怪しいおじさん
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「【杖士】に【テイマー】。【剣士】に【槍士】。【薬師】に【農家】。【テイマー】に【騎士】。【魔法使い】に【テイマー】。【盾士】に【戦士】。【テイマー】に【杖士】…………いや【テイマー】多いな!?」
なんでこんなに?あ、魔術師ギルドに申請するルート狙ったプレイヤーが多かったのか。にしても魔法取ったらすぐ【魔法使い】に転職しそうなもんだが……
生産ジョブでふと気になったことを思い出し、道行くプレイヤーを『鑑定』している。フォンデュさん達からジョブを聞いたとき、三人とも生産ジョブを取ってなかったんだよね
それで他の人も『鑑定』してみたら、案の定戦闘ジョブと生産ジョブの両立をしている人はいなかった。なぜだ?結局は全部のジョブをやるんだから、生産ジョブを制覇しながら戦闘ジョブで素材を集めるのが効率いいのに……
……よくよく考えたら、この思考は既プレイ勢ぐらいしかできないかもしれないな。ジョブコンプするなんて知らないだろうし、MMOなんだから役割分担するのが当たり前だし
そういや決闘勢もサブキャラで、DEX,LUK特化の生産キャラを作ってる人いたな。俺も作ってたし
なんというか、思考がソロに固定されてたな……。一つのサーバーに1アカウント1キャラしか作れないから、ここではサブキャラは作れない。俺もその内生産プレイヤーに依頼することになるんだろうな
あ、戦闘と生産で器用貧乏ってのもいいかもな
閑話休題。今日も今日とて路地裏を目指す。次のマップが解放された影響か、リアルの時間が昼終わりなせいなのかはわからないが、ここ『ファスト』のプレイヤーが少なくなっている
下手したら今夜は誰にも見つけて貰えないかもな……。いつもよりちょっとだけ表通り寄りに陣取った
いつものように錬金セットを展開。転職したので【錬金術師】のレベルは上がらないが、とりあえず『錬金』レベルは上げておく
やることはほとんど変わらない。工程の中に『作製加速』を使うようになった程度だ。MP消費がなかなかキツいので、タバコと『瞑想』を使っても回復が追いつかない
『時空魔法』は一旦10レベルまでは上げたいな。それが終わったら属性魔法をそれぞれ15まで上げて、その後は『無魔法』をカンストの30レベルにしよう
今後の魔法レベリングの予定を立てていたら、表通りの方から1人のプレイヤーが来ていた。よし、今回のターゲットはあいつにしよう
──ん?あの人、どっかで見たことがあるような……?
◆Side:いつぞやの女性プレイヤー
「ミーちゃんー、どこいるのー?ニャーニャー」
「キュウキュウ」
私は相棒のピョン太と一緒に、迷い猫探しのクエストを受けていた
ワンコのテイムは一旦断念したわ。夜になるとダークウルフっていう狼さんが出るんだけど、あの子たち強いし怖いし、可愛くないんだもの
でも、次のマップには普通のウルフが出てくるらしいわ。テイマースレというところでスクショを見たのだけれど、ダークウルフよりも可愛かったからあの子をテイムしたいわね
だけど、次のマップに行くにはボスを一回は倒さないといけないらしいわ。フレンドがいれば倒せるだろうけど、みんなが今日ログインするのは現実の夜になってからなのよね
だから私は1人でできるクエストをやってみることにしたの。でもなかなか見つからないのよね。こんな路地裏にまで探す羽目になるなんて
「そこのねえちゃん、なにか探し物かい?」
「……………」
話しかけられているけど無視する。こんな場所にいる人なんてロクな人じゃないもの
「あんただよあんた。犬耳でむ……ウサギを抱えたねえちゃんだよ」
「……………」
多分私のことなんだろうけど、やっぱり無視。しつこく話しかける人には関わらない方がいいわ
「ちょ、お願いだから話を聞いてくれよ!?悪かったって。あんたが探してるのは迷い猫のミーちゃんだろ?違うか?」
「……どうしてそれを知ってるんです?」
仕方なく振り向く。そこにはボロを纏って髪もボサボサで、無精髭も生やしてタバコを咥えてる男がいた
「いやぁ、聞こえてないのかと思ったぜ。その様子だとミーちゃんを探すのに苦労してるようだな?あの猫はいつもすんごいところに遊びに行くからなぁ」
「そうですか。じゃあ私はこれで」
「ちょ、待ってくれよ!!居場所を知りたくないのかい!?」
「結構です。自分で探すので」
ああいう聞いてもないのに教えてこようとしてる人は、詐欺師の可能性が高いと友達が言ってたわ。なので足早に去ることにする
「そ、そうか……(楽しみを奪うわけにもいかんしな……)───あ、それはそうと耳寄りな情報があるんだが、買ってかないかい?安くしとくぜ?」
「しつこいですね。あなたと話すことはありません」
「まあまあ聞くだけ聞いてくれよ。秘密のネコ集会の参加方法ってのがあってな?」
「聞くだけ聞いてあげます」
可哀想なので聞いてあげることにしたわ。おかしなものを要求したらすぐに断ればいいし
……………ネコちゃん……肉球……モフモフ……ぐへへ
「キュウ……」
「対価を払えば情報を渡せるぜ?対価はそうだな……そこのウサちゃんを撫でさせてくれるってのはどうだ?」
「くっ、それは……いえだめよ。こんな怪しい男にうちの可愛いピョン太を近づけるなんて……」
「ちなみにネコ集会では野良猫をペットとしてテイムできるぜ。戦闘力はゼロだけどな」
「お願いピョン太!!ネコちゃんのためにおじさんにモフられてきて!!」
「キュウ!!?」
ごめんねピョン太。私が弱いばっかりに……
「よしよし、そんじゃ撫でさせてもらうぜ?ほ〜ら、怖くな〜い……」
「キュウゥ……」
「ほれほれ、ここがいいんだろう?それっグーリグーリ」
「キュウゥ!?クキュウゥ〜〜」
「ぴ、ピョン太……!?」
すごく気持ちよさそうな顔をしているわ!?なんてこと、私のピョン太が怪しいおじさんに寝取られてしまったわ!?
帰ってきてピョン太〜!?猫ちゃんのための犠牲にしようとしたことは謝るから〜!!
「一角ウサギは角の根元の後ろ側を撫でると喜ぶんだぜ?ほら、ピョン太君を返すからやってみな?」
「え、ええ。ここね?ピョン太、ぐりぐり〜」
「キュウゥ〜〜♡」
「あぁ〜〜♡」
ピョン太が帰ってきたわ!!そしておじさんは優しい人だったわ!!動物のことがわかってる人に悪い人はいないもの!!
おじさんには悪いことをしたわね。やっぱり人は見た目じゃないわ!!




