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東の果てのマビノギオン  作者: 秋月つかさ
23/60

デートは初めて

 

 卜部(うらべ)季武(すえたけ)(とも)なわれて正門までやって来た(みなもと)鈴子(すずこ)は、そこでウロウロしていた渡辺(わたなべ)(はるか)と鉢合わせすることになった。

 

 「あ」と短く声を発した遥に対して、鈴子が、済まなさそうに手の平を合わせる。遅れてゴメンという意思表示だが、遥からしたら、抜け出して来れたというだけで、もう、ホッと一息、上出来、(おん)の字という感じである。


 時刻は午前10時40分を、さらに10分ほど回ってしまっていた。

 

 ────それにしても、何で季武さんが一緒に?

 

 遥は疑問に思ったが、答えは出ない。


「遥くん、君、凄いこと考えますね……」

 

 季武が、不意に遥に顔を近付け、小声で話しかけてきた。


「バレたら────っていうか、絶対バレます。タダでは済みませんよ?片棒かついだ、私もですが……」


「季武さんの名前を出すなんて、そんな事、絶対しませんって。これは全て、僕が彼女をそそのかして仕組んだことです」


「……君を日本(ここ)へと呼び寄せたのは、間違っていたかもしれませんね」

 おだやかに言ってから、少し済まなさそうに季武は笑った。声には、軽い後悔めいたものが(にじ)んでいた。


「え?」


「いや、何でもないです」

 

 遥の問いを遮るように、季武は鈴子のほうへと向き直った。


「それより、いずれ君達の居所は嗅ぎつけられてしまいます。けれど、そうなるまでには多少の時間はかかるでしょう。だから、せめてそれまで、思いっ切り楽しんでおくことです」


「ありがとう、季武さん」

 

 鈴子に礼を言われて、季武は意外そうに目を丸くした。「へぇ」という感じ入った一言が、つい、口をついて出そうになる。

 

 季武の知る限り、鈴子が「ゴメンね」ではなく、誰かに面と向かってお礼を言ったのは初めてのことだ。


「気をつけて……」

 

 季武は(つぶや)くように言って、走ってゆく二人の後ろ姿を見送った。



  *    *    *    *    *    *


 

 電車やバスを乗り継いで、二人は、それなりの規模を持つ遊園地へとやってきた。

 

 ここなら「お城」や「UFO」までは無理でも、お化け屋敷ならある────という、啓太(けいた)御墨付(おすみつ)きだ。

 

 チケットと、一日遊べるフリーパスを購入して中に入る。いきなり目に入ってきた地上100メートルの大観覧車に、鈴子が、文字通り目を丸くしている。


「ねぇ、あれ……」

 

 鈴子が、急に怪訝(けげん)そうな顔で話しかけてきた。


「?」

 

 見ると、鼓笛隊か何かと一緒に、ぬいぐるみキャラによるパレードが行なわれている。


「縫いぐるみが、歩いてる……」


「うん……」


「あれは、いったい何なのでしょう?」


「え?」


「何だか、怪しくないですか?」

 

 鈴子は、いくぶん遥に肩を寄せるようにしながら(つぶや)いた。

 

 それを聞いて、遥は思わず吹き出してしまった。

 

 何で遥が笑うのか、鈴子には、よくわからない。わからなくても、鈴子も釣られて、一緒に笑い出してしまう。

 

 音楽を鳴らしながら、パレードが過ぎてゆく。

 

 迷路のような雑踏は、ザワザワと目まぐるしく入れ替わる。

 

 鈴子は(せき)を切ったようにはしゃぎ(・・・・)始め、まるで、初めて来た遊園地の一部になってしまったかのようだった。


「私、これに乗りたい!」

 

 鈴子は、最初から混んでいる行列には目もくれなかった。彼女が指差したのは────


「メリー……ゴーランド?」


「いいでしょ?私、これに乗りたいの」

 

 鈴子の顔に、子供のような笑みが差している。


「いいけど……周り、小さい子ばっかりだよ?」

 

 正確には、親子連ればかりである。

 

 遥が周囲を気にしている間に、鈴子は入り口の係員にパスを見せて、子供達に混じり、白馬や馬車、そして、なぜかあるピンクの子豚などの中から、スタンダードな一頭に腰を下ろした。

 

 ブザーが鳴り響き、ゆっくりと、回転木馬(メリーゴーランド)が回転を始める。

 

 普段は決して目立つタイプではない鈴子だが、小さな子に混じってメリーゴーランドに乗っている姿は、かなり周囲の目を引いていた。

 

 彼女は、正体不明の何かが自分を迎えにやって来るという境遇を、一体どんな気持ちで受け入れたのだろうか……

 

 そんなことを、遥はボンヤリと考えていた。

 

 本来なら、(みなもと)家の男子を筆頭に、渡辺(わたなべ)坂田(さかた)碓井(うすい)の合計4人で、やって来る鬼を迎え撃つのが定石(セオリー)である────のだという。

 

 1人足りない状態で、万全の迎撃体制なんてとれるのか……?

 

 終了のブザーが鳴って、鈴子が、子供たちと昇降口から降りてくる。


 鈴子だけ途中で立ち止まって、名残惜しそうな視線を背後のメリーゴーランドに送っていた。


「もう一回、乗る?」

 

 遥が()くと、鈴子は首をブンブン振って答えた。


「時間が無いよ!これから、幽霊にもお姫様にも、宇宙人にも会わなくちゃ!」




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