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守銭奴ばあさん






「確認ですが、本当にこの依頼を受けるのですか?」


「ああ」


「こちらはEランク向けの依頼となりますが。Sランク冒険者様にはもっと相応しい依頼もありますよ?」


「いや、これでいいから。あとこれとこれも受ける予定だから」


「そちらの依頼も低ランクなのですが……」



 しつこいなぁ、汚職職員のくせに

 いや、受付嬢は巻き込まれてるだけなんだっけ?


 Sランクに相応しい依頼とか、この街にあるわけないんだよなぁ。Cランク依頼が精々のはず

 まあどうでもいいな。利用できる部分だけ利用させてもらうぜ



 現在俺は、冒険者ギルドにていくつかの依頼を受注していた。これが後々、イベントに役立つものに繋がるやつだな


 その内容の特性上、依頼内容や拘束時間に対して報酬がしょぼいものが多い。というか、そういう依頼を選別して持ってきている


 今日からしばらくは、こういう依頼を見つけてはちまちまこなしていくことになるだろうな。さてと、一つ目からやっていくか








「ありがとう!これを飲ませればおばあちゃんの病気は治るのね?」


「もちろんだ。ちゃんと治るかどうか見たいから、俺もついていっていいか?」


「いいわよ!おばあちゃんの家はこっちよ」



 町娘の案内についていくと、町外れの小さな一軒屋に辿り着いた


 少女の後に続いて家に入り、一つの部屋を覗き込むと、1人の老婆がベッドに身を横たえていた



「おばあちゃん起きて!薬を持ってきたよ!これでおばあちゃんの病気も治るわ!」


「んお?なんじゃ飯か?」



 少女が寝ている老婆を優しく揺り起こすと、寝ぼけ眼の老婆が身を起こした。しばらく目を(しばた)かせていたが、孫娘を見て、彼女の持っている薬を発見し、渋い表情を作った



「まーた無駄金使いおって。それはあんたのお小遣いじゃろう?自分のために使いなされや」


「ちゃんと自分で考えた結果よ!それで、おばあちゃんの病気を治そうと思ったの」


「こんなん寝てりゃ治るわい!グェッホゲッホ!!治らんくても、いっぺんおっ()にゃぜんぶ元通りじゃ」


「ちょっとおばあちゃん!?女神様のご加護をそんなことに使ったら、また神父様に怒られるよ!!」



 咳き込みながらも薬を拒否する老婆に、少女があわてて背中をさする

 老婆の「死ぬ」発言に、さして驚いた様子を見せない少女の姿。初見の人は価値観の違いに困惑するだろうな


 この会話、住人(NPC)達の死生観が見え隠れするイベントにもなっている。ここで会話に入って聞き込めば、もう少し踏み込んだ話も聞けるぞ


 NPCが寿命以外で死んだ場合、その魂にかかっている祝福が死を肩代わりして復活できる

 この祝福は人によって呼び方が様々で、「女神の加護」とか「魔王の束縛」とか、プレイヤーの中には「リスポーン権引き換えチケット」なんて呼んでる人もいたな


 この祝福は消費タイプで、時間経過か一定の行動を取ることで回復していく。パーティを組んだNPCが死んでしまっても、一緒に教会に行って祈ってあげれば、好感度の低下は最小限で済むぞ


 ちなみに、俺たち異邦人(プレイヤー)は回数無限だな。チケットに合わせて「フリーパス」なんて呼ぶことも




「ゲフゲフ、こんなタダで治るもんに金なんかかけんでええっちゅうに」


「でもおばあちゃん苦しいでしょ?死ぬのも痛いんでしょ?」


「慣れとるわい、薬なんかいらんわ!その薬はあんたが病気になったときに使いなされや。ばあちゃんにプレゼントしたいなら、今度うまいもん買ってよこしや。なんなら現金でもええぞ?」


「おばあちゃんったら……」



 NPCにとって、攻撃されたら痛いし、病気や毒になると苦しい。いくら生き返るとはいえ、自ら望んで死ににいくような人は少ない


 だが、「命<<<金」といった考えの住人は、割と簡単に自殺する人も少なくない。冒険者が部位欠損したときとかも、「高い金払って治すのめんどいし死ぬか!」って考えになることもある


 なんというか……ゲーマー的思考?



「あー、こほん。その薬はタダであげるから、是非使ってくれ」


「む?しらん男がおると気になっとったが、お前さんが薬をくれたのか?」



 埒が開かないので会話に割り込む。実のところを言うと、攻略サイトに載ってた定型文をそのまま言っただけだけど



「だ、だめだよ!ちゃんとお金は払うわ!」


「そうじゃそうじゃ!タダより高いもんはないぞ?わしゃそれを痛いほどよく知っとるからな」


「なにをやったのおばあちゃん…?」


「ゲッフンゲフン!ま、まあくれるっちゅうんなら貰っとくわい」



 そういうと、老婆は少女の手から薬をひったくり、「後で請求するんじゃないぞ」と念を押してから飲み干した



「…ふむ、ちゃんと治ったようじゃの。ニセモンじゃなくてよかったわい」


「よかった!おばあちゃん、病気治ったんだね!」


「一応感謝しとくわい。流石に三週連続で死んどったら神父の小僧にドヤされるところじゃったからな」


「……えっ!?先週死んでたの!?」


「おっと、内緒にしとくんじゃった。ちょいと飯代を浮かそうと思っての。庭の実を取って食ってみたら毒に当たってしもうたんじゃ」


「なにやってるのおばあちゃん!?あの木は熟してないと毒があるから食べちゃダメっておとうさんが言ってたでしょ!!」



 呆れ果てた少女が頭を抱える。いくら死が軽いといえ、このばあさんほど気軽に死んでるNPCは珍しいからな



「そうだ、冒険者さんに依頼金を渡さないと」


「いや、タダで大丈夫だぞ?」


「そうじゃ、タダでくれると言っとるんだから貰っとき」


「ダメだよ!ちゃんと渡さないとトラブルになるってお父さんが言ってたもん!」


「じゃあ、その庭の果実を一個くれないか?」



 一度断り、二回目に妥協案を出す



「え?そんなのでいいの?わかった!いっぱい持ってくるね!」


「待て待て、一個でいいと言っとったじゃろ。待っとれ、わしが取ってくるわい」



 そう言って、ばあさんはベッドから起き上がり、スタスタと健康そうな足取りで庭へと出ていった


 すぐに戻ってきたばあさんは、俺に一つの果実と、石ころを渡してきた



「ほれ、これはほんの気持ちじゃ」


「なにこれ、石ころじゃん」


「なにを言っとる、これは不思議な力があるありがた〜い石ころなんじゃぞ?」


「それって、おばあちゃんが昔から言ってた石のこと?庭に山積みになってたやつでしょ?」


「……山積みになってるありがた〜い石ころじゃ!」


「やっぱりただの石じゃん!!」



 ばあさんが手渡してきた石ころ。一見何の変哲もない石に見えるが、実は………今は言わないでおこう


 未だにツッコミとリアルボケをしている孫と婆に、依頼達成のサインだけ書いてもらい、俺は次の依頼を受けにいくことにした

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