現実からは目を背けるに限る
この話は、しばらく本編に関与してきません
主人公の人間性が垣間見えるシーンとなるので、苦手な方は読み飛ばしてください。人によってはかなりの不快感を感じる内容となっています
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◆Side:クロート
「ふあぁぁ、今何時だ?」
起床。ベッドから身体を起こし、手探りでスマホを探す。昨日は確か……ログアウトした後そのまま寝たんだったな。日付が変わる前に寝たのって久しぶりかも?
と、手になにか小さなものが当たったので、スマホかと思って拾い上げてみる。……テレビのリモコンだった。まあいいかと、ベッドからそんなに離れてない位置にあるテレビをポチッとつけてみる
適当につけたチャンネルでは、ニュースをやっているところだった。時刻表示を見てみる。6時を過ぎたところか。…結構寝たなぁ
『───老朽化が原因と言われていましたが、その理由では説明できない破壊跡が発見されました。こちらをご覧ください。まるでチーズのように丸い穴が無数にあいています───』
「あ、これ知ってる!」
ニュースには倒壊したなにかの建物の映像と、小さな穴だらけのコンクリートが映し出されていた。コンクリートは、この建物を支えていた柱の断面図と説明がされている
ちょっと昔に流行ったなぁ、穴ぼこ事件。原因がわからなくて憶測が飛び交い、果てには「どっかの研究所で突然変異したバクテリアが流出して、コンクリートを食べるようになった」とか言われてたな
そのせいか、一時期木造建築ブームが起こったな。林業や建築やってる人は大儲けとか、自然保護団体は木が消費されすぎて激おことか、なんかいろいろあった
結局の原因は無差別テロだったんだけどな。めちゃくちゃ小さいマイクロ爆弾を柱に注入?して、遠隔で爆発させたから、あんな穴だらけになったらしい。たまたま狙ったのがコンクリート建築ばかりだったらしいな
んで、知ってるからってどうしようか?警察に言ってみる?信じてくれなさそうだな。もし信じてもらえたとしても、被害が起こってるのは別の国なんだよなぁ。国同士の厄介ごとが起こりそうだな
うーん……死者も出てる事件だから、なにかしてやりたいけど……変に首を突っ込んで別の被害を産み出すかもしれんし……
「……めんどいから放置!」
やっぱこうだよね。この手に限る
と、やっとスマホが見つかる。時間はもう確認したので必要ないが、なんとなく見てみる
「…ん?誰だこれ?」
画面をつけると、そこには不在着信の表示が一件出ていた。どうやら俺が寝てる時にかかってきたらしい。名前は…『桜木瑠璃葉』。瑠璃葉ってたしか……
「あ、妹か!懐かしいな」
俺の二つか三つ下の妹、ここ数年会ってないからすっかり忘れていた。(数年会ってないだけで妹を忘れるのはどうかと……)
嬉しくなった俺は、折り返し電話をかけてみることにした。…そういや、なんで何年も会ってないんだったっけ?
『…もしもし、兄さん?』
「おお!瑠璃葉!久しぶりだな!元気だったか?」
『久しぶり…?兄さんも元気そうね、こんな朝っぱらから』
「昨日は早く寝たからな。たまには早寝早起きもしてみるもんだな」
『そう。ニート生活を随分満喫してらっしゃるようで』
「………」
そうだった、こういうやつだった
妹は優秀だ。勉強も運動もそつなくこなすし、学校では生徒会とかもやってた性格だ。毎年留年ギリギリだった俺とは、同じ両親から産まれたとは思えないぐらい優等生だ
そのせいか、事あるごとに俺に対してチクチクネチネチと嫌味を言ってくるやつだった。だから、あれ以降は極力距離を取っていて、いつの間にか疎遠になってたんだったな
「なんだよ、そんな嫌味を言うためにわざわざかけてきたのか?」
『…ごめんなさいね。兄さんのだらしなさを見たら、つい口を出したくなるの。どれだけ言っても無駄なことは、痛いほど理解したはずなのにね』
「嫌味に嫌味を重ねんなよ。それで、用件はそれで終わりか?」
『いいえ?兄さん、あなた1週間前くらいに小金叔父さんに電話かけたでしょ?』
「1週間前?あ〜……」
そんなこともあったな。タイムリープしてすぐの時に、本当に過去に戻ってるのか確認したくて、故人の声を聞いてみたんだった
『叔父さんが愚痴ってたのをなんとか聞き出したのよ、恩知らずがかけてきたからガチャ切りしちまったって。叔父さん後悔してたわよ?謝罪電話だったかもしれないって』
「はぁ?」
『あれ以来かかってこなかったし、自分からかけるのも気に食わないとかで。だから私がかわりに電話したの。あの時の用件はなんだったの?』
「間違い電話だよただの。電話先を間違えたの。つーか俺が謝罪?するわけないだろ!謝罪するべきはあっちだろ?」
全く意味がわからない。なんで俺が謝らないといけないんだ?瑠璃葉も意味不明だ。あんな事があったのに、なんであのクソ叔父を慕い続けられるんだ?
事故とはいえ、俺たちの両親を殺したやつだぞ?
『………はぁ、本当に浅慮。いい?あなた達はお互いの事が全然わかってないの。今度、直接話せる場をセッティングしてあげるから、しっかり話し合って?』
「行くわけないだろ?あんなイカレ野郎と同じ空気なんて吸いたくないね!瑠璃葉も早く縁を切ったほうがいいぞ?そんなとこで働いてても未来はない」
『ふ〜ん、ニートの兄さんが言うととっても説得力があるわね』
こいつ……いちいちチクチクしないと気が済まないのか?
たしかに、文字通り「一生困らない金」が舞い込んだからって生涯ニート決め込んだ俺と比べて、親が死んでから高校を半分中退みたいなことしてクソ叔父の仕事の手伝いを始めた妹のほうが、正しい生き方だってことぐらいは理解してる
だけど、俺は未来を知っている。あのクソ叔父がどうなったかもな。俺は正しい生き方じゃなかったかもしれないが、賢い生き方だったって自負している。何不自由なかったからな
……妹くらいには話してやってもいいか
「真剣に聞いてくれ。信じられないかもしれないが、俺は未来の記憶を持っている」
『…………へー、すごいわねー』
「いいか?あのクソ叔父も死ぬ、母さん達と同じ事故でな。それにその会社も潰れる。そんなところに残っててもいいことはないんだ」
『それくらい承知の上よ。もちろん、そうならないように努力は………待って、なんで兄さんがその事を知ってるの?』
「え?」
『……あぁ、口から出まかせね』
しまった!?今の俺が知るはずのない情報を吐いたらしいのに、なんのことかわからず疑問で返してしまった。せっかく信じさせる要因になりそうだったのに……
そういえば、あの会社がどんなことやってるかまでは知らなかった。聞きたくもなかったし。「殉職率」なんてものが聞こえてすぐにシャットアウトしていた
「あのなあ、俺はお前のためを思って言ってるんだぞ?」
『本当に私のためを思ってるなら、叔父さんに謝って働いて欲しいんだけど?』
「だからぁ!あいつに関わったらダメなんだって!!」
『なら聞くけど、私は未来でどうなるの?未来視のできる兄さん』
「あぁ、たしか瑠璃葉は……あれ?どうだったっけ」
どうしよう、疎遠になってたから妹の状況を把握していなかった。訃報みたいなのは来てないから、死んでないことは確かなはずだけど……
『はぁ、出鱈目を言うんならせめて設定くらいちゃんと固めたら?』
「いや、知らなかっただけで……あーもういいわ。信じてくれないならもう知らん。俺の見えないところで勝手に苦労してろ。じゃあな」
『あ、ちょっと──』
ブツンッ。強制的に通話を切る
あーあ、電話なんかかけなきゃよかった。懐かしさから兄妹愛が発動したけど、そんなもの元からなかったな。朝から無駄に腹を立てるだけだった
あいつらは無視でいい。前の時も無視し続けてたら、勝手に崩壊してたし
さーてと、嫌なことは忘れてゲームしよっと
うむ、この手に限る!!




