監視役
「シロー様、そちらの女性は?」
ミリーがにこにこと笑いながら尋ねて来る。その背後からは黒いオーラが溢れ出しており、四郎は思わず畏縮してしまった。
「ひ、拾った…」
「拾った?」
「お、おう。脱走奴隷だったから首輪を外してやったんだ」
それを聞いてミリーたちが驚いた顔をした。
「外したって…奴隷の首輪を外したんですか!?どうやって…」
「<組換>っていう十神技のうちの四段目の技を使った」
メイナーも含めいまいち納得いってないようなメンバーのため四郎は<組換>について説明をする。
<組換>とは文字通り物質の構造を変えるものだ。錬金術の凄い版だと考えてくれればいい。ただ十神技としては地味で創造魔法なんかの方が難易度や自由度は上だ。
ではなぜ<組換>が十神技に入っていて創造魔法は十神技に入っていないのか。理由は簡単で創造魔法は元々、ある十神技から派生した魔法なのだ。なので正確に分類するとその十神技の内に含まれてしまうので新たな十神技として扱う事は出来ないのだ。
「シローちゃんは相変わらず桁違いよね。お嬢ちゃんお名前は?私はネミリア。ダークエルフよ」
話を聞いてポカーンと呆けているメイナーにネミリアが自己紹介をする。
「あ…ボクはメイナー。狐の獣人だよ」
それを期に他のメンバーが次々と自己紹介をしていく。四郎の心配をよそにメイナーはすっかりミリーたちと仲良くなってしまった。
「メイナー、お前はこれからどうするつもりだ?獣人の国に帰りたいなら時間はかかるが送ってやるぜ?」
「……あそこに戻っても誰もいないから…。ボクはシローさんたちと一緒にいたい…」
うつむきながらもメイナーは確かにそう言った。皆それに閉口する。風で髪が靡くのみで他に動きはない。この場にいる皆が皆、違う事を考えていた。
四郎はこの先にメイナーを連れて行く危険性について考えていたし、ミリーはメイナーの言葉の意味を推測し彼女の気持ちについて考えていた。シャルビィはメイナーを奴隷としていた人物について考えていし、ティカはこれからメイナーと一緒なら楽しそうだなと漠然とした事を考えていた。そしてネミリアはメイナーの真意がどこにあるのかを。
ただメイナーの心の内は分からない。まだこちら側ではないのだから。
「いいぜ」
やがて四郎がそう結論を出した。結局このチームは四郎が中心なのだ。メイナーのチーム加入に反対する者はいなかった。
「…え?」
「だからいいぜって言ってんの」
メイナーの頭をくしゃっと撫でながら四郎は笑った。メイナーはそれを見て何故か赤面した。
「で、でもボク強くないよ?」
「なら強くなればいい。最初から強い奴なんていやしないさ」
「いやいや師匠は絶対最初っから強かったでしょ」
ティカがせっかくのいい雰囲気をぶち壊した。他の皆が思っていても敢えて言わなかった事を言ってしまったのだ。
「そんな事ねーよ。俺も最初は弱かったよ。誰よりもずっとな」
どこか昔を懐かしむような顔をしながら告げた四郎。その表情の奧には色々なものが眠っているのだろう。そこにはそう思わずにはいられないような何かがあった。
「ならボクも強くなる」
メイナーは拳を強く握る。桃色の髪の少女がそんな事をしても可愛いだけだったがそれを口にするような者はいなかった。
「頑張れよ」
その後、亜空間にある家の一室をメイナーに与えた。その日メイナーは色々な事が一気に起こりすぎて興奮して眠れなかった。
「…首輪の反応がロストしました」
四郎たちより一足先に帝都メサイアに着いていたジャンはアミアから監視役に関する報告を受けていた。
「へぇ。それはつまり奴隷の首輪を外したって事か。やっぱりやるなぁ。シローは」
ジャンたちが帝都に戻る前に急ぎで四郎たちの元へと監視役として送ったメイナーの奴隷の首輪が途絶えたのだ。
「…笑い事ではありません。このままメイナーが裏切ったら何も得られません。こちらの大損です」
「いいよいいよ。やっぱり可愛い女の子はそれだけで正義だしね。自由に生きたいならそうさせればいいさ」
ジャンの相変わらずの態度にアミアも慣れているのかそれ以上は何も言わなかった。
「…希望、それとも絶望か…」
最後に小さくジャンがそう呟いた。