勝って兜の緒を締めよ
「おま、ふざっけんな!!!」
「クソ、まじでやめろ!返せ!!」
「やだ♪ぜーんぶ、使用!」
「「「「「あああーーー!!?!!?!?」」」」」
俺たちの目の前で、テトロの持つスキルオーブが粒子となり、テトロの身体へと取り込まれていく
やられた。普通のアイテムだったら、盗まれてもPKKすれば取り返せる。だけどスキルオーブのような消耗品は、使われてしまったらもう取り返しようがない
急いでアイテムポーチを確認する。だがやはりそこに『鑑定』のスキルオーブの存在は…………あった。あれ?
そうだ、冷静に考えてみれば、『強奪』で奪えるものはランダムだ。しかもレアリティが高いものほど取れる確率は低くなっていく仕様のはず
じゃあ、あの3つのオーブは……?ああ、そういうことか。消耗品は、カテゴリーとしてのレア度が1番低いんだった。つまり、そこらの武器防具よりレアリティが高いはずのスキルオーブでも、何回も『強奪』を使えば盗めてしまうということか
あのスキルオーブは、運悪く低確率を引かれてしまったのか、それかアイテムポーチ内に他の消耗品アイテムがなかったのかもな
「ありゃ、一個残ったぞ?あー、『闇魔法』だったのか。もう持ってるスキルは使ってもなんも起きないんだね」
「おい!使えないんだったらさっさと返せ!!」
「いーよー。所有権を放棄してっと……」
スキルオーブを盗まれたのだろうプレイヤーが叫び、それにやけに素直にテトロが従う
おそらく所有権に関するウィンドウを操作した後、右手にスキルオーブを持ったまま頭の後ろまで引き絞り、反対の左手は斜め上空へ向け──
「ちょっ!!?」
「取ってこーーい!!!『投擲』!」
「クソ野郎ォォォ!!!?」
遠投の要領で投げ飛ばされたスキルオーブを、盗まれたプレイヤーが必死に追いかけていく。放物線を描いて落ちていくそれに、全プレイヤーの目が吸い寄せられ……
「いぇーいゲットォ〜。でもおいらも『闇魔法』は持ってんだよな」
「クラマスぅ、いらねんだったらウチにくれよ」
「あ?いらんとは言ってないが?普通に金に変えるけど?」
「おっと殺していいか?」
「お、お前ら……〈夜の死花〉!?」
スキルオーブの落下地点で見事にキャッチして見せたのは、盗まれたプレイヤーではなかった。闇に紛れる暗色の装備、種類は違えど全員が対人に特化した武器を握っており、ギラついた空気を放っている
そこにいたのは、メンバー全員がプレイヤーキラーで構成されたPKクラン〈夜の死花〉だった。しかも普段少人数で狩りをする彼らが、おそらく勢揃いしてしまっている
「貴様ら、イベント中に見かけないと思ったら…!!最初から漁夫の利を狙っていたのか!?」
「指名手配されてんだもん、普通にイベント参加できるわけないわな。おいらも最初は大人しくしとこうと思っとったんだけどな?そこのお嬢からお誘いがかかってきたからさ」
「えー?お誘いなんてした覚えはないよ?私がしたのは、ちょっと独り言を言っただけ」
「そうだな、独り言だったな。隠してたはずのおいらのアジトのド真ん前で、でっかい独り言が聞かれちゃっただけだもんな」
どうやら彼らの狙いはイベント報酬のようだ。堂々とイベントに参加できないので、せめて報酬だけ掻っ攫いに来たということか
ここにいる〈夜の死花〉の人数は20人もいない。だが、全員がプレイヤーキラーとしてやっていける技量を持ち、一人一人が精鋭だ
それに加え、ゲーム界最強と言われているテトロまで………どこ行った?
「……『強奪』『強奪』『強奪』、おっ当たりぃ!『水魔法』か、悪くないね」
「うおわっ!?」
いつの間にか、また別のプレイヤーの腰に忍び寄り、アイテムポーチに手を当てて大胆にも『強奪』を連打していたようだ
「こっのおぉぉ!!!『スパイラルランス』!!」
「おっとごめんね〜、今スタミナないからまともに付き合えないんだ」
そこに、先ほど『闇魔法』のスキルオーブを盗られたプレイヤーが槍を突き出すが、テトロがほんの少し身を傾けるだけでスカされてしまう
「『五連突き』!『刺突』!『乱れ突き』!!クソがっ、なんでスタミナねぇのに避けられるんだよ!!?」
「そりゃ突きばっかりだし?動きも単調だからこーんなゆっくり動いても避けられちゃうし?それに……」
槍使いのスキルの連打を、全て最小限の動きで躱していくテトロ。さらに、槍が突き出されたところで柄に軽く手を添え、そのまま突き出される方向に押し出す
「うおっ!?」
「腰が入ってない」
「あっ!?」
すると、突き出す勢いを殺しきれなくなった槍使いはそのまま前につんのめってしまう。慌てて体勢を戻そうとするが、そこにテトロが足を引っ掛け、腰を肘で軽く押す
それだけで槍使いのプレイヤーは前向きに倒れかけてしまう。反射的に手を地面に着こうとして……
「ほいいっちょ上がり」
「ああああっ!?ぐぁっ!?」
片手持ちになり、しかも握りが甘くなってしまった槍。その柄をテトロが蹴り上げれば、槍は手からすっぽ抜け、あらぬ方向へと飛んでいってしまう
武器スティールだ。ただ武器を無くして不利になるだけではない、そのままロストしてしまう可能性まである
PK被害の多くは、『強奪』によるアイテムポーチ内アイテムの盗難、死亡によるインベントリ内アイテムのロスト、そして武器を手落とした状態でのPKによる武器ロストの3つが挙げられる
「今度はあたいが貰ったぁ!!」
「またかよクソがぁぁ!!!?」
「いえーい漁夫の利最高!あれ、槍が仕舞えねぇ」
「おいおい、殺らなきゃ武器は取れねぇって。俺たちPKの常識だろ?」
「そうだったな、テトローそいつ殺っちゃってー」
「えーそんぐらい自分でやんなさい」
「所有権持ってない武器を持ち続けてたらカルマ値ゴリゴリ上がるぞ。一旦置いとけ」
「お、サンキュー。んじゃここに刺しといて…」
「なんてな!もらいぃ!!今更カルマとか気にしねーってのバーカ!!」
「あってめぇぇ!!」
吹っ飛んだ槍はまたも〈夜の死花〉の手に落ちたようだ。なぜか内ゲバが発生しているが
「……全員、アイテムポーチをインベントリに仕舞え」
「あっちょっとぉ!!」
そこで、混乱から復活したデリックがそう指示を出す。それにハッとした俺たちは急いでアイテムポーチをしまった
『強奪』はアイテムポーチにしか使えない。ポーチをインベントリにしまったらアイテムの取り出しが不便になるが、盗られるよりはマシだ
「お前達は今、上位クランの全てに喧嘩を売ったのだ。そのことが理解できているのか?」
デリックがそう指を突きつけると共に、周囲のプレイヤーが臨戦態勢になる。テトロは俺たちの集まる場所の真ん中に出てきていた。自ら囲まれる位置まで来ていたのだ
だが、テトロの余裕の表情は崩れない
「もー、アイテムだけで勘弁してあげようと思ったのに。そんなイジワルされちゃったら……」
テトロの笑みが深まり、『強奪』を使うために無手だった両手に一瞬で二振りの短剣が装備された
「殺すしかなくなるじゃん?」
設定:アイテムポーチと個人インベントリ+α
○アイテムポーチ
アイテムを収納できるポーチ。中に入れたものは重量がゼロになる。ポーチの種類によっては、中のアイテムの時間の流れを止めるものもある
専用の装備枠があり、装備していないと使えない
アイテムを入れた状態でもインベントリに入れることができるが、アイテムポーチを別のアイテムポーチに入れることはできない
PK等で中身を落とすことはないが、インベントリに入れていた場合、中身ごとアイテムポーチを落とす可能性はある
また、PKKされた場合は、カルマ値によって中身をばら撒くことがある
○個人インベントリ
種族レベル依存で容量が増える。特定スキルでも増えることがある
アイテムポーチに比べて収容量が非常に少なく、キャラクリ段階では予備の装備一式がギリギリ入る程度
死亡した場合、ランダムでいくつかアイテムを落としてしまう。そのため、普段からインベントリにアイテムをしまっているプレイヤーは少ない
『強奪』対策でアイテムポーチをインベントリに入れていたら、
1.インベントリを開いてポーチを取り出し、装備する→
2.アイテムポーチを開いて目的のものを取り出す、またはしまう→
3.ポーチを装備から外し、インベントリを開いてポーチを仕舞う
という手間が発生する
他人の接近にさえ気をつけていればいいので、ほとんどのプレイヤーは街中はともかくフィールドではポーチを装備しっぱなしの人が多い
●スキル『強奪』
消費ST:8、使用クールタイム:ほぼ0秒
相手のアイテムポーチに触れてスキルを発動することで、中のアイテムをランダムで一つ(1セット)奪うことができる。薬草等は、束にせずバラ持ちすると『強奪』対策になることも
アイテムポーチ以外に使用することはできない
隙も大きい上に戦闘用アーツ並にスタミナ消費が多く、戦闘中に使えるようなものではない。本来街中でのスリを想定して作られたスキル




