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自称トッププレイヤー

◇(三人称)



「さぁて、誰にしようかな〜」


「うっ…」



 怯むどころか、戦意を滾らせてにじり寄ってくるテトロ。その圧で、囲んでいる側が逆に一歩後ずさってしまう



「……し、しばらくPKはしないんじゃなかったのか?」


「んー?」



 気圧されながらも、デリックが負けじと言葉を返すが、テトロは首を傾げるばかりだ



「切り抜きでも見たのかな?はぁ〜幸せそうだね愚民って。自分に都合のいい情報しか耳に入ってこないんだもん」


「な、なんだと!?」


「正確には『しばらくPKは()()()』ね。『全くやらない』とは言ってないから」


「屁理屈を!!」


「まあまあ、控えるって言った手前ここにいる皆キルするなんてことはしないよ?ちゃんと制限はかけるからさ」



 手元の短剣を器用にクルクルと回していたテトロがおもむろに短剣をしまい、5本の指を立てて見せた



「1日に5人まで!少ないね〜」


「十分に多いだろう!ふざけているのか!?」


「少ないよ。1時間に100キルした時と比べたら全然少ない。こんなに獲物がいるのに、5匹しか倒せないんだよ?」



「でかい口叩いてんじゃねぇぞ!」

「この人数に囲まれてんのに無事で帰れると思ってるのか?」

「お前が自慢するその100キルと違って、俺たちは全員トッププレイヤーだぞ!!」

「ちょっと前まで縛りプレイとかいう舐めプかましてたお前が勝てるわけないだろ!!!」


「元気だねーみんな。いいよ、かかっておいで?」


「………」



 散々な物言いに口々に言い返すプレイヤーだが、テトロが少し挑発しただけで黙り込んでしまう


 それもそうだ。全員でかかれば倒せるだろうが、最初に立ち向かったものは確実に犠牲になるだろう。それに、テトロの「5キルしかしない」という発言。これによって、「最初の5人がやられれば、後は反撃されずに安全に攻撃できるんじゃないか?」という考えが浮かんでしまった



「来ないの?……腰抜け」


「クソッ、全員で一気に行くぞ」

「せーので行くぞ。誰も裏切るなよ?」

「油断してる今がチャンスだ!何もさせずに倒せばいいだけだ!」

「やってやるよ!今日こそあいつをわからせてやる!!」



 ついに腹を決めるプレイヤーたち。武器を構え、合図を待つ



「や〜んこわ〜い。とっぷぷれいやーさん達こわ〜い」


「いくぞ!せーのっ!!!」






 問題。武器を持った大勢でいたいけな少女を取り囲むとどうなる?


 ヒント。このゲームにはフレンドリーファイアがあります




「「「うわあああ!!!?」」」


「ちょ、おまっどこ狙ってんだ!!」


「クソッ!避けるな!ぐあっ!?」


「す、すまん!当てるつもりはあぁっ!!?」


「ちょこまかと!!『フレイムバースト』!!!」


「あっバカ!?!?」


「「「「ああああぁぁ!!?!?」」」」



「なーにやってんだか」



 テトロを狙ったはずの攻撃が、別のプレイヤーに当たる。プレイヤーの合間をクルクルと移動し、その小さな体躯には攻撃が掠りもしない。焦れて範囲攻撃を放てば味方を巻き込むばかりで、当のテトロは悠々と離脱している


 同じパーティメンバーからの攻撃は半減する。つまりフレンドリーファイアに50%のダメージカットはあるが、ゼロにはならない。それに、合同行動しているだけの別パーティである仲間にはダメージカットすらない。等倍のダメージがそのまま降りかかることになる



「戦争の死因の何割かは味方の誤射だって言うけど、こりゃひどいね。10割誤射じゃん。私まだ一回も攻撃してないのに」


「嘘だろ!?」


「ホントホント。私がやったのは避けて逸らして誘導して。そんだけ」



 袈裟斬りされる両手剣の下を潜り、その持ち手に手のひらをあててほんの少し押してやる。それだけで、テトロが回避すればただ空振るだけだった攻撃が、目の前のプレイヤーの足を切り付けることになってしまう


 既にテトロの両手に武器はない。この立ち回りをするなら、むしろ無手のほうがやりやすいと判断したからだ


 それなのに、テトロが通った場所には点々と人型のポリゴンが倒れている。味方の攻撃が多数ヒットし、運悪くHPが全損してしまったプレイヤー達だ



「このっ!!『ハイパー…」


「ダメでしょ、ちゃんと考えて行動しないと。そんなんじゃプレイヤーキラーになっちゃうよ?」


「ぐっ!!」



 巨漢の戦士、ザッパが大斧を叩きつけようとするも、テトロからの言葉を聞いてその動作に迷いが生じる


 実際には、誤射による故意ではないキルではPKの判定にならない。むしろ誘導して攻撃を当てさせたプレイヤーに、M(モンスタ)P(ープレイ)K(ヤーキル)と同様のカルマ値上昇がある


 だがこの激戦の中では、耳から入った情報を即座に否定する時間はなかった



「判断がおそーい」


「うおわっ!?」


「身体が大きい人って好きだよ。足場にしやすい」



 振り下ろしかけた状態で静止している大斧に飛び乗り、思いっきり跳躍。斧の先端に体重がかけられてよろめいたザッパの肩に、ふわりとテトロが着地する



「降りやがれっ!!」


「はーい」


「ごあっ!!?」



 ザッパが掴もうとするも、するりと避けて降りていくテトロ。一瞬後、テトロのいた場所に闇色の魔法矢が通過し、ザッパの側頭部を穿った



「チッ、外したか」


「てんめぇぇデリック!ぜってえわざと──」


「アシストおつ〜。『首刈り』!」



 純魔法使いの放った魔法のヘッドショットによるクリティカル。HPは多いが、MNDはそこまで高くないザッパの体力はそれだけで8割近く消し飛んだ


 魔法職に狙われていることを認識し、わざと肩に飛び乗って頭へと誘導していたテトロ。すかさずザッパの首を切りつけ、〈戦闘不能〉にさせる



「ハズレか〜、ポーチ出なかった。にしても火力全然違うね。溜まってたSP全部振ったもんね」


「全員奴から離れろ!近距離戦では不利だ、遠距離から面制圧で倒す!!」


「お?」



 ザッパの死体の周りに散らばった低レアアイテムを、不満そうに蹴り飛ばすテトロ。その隙にデリックが指示を出し、テトロから距離を取り各々弓や魔法を構える


 AGI型のテトロ相手では距離を取ることすら難しい。この作戦は、中央で引きつけ続ける役がいなければ成立することはないはずだった


 だが、テトロは追わなかった。相手の策を正面から打ち破ったほうが面白そうと考え、それを為せるだけの自信があったからだ



「一点を狙うな。奴の周囲を満遍なく攻撃しろ!撃て!!!」



 テトロの元に、様々な攻撃が飛来する。射速の速い矢、火力の高い魔法、範囲の広い魔法が迫り……



「『跳躍』」



 たった一つのスキルで回避される。テトロはその場で垂直にジャンプし、3mほど跳びあがった



「馬鹿め、空中では回避できまい。撃ち落とせ!!」


「よーし、新技お披露目しちゃうよ〜」



 だが、デリックは冷静に判断を下し、空中にいるテトロに追撃の指示を出す。それに対し、テトロは空中でとある装備を取り出していた



「…盾、だと?」



 それは、2m以上ある巨大な鉄のタワーシールドだった。その大きな盾に、テトロの姿はスッポリと隠れてしまう



「全てその盾で受け切るつもりか?無駄なことだ、金属防具はMNDの上昇がわずかしかない。弓矢はまだしも、魔法のダメージは防ぎきれないだろう。『ダークウィング』」



 そう言って、デリックは攻撃を続行する。突如空中に現れた盾に、闇色の羽根が急行し……



「『立体機動』」


「な、なんだとっ!!?」



 盾からなにかが、ものすごいスピードで分離する。盾を足場にしたテトロが、真横へと跳んだのだ


 驚いたのも束の間、横に跳んだテトロが、鋭角に軌道を変更する。軌道が変わったところには、1mほどの大盾のみが残されていた



「な、ど、どうなっている!?」



 その後も軌道を変更し続けるテトロ。空中をピンボールのように跳ね回るという妙技に、しばし言葉を失って魅入ってしまう


 だが、下にいるプレイヤーは見とれている場合ではなかった



「ぎゃっ!?!?」


「ひっ、なんだ!?」


「剣だ!大剣が降ってきたんだ!?」



 タワーシールドをはじめとする、テトロが足場として使い捨てしていたアイテム、それが降ってきたのだ。足場とするのに十分以上の重量を持ったアイテム、それが結構な高さから降ってくれば、それだけで脅威となる


 さらにそれだけではない。スキルの効果が終わったテトロまで降ってきてしまった



「テトロスタンプ!!」


「ぐわっ!?」


「テトロスラッシュ!!」


「がぁっ!?」


「テトロ膝かっくん!!」


「技名ださぁっ!?」



 真下にいたプレイヤーの背中にズドンと着地。背骨を靴のかかとで抉るようにして再跳躍、別のプレイヤーの首すじをすれ違いざまに切りつけながら地面へと着地。ついでに膝かっくん



「く、そっ、再度距離を取れ!あのような大技、すぐには再使用できないだろう!!急げ!!」


「あーあー、私に見とれちゃうのはわかるけど、私ばかり見てちゃダメだよ?敵はわたしだけじゃないんだから」


「なあっ!!?」


「ちょっと〜こっちに関心寄せさせないでよ。せっかくいい感じに収穫できてたのに」



 周りをよく確認すれば、〈夜の死花〉のメンバー達が、なぜか未だにポーチを装備しているプレイヤーから『強奪』をしている最中だった


 自分はテトロから位置が離れているからとタカを括り、トッププレイヤー達の戦闘は見たいという野次馬根性のあるプレイヤー達。そんな彼らがテトロに注目し、周囲の確認が疎かになったところをPK達が『隠密』で近づいてアイテムをいただいていく



「いい感じにおいら達の存在が薄れてたのに。また影に入り直しだよ」


「PKなんだし、キルしてアイテム奪えば?なんなら私が相手しようか?」


「キルじゃ旨み少ないんだけどなぁ…まいいか、殺っちゃいますか」



 前門のテトロ、後門の〈夜の死花〉。どちらを先に対処すべきか、デリックは逡巡する。1番の脅威はテトロで間違いないが、彼女はキル数を制限している。こちらから手を出さなければ、被害は最小限で収まるのではないか?


 なら、〈夜の死花〉の連中から始末するべきだ。プレイヤーキラーは、1回でもPKKすることに意味がある。たった2回PKKするだけで()()()()になるからだ。デリックはそう判断し……



「よそ見もダメなんだけどね。『マジックエッジ』」


「ぐぁっ!?」



 顔面を切りつけられる。至近距離まで迫っていたテトロに、一撃浴びせられてしまったのだ


 顔への攻撃に、反射的に目を瞑ってしまう。その隙に加えられる、手首と肩への連撃。その衝撃で、デリックは持っていた杖を取り落としてしまう



「ま、待て!!私は今デスペナルティの影響で万全ではない!これは不公平だ!!!」


「んー?どゆこと?」



 いきなりのトンチンカンなセリフに、テトロは面白いものを見るような目を向けるも、その手は止めない



「つまり、その万全な状態とやらなら私に勝てるって言いたいの?」


「そ、そうだ!!私が弱いから負けているのではない!!お前達プレイヤーキラーはいつもそうだ、自分の有利な状況でしか戦わない!!卑怯者──」


「そういう考えのやつってまだいたんだ。あのね?卑怯者ってのは……あ、死んじゃった」



 何事かを喚き散らしていたデリックは、そのままHPを削り切られてしまう。そして、物言わぬポリゴンの塊へと変化したデリックのそばには……



「お?おおおおお!!!大当たりぃーーーー!!!」



 イベント用物資とイベント報酬が入ったままの、デリックのアイテムポーチがドロップしていた


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― 新着の感想 ―
[一言]  こういうクズ連中がいるから廃れるのであって、ここで奴らを潰しておかないと遠からず過疎一本道になりそう。
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