込み、ミュラの前に一つのアイテムを置いた
それは、サッカーボールほどのサイズがある、布でできたボールだった。品種改良中に余った[雨雲花]を、[綿雲花]を織った布[綿雲の布]で包んでできた、綿100%ボールだ
「ーー?」
「ほれ、この中に入ってみろ」
近づいてきたミュラにボールに入るように指示すると、ミュラはその身体の特性を活かして、ボールにするりと溶け込んでいった
「よし、次はそのボールを動かしてみろ」
「ーー!ー?ーーー!!ー?」
ボールに入っていたミュラが、スポッと抜け出てくる。首を傾げてもう一度中に入るも、またスポッと出てくる
うむ、まあできないのもしょうがない。スキルがないからな。物を動かせないことを認識させたら、次のステップだ
「オーケー、一旦ストップだ。今度はボールの中に留まって、ボールと一体化するように意識してみろ」
「ーーー?」
ミュラは、言われた通りにボールに入り、む〜んと頑張り始めた
「一体化できたと思ったら、もう一度動かそうとしてみろ」
「ーーー!!ー?」
俺が指示したすぐに、ボールの中から黒ひげ危機一髪のように飛び出てくるミュラ。アホやこいつ
「大丈夫だ、失敗してももう一回最初からやってみればいい。ほら、また一体化の練習からしよう」
「ーーー!!ー?」
こっからはできるようになるまで反復練習だ
どれくらいでスキルを取れるかは、モンスに備わってるAIで左右される
これ、初期AIに結構個体差があって、育成難易度にも関わってくる。一応知能面もじっくり育てていけば、最終的な賢さは同程度になるけど……
今回のミュラは、ちょっと──いや、だいぶ──いや、かなり、その、おバカなようだ
スポッと抜けては首を傾げ、またスポッと入ってスポッと出てくる。本人は頑張ってるつもりなんだろうけど
不覚にもかわいいと思ってしまった。こりゃ、テイムしたモンスターを進化させたくないって人の気持ちもわかるな……。このゆるキャラが一回進化しただけで、ゾンビの上半身みたいな見た目になるからな
『AWR』廃人になると、個体値厳選と称して最初から賢いAIのモンスターが捕まるまでテイムを繰り返したりする。逆に、まったり攻略をするプレイヤーは、おバカな子と一緒に成長するのが楽しいんだと言う人もいる
実は【テイマー】って、戦闘にはほとんど使われないだけで結構人気ジョブだったりする。攻略ガチりたい廃人から、テイムモンスターに癒しを求めるエンジョイ勢まで。まあ、中には煩悩に塗れたプレイヤーが美少女モンスでハーレムパーティを作ることもあるけど
そのかわり、極めるとしたら他ジョブの5倍くらい労力がいるけど。まあ、可愛がりたいだけならパラメータ調整なんて必要ないからな。存分に好感度を上げればいい
「ーーーー!!!」
「お?いけっ!頑張れ!!」
先ほどからモグラ叩きのようにぴょこぴょこ飛び出ていたミュラが、ボールの中で踏ん張り出したらしい
どうやら、やっとコツを掴んだようだ。かすかながら、ボールがカタカタと揺れている
応援しながら様子を見ていたら、しばらくしてボールがコロコロと転がりはじめ……宙に浮いた
「よし!!よく頑張ったな!!」
「ーーー!!」
俺が褒めたせいか気の抜けたミュラが、ボールからスポンと抜け出てきた。宙に浮いていたボールはそのまま落下した
念の為、俺はミュラを『鑑定』してみる
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名前:ミュラ
種族:レイス Lv.2
HP:20/20 MP:150/150
ST:100/100 EP:--/--
STR:2
VIT:1
INT:45
MND:2
AGI:10
DEX:12
LUK:5
{スキル}
『魂撃 lv.1』『憑依 lv.1 (new!)』
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よし!進化ルートに必要なスキル、『憑依』をちゃんと習得できてるな!
「とりあえず、今の段階は習得さえできてたらOKだったな。さて、サクッとパワーレベリングして、早々に[ゴースト]に進化してもらうぞ!!」
「ーーー!!」
本来の予定を繰り上げてテイムしたからな。ミュラには早く、俺の身代わりになれるまで育ってもらわないと
準備が整った俺は、手始めに近くの森へと突入していった
◇
「……見つけた。──ああ、例のだ。『ファスト』の草原にいる。人違いかもしれんが、一応集まってこい」
『了解だ。そのままターゲットを見張っておけ』
「ああ。だがあまり時間はないぞ?ターゲットが森に入って行った。これ以上『索敵』圏外からの『望遠』での監視は不可能だ。『追跡』はかけておいたから、それの効果時間切れまでに来い」
『へいへい。焦って一人で凸んじゃねぇぞベイジ?』
「アホ抜かせ、流石にアレにゃつっこまねぇよ。んで、何人くらい来れそうだ?」
『オレ参加〜』
『あたいも行けるぜ』
『んじゃウチも』
『おいらは行かんからな〜。前から言ってたけど』
『おいおいクラマスゥ、せっかくの祭りだぜ?クラマスも参加しようぜ』
『楽しそうだけど、あいつらの依頼は受けたくないんでね。また別の時に挑んでみるわ』
「あいよ、来たいやつだけ来ればいい。それじゃ───「コオロギ」狩り、開始」




