舐めてかかると痛い目に
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テトロチャンネル。YourTuveで趣味として動画投稿している個人配信者という肩書きだ
主な内容はゲーム実況。その圧倒的なゲームセンスで知名度は高いのだが、チャンネル登録者数自体はあまり伸びていない
視聴者への暴言、ヘイトの高まるプレイング、コラボ相手を蔑ろにする行動、才能自慢等々のせいで、度々炎上しているらしいからだ
しかも全く反省する素振りを見せない。謝罪も自粛も何もしない、個人勢の特権を使い尽くして暴れ倒しているとか
極め付けは、本人がネタでもなんでもなく視聴者厳選をいきなり始めたりすることだ。彼女曰く、「信者はアンチよりも厄介」というスタンスのため、チャンネル登録者は古参のファンかしつこいアンチ、あとは何も知らないネット初心者ぐらいだろう
『AWR』が複数のサーバーに分かれてからはこのゲームにあまり来なくなったが、動画のネタのために不定期に『決闘鯖』へ来てはランキングを荒らしまわっていた
そのため正確な順位はわからないが、最高記録では1ケタ台にまで来ていたと言われている
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「そもそもNPCって殺せるのかな?試したことある人いる?」
こちらを見ながらも俺には話しかけてはいない。おそらく配信を見ている視聴者と会話しているのだろう
俺はこいつの対処法を考えながらも、周囲の警戒も怠らない。こいつ1人だけならまだしも、ファンを従えていたら厄介だからだ
テトロのファンは半分アンチみたいなもんで非協力的なことが多いが、彼女の実力についていくためか手練れ揃いだからだ
「そっか、聞いてみようか。ねぇ黒い外套の人!お前って殺したらどうなるの?」
話しかけてきた。ここはNPCムーブとして、不意打ちを警戒しつつも答えてやることにする
「いきなり攻撃してきてなんなんだ?俺たちもそう簡単には死なねぇが、お前ら異邦人と比べりゃ全然脆いからな。大事に扱ってくれよ?」
「うん?なかなか死なないかわりに殺したら復活しないってこと?」
「いや、復活はできるが……回数制限ありだな」
「なるほど。何度でも挑めるのはいいね!」
「やめてくれよ……」
まあ、プレイヤーの俺にやったら粘着行為として警告文がいくけどな。……そっちのがまずいな
ちなみに、NPCを殺しすぎて『ジェノサイドモード』になると、確キルを入れられるようになるぞ。この情報は絶対に出さないけど
「今度はこっちから質問させろ。何故俺を襲う?仲間は何人だ?」
会話の流れで、サラッと仲間の数を聞き出してみる。人数さえ聞ければ今後の選択を決めれる。多ければ逃げ一択だ
「質問多くな〜い?まあいいけど。なんで襲うかは、プレイヤーと間違えたから。でも強そうだから続行」
「勘弁してくれ。で、仲間は?」
「仲間は私1人だよ?ここを見てる人数って意味なら………3万人!?いつのまにこんな増えた!?散れ!散れ!!」
急にテトロが虫を払うような動作をする。あいつ数字マウント大嫌いだからなぁ……
それはともかく、こいつ1人か。へっ、なら余裕で倒せるな!一応嘘って可能性は念頭に入れておいて……
「質問終わり?じゃあそろそろ───」
「『ターゲット』、『エアカッター』」
「いきなりィ!?」
初手、ウィンドマンティスも使っていた『エアカッター』を発動。『魔力操作』の手動ホーミングもあわせてめちゃくちゃ追尾するぞ?
……うん、普通に避けられた。会話中にちゃっかり『鑑定』をかけたのだが、こいつAGIが250もありやがる。あの激怒ウサギよりも速いんじゃないか?
そのまま木の裏に隠れ、『隠密』を発動したのだろうか気配が追えなくなる
「『身体強化』『ライトブレス』『ファイアブレス』『アクアブレス』『ウィンドブレス』」
また不意打ちを狙っているのだろう。さっき防がれたばっかだってのに、舐めやがって……
まあ俺には好都合だ。今のうちに自己バフを重ねまくる
…………右後ろ、左、正面、木に登る、真後ろ、右と見せかけてまた後ろ、後退、遠くの方で大回り……
周囲に魔法の矢を待機させながらも、テトロが姿を見せるまで待つ。出てきたところを狙い撃ちにしてやるぜ?
「……さっきまで認識できてなかったはずだよね?どこ行っても見られてる気がするんだけど」
少しして、見えないところからテトロが話しかけてきた。チッ、勘がいいな
俺の『索敵』よりあいつの『隠密』のほうがレベルが高かったから、さっきまでは追跡できなかった
だが、さっきかけた魔法『ターゲット』のおかげで、『索敵』に映る画面に特殊な強調表示が出ている。効果が切れるまではお前の位置は丸わかりだぞ?これが便利スキル『無魔法』だ
「正面からやり合うしかないか〜。『投擲』!」
「姿を見せたな!『ヘビーシャドウ』!」
「なんか喰らった!デバフかな?……なんともないけど」
「チッ!」
ダメ元でやったが、やはり意味なかったか
大剣をぶん投げてきたテトロに向けて反撃でかけた『ヘビーシャドウ』は、装備の重量値をプラスする魔法だ
ステータスやジョブによって重量制限というものがあり、それをオーバーすると移動鈍化やスタミナ消費上昇などのバッドステータスがつく
テトロのステータスはVITがほぼ初期値な上に【盗賊】なため、重量制限がだいぶ低いはずなんだが………『ヘビーシャドウ』が意味ないぐらいの軽装のようだ
だが、ノコノコ俺の前に出てきたことは感心せんな?行けっ、アロー魔法ズ!!!
「ほっ!よっ!ふぉっ!?これ!いつに!なったら!消えるの!?」
「──『ファイアボール』『ファイアスフィア』『アクアボール』『アクアスフィア』『ウィンドボール』……」
「まだ増えんの!?」
くっ、掠りもしねぇ……
待機させてあったアロー魔法で無限ホーミングを仕掛けるも、全く当たらない。魔法の操作だけじゃなく、維持にもMPが消費されるため、タバコの回復があってもゴリゴリMPが減っていく
1発ぐらい当たれよ!!こいつの体力なら2発直撃すりゃ瀕死になるのに……
追加の魔法で弾幕を張るも、数の関係で『魔力操作』で操れないので直線でしか撃てない。そのせいか簡単に避けられてしまう
……ならこっちも不意打ちしよう。『シャドウダイブ』
「ふむ、ホーミングは一度に6つまで。途中で切り替えられるっぽいけど、ホーミングしなくなった魔法は霧散。慣れれば避けるのは──あれ?どこいった?」
油断したな?とったっ!!!
「──『不意打ち』っ!!!」
「そぉいっ!!」
「なっ!!?」
嘘だろ!?『シャドウダイブ』からの『隠密』、『暗殺術』コンボを初見で!?
こいつ、ただ躱わすだけならまだしも脚でパリィしやがった!!
しかも俺のこの仰け反り方、土壇場でジャストパリィしたってのか!?やばい、今追撃を喰らったら〈ダウン〉してしまう……!!
「『連続斬り』!うりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」
「ぐっ、『バリア』!『インパクト』!!」
〈ダウン〉を取られる寸前で防御を差し込むことに成功。だが状況は明るくない。この一瞬で体力を7割近くも削られたからだ
ステータスを均等になるよう振り分けてはいるが、まだまだHPもVITも低い。しかも避ける前提だったため防御バフを掛けていなかった
「わざわざ近くに来てくれるなんてね。この距離じゃ魔法撃ちづらくなったんじゃない?なんで来たの??なんにせよ、これでやりやすくなったね!!」
「チッ…!」
短剣を手の中でクルクルと回しながら、残念そうな子を見るような目でこっちを見てきやがった
クソッ!舐めやがっ……いや、舐めていたのは俺の方だった……!?ゲーム上手いやつにとっては、俺みたいなやつの16年間のやり込みなんて1週間も経たずに追いつけるってか…!?
認識が甘すぎた……これがトッププレイヤーか……!!!!!
 




