<先駆車>
ハネネと別れコルク村を出発した俺は重大な事実に気がついた。
「…ま、街の場所知らねー…」
ガクッとその場にうなだれる。あんなにカッコつけてコルク村を出てきたのに今さら道を教えて下さいって戻る訳にはいかない。仕方ない。こればっかりは危険すぎて使いたく無かったが…。
「テキトーに歩いたら街に着いちゃったよ作戦だ!」
という訳で今まで真っ直ぐ歩いていたが進行方向を右に変える。神様、無事に村に着きますように!というか神様ってあいつだから信用ならんな。
進行方向を右に変えてしばらく歩き続けた俺だが、いつまでも変わらない景色に飽き飽きとし出した。
「せっかくだし魔法で移動するか!」
転移魔法や飛行魔法などのいくらかの候補がある中、俺はあの魔法を使うことにした。
全身に<魔>を巡らせて纏う。目の前に左手をかざし唱える。
「出でよ<先駆車>!」
すると急速に光の粒子が集まりだし一気に収束した。
目の前に現れたのは銀色の大型バイクだった。本来バイクで舗装されていない場所をスピードを出して通るのは自殺行為だが魔法で造ったので心配はいらない。ある程度の道なら柔軟に対応出来るようになっている。もちろん消費するのはガソリンではなく魔力だ。
<先駆車>の魔法の属性は創造だが、この創造魔法というのがこの世界では難易度の高い魔法かどうかは俺は知らない。
そこら辺も街に行ったら調べる必要があるだろう。
俺はバイクに乗ってエンジンをかける。するとバルルルルッッ!!!と盛大な音が伴ってエンジンがついた。そして動き出す。最初はゆっくりと走っていたが20分も経てばある程度のスピードが出せるようになっていた。
「ひゃっほ~!!」
周りの景色が矢のように過ぎていく。風が気持ちいい。俺は調子に乗ってどんどんスピードをあげていく。
それからしばらくバイクで進み続けると微かながらも街らしき影が見えて来る。それに上機嫌になった俺は懐かしの歌を歌い始める。
「ぶんぶんぶん 蜂が飛ぶ~♪」
街へ向かって更に速度をあげる。風当たりが強くなるが気にしない。すると前方に何人かの人影が見えてくるが俺は気付かない。
「お池の周りに野バラが咲いたよ~♪」
人影のすぐ近くまで来たことで向かうがこちらに気付いて目を大きく見開いている。そのことで俺も人影に気付き衝突しないように僅かに方向を変える。
「ぶんぶんぶん~♪」
そして見慣れない猛スピードで突っ込んで来るバイクにパニクったのか向こうも俺を避けようと動いた。その結果、俺はその人間と思い切り衝突した。
「人が飛ぶーー!!??」
跳ねられた人は漫画みたいにピョーンと飛んでいってしまった。俺は一旦バイクを止めてそこから降りる。
そして唖然としている残りの二人の男と女に言った。
「飛んでったけど大丈夫かな?」
「大丈夫なわきゃねーだろ!!ぶっ殺すぞガキィ!!!」
男の方は俺のセリフに怒り心頭の様子だ。女の方は何故か笑いを堪えるかのような表情をしている。
うわぁ、ちゃんと無事に街に着けるかなぁ?と心配になる俺だった。