深夜
メイナーをチームに迎えたその日の深夜、ネミリアは四郎の部屋を訪ねていた。
「シローちゃん、ちょっといいかしら?」
ガチャリと扉が開く音がしてから中から四郎が出て来る。
「どした?」
「話があるの」
四郎はネミリアに部屋に入るように促す。中へ入ってみるとそこには何も無かった。
ベッドに机に椅子。その程度だ。まるで生活感がない。ネミリアの部屋も私物が少ないとはいえ少なくとも生活感はある。ティカに至ってはまさに年頃の女の子といった感じの部屋だ。
「見ても別に面白い部屋じゃないぞ」
「そのようね。生活感がまるで無いわ」
「大抵の事は魔法でどうにかなるからな。寝る場所と書く場所があればそれでいいのさ」
特に興味もなさそうに四郎が答える。
やはり異常だ、ネミリアはそう思った。四郎は人として超越しているだけではない。人として欠けてもいる。まるで完全なのに不完全のようだ。
「そんな事言うために来たんじゃないだろ?俺は眠いんだが…」
欠伸をかみ殺しながら四郎は背伸びをする。それを見てネミリアは本題に入ろうとする。
「メイナーのことか?」
「っ!?」
しかし先に四郎に言われてしまった。これで会話の主導権は全て四郎に握られてしまった。
「そうよ。どうして分かったの?」
「新しい仲間が加入した日に普段訪ねて来ない人物が部屋を訪ねて来る。そこから出る答えは一つしかないだろ?」
それは誰にでも分かるような簡単な理屈。普段のネミリアならこれに気付かない程馬鹿ではない。しかし今、ネミリアの心には動揺がある。それが思考を極端に鈍らせたのだ。
「確かにそうね。それじゃあ私が何を言いたいか分かるからし?」
「メイナーがただの奴隷じゃあないってことだろ?」
四郎はどこから取り出したのかコーヒーをカップに注いでいる。
「そうよ。なのにシローちゃんは彼女を仲間にすると言った。少し不用心すぎるんじゃないかしら?それとも自分の力を過信しているのかしら?」
四郎が無言で差し出して来たコーヒーを受け取り、一口飲むネミリア。ブラックだったようで顔をしかめている。
「いや…どっちでもねーよ。アイツはただの監視役だ。だからこれはチャンスだと思ったのさ」
今度は四郎からスティックシュガーを受け取りカップに入れてかき混ぜる。
「チャンス?」
「ああ。監視役を送るって事は敵だろうが何だろうがそれなりの奴が俺たちを気にしているという事だ。これを利用しない手はない。敵なら監視役から辿っていって潰せばいい。味方なら監視役がいればいつでも協力を仰げる」
四郎は監視役すらも利用して己のパイプを広めようというのだ。強欲、ではない。これは暴食だ。全てを欲するのではなく全てを喰らい尽くす。それが橘四郎という人物の本質の中の特質だ。
「だけど私たちの情報も筒抜けになるのよ?はっきり言ってデメリットの方が多いわ」
ネミリアは人ではない。ダークエルフだ。見た目こそまだ二十代だが実年齢はそれ以上だ。だからこそ情報が戦いの要であるという事を知っているのだ。
「俺たちの敵は『黒の獣』だ。圧倒的な力を前にすれば情報に価値はない。だからこそ情報云々とかいうのに負ける訳にはいかないんだ。というより負ける程度の奴じゃあダメなんだ」
「仲間を試すというのか?」
「違う。確実にステップアップするための障害を作っているだけだ。それに最初も言ったが監視役を送った奴が敵だとは限らない。もし味方になってくれそうなら協力を仰ぐつもりだ。圧倒的な力な力を前にしてちっぽけな俺たち人間が出来るのは精々数の力を行使する事くらいだ」
四郎はそれだけ言ってコーヒーを口に含む。ネミリアは何やら考え込んでいる。
「なるほどね。確かにこの先出て来る敵も確実に強くなってくるはず。それら全てに対して私たちが有利な条件で戦えるとは限らない。だからこそそれを身をもって教えさせるって訳ね」
ようやく納得いったようでネミリアはコクコクと何度も小さく頷いている。
「分かってくれたなら何よりだ」
「ええ。それで?」
余裕を取り戻し優雅にコーヒーを口に運ぶ。
「それで、ってのは?」
「それであの少女を監視役として送ってきた人物について心当たりはあるの?って聞いてるのよ」
「心当たりって程でもないがあるにはある」
ネミリアの身体に一瞬緊張がはしる。四郎はそれを知ってか知らずがタメるようにもったいつけてから言う。
「…この帝国の重鎮貴族。恐らく黒幕はジャン・ジャンクだろう」
「それはシローちゃんがハルシヲンで出会ったっていう?」
「ああそうだ。だからとりあえずネミリアはジャンについて調べといてくれ」
四郎はそれだけ言って二人分のカップを片付けた。そしてようやく四郎は眠る事が出来た。




