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高橋花音のこれから  作者: オツタロ


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第1話 退職とこれから

残業と幽霊とストーカーの続編です。

こちらは恋愛要素多めです。

サスペンス色は少なめです。

黒々建設の管理部経理チームの高橋花音たかはし かのん、31歳。独身。


彼女は5年前に後輩橘楓たちばな かえでが残業中に窓から転落した事件を5年間追っていた。


同僚の佐伯、源の協力があり犯人を突き止め真相を暴き犯人である課長は逮捕された。


自分を長年縛っていた呪縛に彼女はやっと解放されたのである。


あとはいつ退職するか。


それが彼女の考えていることだった。


この5年間、犯人がおそらく男性社員だろうという目星はついていた。


誰かわからない中疑心暗鬼となり男性社員に対して厳しい接し方をしていた。


犯人1人を見つけるためにその他大勢の社員も攻撃していたせいで彼女は社内の嫌われ者になっていた。


女子社員に対しては男性社員からの魔の手から守るため積極的なボディガードを担っていたがそれも女子社員から賛否両論であり社内の多くの人から彼女は嫌われ距離を置かれていたのである。


仕事がしづらい。


自業自得な面があるとは自覚しているが仕事に支障が出ている。


管理部経理チームにいる彼女は提出された領収書や経理関係の書類のチェックを行い、不備があればそれを修正するように申請者に連絡する。


彼女の今までの横柄は仕事ぶりのせいで各部署では経理担当という人が作られその人経由で申請があげられるようになっている。


とはいってもただの書類を提出するだけの人なので申請の不備をチェックしてくれるわけではない。


何度も同じ指摘をしても修正されない、期限ぎりぎりで提出されるというのが常になっていた。


彼女が申請者本人に連絡をしても対応は遅く、かといって彼女が依頼者本人に連絡しても無視されることが常で社内の経理業務はスムーズとは言いづらい状況になっていた。


経理チーム内の役割を変更してもらおうとしてもメンバーが課長と自分ともう一人の男性社員のみという少数精鋭で役割を代わるということができない状況だった。


自分の中の長年の問題点が解消され冷静になって自分の周りを見たとき状況は最悪なことになっていることに気が付いた。


ある日、会議室に課長を呼び出した。


工藤学くどう まなぶ31歳。同期入社の男性社員である。


元々は現場部隊である設計部で設計士として働いていた。


建設会社である黒々建設では自身で設計図を書くこともあればすでに作成されている他社の設計図を受け取り設計図の”拾い”ということもしていた。


受注した工事部分について使用する材料などを設計図から読み取ることである。


その部門で働いていた彼だったが簿記資格を持っていることで白羽の矢が当たった。


また本人の希望もあって管理部の経理チームの課長に出世したのである。


そんな彼が今テーブルを挟んで自分の向かいに座っている。


「お疲れ様です。最近顔色いいよね。物腰が少し柔らかくなったって周りの人たちから聞いているよ。」


「・・・」


彼は社内でも数少ない私の味方だ。


味方だと表立って表明しているわけではないが彼が私の上司になったころから私への社内のやっかみが大分減った。


彼が止めてくれていたのだろうと思う。


世間話をする間柄ではなくなったので真相は聞けていない。


「相談なんだけど、会社を辞めようと思っています。」


「・・・」


今度は相手が無言になってしまった。


「理由を聞いてもいい?」


「色々あるけどね。一番はここにいる必要がなくなったから。」


「どういうこと?」


「あなたに言っておいてもいいかもね。橘楓さんって覚えている?」


「あぁ数年前に転落事故した人だよね。そういえば花音とは仲が良かったよな。」


彼は2人っきりの時には昔から名前で呼んでくる。


今となっては彼にしか呼ばれない。


「この前意識が回復したの。」


「え!そうなのか。それはおめでとう。事故の後も彼女とは交流があったのか。」


「ええ。意識不明になった後ずっと目が覚めなくて週に何度か病院にお見舞いに行っていたの。」


「そうだったのか。それは大変だったね。」


「私は彼女の事件の真相をずっと追っていた。それが解決したから会社に未練はないの。だから退職する。」


「それは管理チームの課長がクビになったのと関係があるって考えていいのか。」


「そうね、あいつが犯人だったのよ。あなたは知っていたの?」


「風の噂って言うのかな。誰にでもそういう噂があるもんだから気にしてはいなかった。」


彼女は何度か頷いて自分の中で何か納得した様子だ。


「気分悪くなるからあいつのことを話すのは止めておくわ。


それよりも退職の話を進めましょう。」


「・・・そうだな。いつ頃の退職を考えているんだ。」


「そうね、今が11月だから今月いっぱいの出社で残りは有給消化ってのは厳しい?」


「それは難しいね。新しい人を雇うのも時間がかかるだろうし、急というならば派遣を雇う方向で考えないといけない。


うちみたいな会社だと中途を募集してもすぐには来ないだろうし。」


「社内から募集したらどう?」


「それは難しいかな。簿記や会計の知識となると重宝されているだろうし俺みたいな場合でもないと異動とはならんだろう。


会社の為と言いつつみんな自分の部署が一番だからね、人を異動させてその分空いた穴は誰が埋めるんだってなる。


どの部署も優秀な人は囲い込みたいからね。」


「それなら2月末でどうかしら3月から有給消化にして、3月からだと決算の締めがあるから年度の締めに中途半端に関わると5月くらいまで退職できないだろうし。」


「そうだね、年度末の忙しさはそうだね。5月まで残るならあと一ヶ月残ってボーナスをもらって退職というのはどうだろう。」


「そんなにいるなら退職する気が失せてしまうかも。」


彼女は口元に手を当てて笑う。こうして話していると入社して間もないころを思いだす。


同じ本社勤務ということでよく昼休みは食事をとっていた。


後輩の橘さんの事故があってから彼女は変わってしまった。


周りは敵だと言って攻撃的になり男性社員に対しては失礼な態度も常習化していった。


彼女が辞めたいと公言すれば止める人はいないだろうし、すぐに手続きを始めようとなるだろう。


一部の女子社員からはボディガードと呼ばれて信頼されているが若い女子社員に偏っている。


彼女らは数年で退職する人も珍しくないし社内の発言権としても弱い。


今ここで引き止めねばならない。


「退職した後の新しい就職先は見つかっているのか、それともあれか寿退社とか?」


「何よその聞き方、今時セクハラになるわよ。」


彼女はまた笑っていた。本当によく笑うようになった。その姿を見ているだけでも癒される。


「今後のことは決まってないわ。


いっそのこと実家に帰ってそこで新しい就職先を探すのもありね。」


「なら新しい就職先を見つけてから辞めても遅くないんじゃないか。急いで決める話のようでもないみたいだし。


仕事が忙しいなら有給を取ってリフレッシュするとか、社内に興味ある仕事があるなら異動というのも希望を出してくれてもいい。」


「この会社自体に未練がないのよ。課長の工藤君には悪いけど私はもう満足しているの。


カエデも目が覚めて今は幸せそうだし。


それに比べて私の方は今までのツケが返ってきたというか自覚したというか仕事もしづらいしね。自業自得だけど。」


「それは橘さんがあんなことになって一番仲良かった君がそういう風になるのは仕方ないじゃないか。

これからやり直すことだってできるよ。」


「だからそのやり直しを新しい職場でって考えているの。


私が辞めたらあなただって他の人たちから私のやっかみを言われなくなって仕事がしやすくなるでしょ。


今まで知らぬふりをしていたけど結構苦労していたでしょ。」


「まぁ正直ね・・・でも最近はそういう苦情もなくなったからもう気にしていない。


少しずつ社内の評判をよくしていこうじゃないか。」


「もうやる気もないかな。正直仕事に対する情熱とかはもうとっくの昔になくなっていたの、5年前の事件を調べるためだけに残っていた。真相を知りたかっただけ。

それが終わったからもう辞める。それだけよ。」


「それなら引き止めは無駄そうだな・・・。」


彼女は頷いた。


「わかった。それなら退職の手続きを進めよう。


それでもこのことは内密にしておいてほしい。俺の方からみんなには伝えることにする。

それでいいか?」


「そうね、最後くらい上司の指示に従うわ。工藤君に任せる。」


「最終出社日は1月末、派遣の手配が確実だろうからその人への引継ぎが仮に遅くなったら2月末までの出社にしよう。


そのあとは有給休暇消化でそれが終わったら正式な退職でいいか。」


彼女は頷く。


工藤と高橋は立ち上がりお互いに握手する。


入社した時は握手なんて何も気にせずできたというのに31歳となった今では顔に出ないようにするだけで精いっぱいだ。


残りリミットは2か月あまりなんとかして彼女の退職を取り消さないといけないと彼は決意した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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