美少女と魔物(表)
声がした方にすぐさま顔を向ける。すると朧気ながらも魔物らしい影が見えた。俺は空を睨みつける。
「まさか、あんたわざと!?」
眉を上げ糾弾の姿勢をとる。
『安心しなされ、ワシもそんな暇ではない。それよりも行かなくてよいのか?』
その言葉(テレパシー?)に俺はハッとしたような顔になる。すぐさま視線を魔物のいる方に戻し、全身に力を込める。
そして走り出した。あまりの勢いにその場には爆音が響き、地面が抉れる。わずか三拍で朧気な影しか見えなかった魔物の所まで一気に近づく。
少女を庇うように魔物と少女の間に割り込む。座り込んで泣いていた少女が目の前に突然割り込んできた俺に驚く。
「…ひっ…!」
俺は構わず少女を抱きかかえ魔物と距離をとるように後方へと跳ぶ。そこに少女を降ろす。未だに状況がのみ込めず固まっている少女の緊張をほぐすように俺は優しく言った。
「大人しくしてないと食べちゃうぞぉ!」
少女は泣いてしまった。
「………くそ、なんてこった。これも魔物の巧妙な罠か!」
責任転嫁も甚だしかったが、全て魔物のせいにして振り返る。そこにいたのは巨大なワームだった。
「いやだあぁぁぁーー!!!!」
ワームだからキャラ的に恐らく雑魚なんであろうが、虫は嫌だ。気持ち悪い。
「…い、いやぁ…さっきは君のせいにして悪かったね…うん…」
脂汗をかきながらワーム相手に謝罪をする情けない俺。
「ムヴヴゥゥゥーー!!!」
ワームはお怒りのようだ。心底嫌だがやるしかない。俺は拳を構える。
「む、むちゃ…です…っ!」
背後から絞り出すような声が聞こえるがかまっている暇はない。素早く身体に<武>を巡らせる。身体からは強烈な威圧感が溢れ出す。ワームが警戒するようにわずかに頭を下げる。
その瞬間、ワームが口から何らかの液体を吐き出す。よけるのは簡単だが今後ろには少女がいる。俺は空気を握るように拳を握り、ただ前へ突き出す。型はただの正拳突きだ。しかし威力はその比ではない。
空気を握るようにした掌から風が生まれる。その拳風はワームの吐き出した体液を吹き飛ばした。吹き飛ばされた体液が落ちた地面からはジュージューと恐ろしい音がしている。どうやら強力な酸性の液体らしい。よけなくて正解だった。
俺は跳躍し、太陽を背にするようにしてワームの真上に移動した。そして先程とは違いしっかりと拳を握り振り下ろす。
ぶっちゃゃああぁ、と不快な音がしてワームの肢体が弾け飛んだ。もちろん絶命していた。
そして俺はというと傷は無いがワームの体液まみれになった。
「………気持ち悪っ!!最っ悪だぁーー!!!」
ベトベトになりながらも少女の前へ向かう。
「…あ、あの…」
少女も体液まみれの俺に引いているらしく顔がひきつっている。
「…大丈夫か?」
とりあえず体液のことはいったん忘れるとして助けた少女に声をかける。
すると少女はハッとしたような顔になって急にお礼を言い出す。
「あ、あの…助けてくれてありがとうございましたっ!」
少女が律儀にもぺこりとお辞儀をする。
「私、コルク村のハネネと申します!!」