十神技
精神世界からの帰還と同時に身体に纏わりついている影が弾ける。俺は再び影に纏わりつかれないうちに後ろに下がる。
「シロー様!大丈夫ですか!?」
「問題ない。四人とも少し下がっていろ」
ミリーとウルリアはそのまま後ろに下がり、ヒントはミスティオを抱えながら後ろへと下がった。影の枝たちを<鎌鼬>でサクサクと切り落としながら身体の力を抜いていく。
「なによ…これ…」
俺の力に真っ先に反応したのはウルリアだった。すぐにミリーも気付いたようで驚いたような顔をしている。
それは俺の身体から今までとは違う神聖な力が溢れていたからだ。<魔>でも<武>でもない神にのみ使うことを許された力<神>。すなわち神力。 それに伴い俺の身体にも変化が起きる。髪が白く染まり、瞳も服も白くなっていく。肌も不健康なくらい白くなった。その姿はホワイトシローと全く同じであった。唯一の違いは意識は俺のものであるということ。
影の枝たちが警戒してか恐れてか、こちらに攻めて来なくなった。俺はそれを好都合とばかりに身体に纏う<神>を強化する。そしてただ一言告げる。
「<浄化>」
先ほどのウルリアほどの光は無い。温かい風が波のように緩やかに広がり収束する。するとティカに纏わりついていた影が跡形もなく消えていた。威力はウルリアの祈祷魔法の何倍もあったようだ。
それもそうか。本来<浄化>は神のみが使える力。それが十神技としては最も軽い一の技だとしても人の子の祈祷魔法程度に劣る訳もない。
「ティカ!!」
ウルリアがティカの方へと走っていく。影から解放されたティカは未だ焦点の合わない瞳で駆け寄ってくるウルリアを見つめていた。
感動の場面だ。ミリーも涙ぐんでいるし、ヒントも優しく笑っている。
「ちょっと待てい」
俺は素早くウルリアの側まで移動し首根っこを掴んだ。
「きゃっ!なにするよのよ!?」
さすがに感動の再会をぶち壊されてウルリアが怒った。ミリーからもヒントからも空気読め的な視線が突き刺さる。俺はそれも気にせずにティカの方へと意識を向ける。
「おいティカ。お前は自分が何をしたのか分かってるのか?」
その言葉でようやくティカの瞳に光が戻り、途端に怯えたように身をすくめる。
「まさかお前、自分も被害者だなんて思ってないよな?」
俺はそんなティカに構わず言葉を続ける。誰も何も言えない。いや言わない。皆分かっているのだ。今回の事件はティカのせいで起きたと。
「影に纏わりつかれたからどうのって話じゃねえよな。分かるか?お前のせいで人が死にかけたんだ」
「あ、あたしはただ…!」
ようやくティカが反応した。しかし瞳にはまだ怯えが残っていた。
「ただ何だよ」
「見て欲しかったのよ!!アンタらが負けて、あたしが勝ったのにヒントもミスティオもあたしじゃなくてアンタらを見てて…!それで…それで…!」
泣きながら、それでもティカは自分の想いを吐き出していく。
「すごく嫌だった…!あたしの周りの皆はあたしより優秀で…!だから誰もあたしを見てくれないのよ!!」
「じゃあお前は誰かを見ていたのか?自分が見られたいってだけでお前は誰も見てなかったんじゃないのか?」
「……ち、ちが…」
「違わねーよ。お前は誰も見なかった。だから気付かないのさ。お前の事を見てくれている人がどれだけいるのかを」
そう言って座り込んでいるティカの頭に手を乗せる。こいつには一回見せてやらないといけない。甘いのかもしれないがそうすればきっと気付くはずだから。
「<探索><共有>」
そう言って俺は街の人たちのティカへの想いを探索していく。そしてそれをティカと共有する。
『今日はティカちゃん来ないねぁ』『さっきティカちゃんと黒髪の奴らをストーカーしてたぜ』『ティカちゃん萌えー』『ティカお姉ちゃんがこの前アメくれたのー!』『まるで孫みたいでなぁ。可愛くてたまらんわい』『お嬢は大丈夫ですかな?』『あの娘っ子に食わす新メニューが出来たぜ、ぐへへ』
この街の人々のティカへの飾らざる想い。それはティカの闇を溶かしていく。
『ティカ、どうか無事でいてくれ…!』
父の想い。
『無事で良かった…本当に良かった…』
目の前にいる姉、ウルリアの想い。
『お嬢様…良かった』
ミスティオを支えながらも優しく微笑んでいるヒントの想い。
『お…嬢…様』
気を失いながらもティカを心配するミスティオの想い。
「あ、ああ…ああぁぁぁあああぁぁっっ!」
それら全てを知ってティカの瞳からは先ほどまでとは違う、澄んだ大粒の涙が溢れてくる。ウルリアがティカを抱き締める。
「うわわあぁぁぁぁん!!」
そうしてティカは思いっきり泣いた。ウルリアに支えられたまま。




