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10年前

 この世界には、精霊と呼ばれる存在がいます。あらゆる力はソレから生じるんです。


 大いなる精霊の力には、集束する時季と拡散する時季があって、集束季には特定の地域に留まります。


 俺たちの住む水精域(リグ・ソーマ)には、その名が示す通り、水精(ソーマ)が寄りつくんですよ。


 ソーマ、古代語で美酒という意味らしいですって。


 ……響きに違和感がある?…………まだまだ世の中のことを知らないのに、おかしなことを言うんですね。はははっ! そう拗ねた顔をしないで下さい。


 ね? こんな風に、人にはたくさんの感情があるでしょう? 人というのは感情表現に長けているんです。


 中でも賛嘆の情には、精霊の力を行使する、まじない(アタルヴァ・リグ)の効力があります。


 水精域(リグ・ソーマ)では、賛歌のまじない(アタルヴァ・リグ)が発達したけれど、他の地域は野蛮そのものなんですよ?


 西方の火精域(リグ・アグニ)の舞踊はまだましとしても、北方の雷精域(リグ・インドラ)は武術、東方の森精域(リグ・アラニアーニー)は生け贄……口に出すのもおぞましいですね。


 ここはそんな野蛮な部族に取り囲まれた地域だから、少し前までは人さらいや略奪がひどかったんです……だけど、今ではそんなことは起きません、起こさせません!


 鍛えられた精鋭達が、水精《ソーマ》──この地の力場を活用して、絶対に破られない防壁を作っていますから。


 まだ覆いきれていない土地があるけれど、きみが協力してさえくれれば……おっと、いつもの発作ですね? 暴れないで、落ち着いて、さあ、口を開けて。


 唾液はこぼさずに飲んで……そう、上手。ははっ、いつも上手に出来てますから、余計な心配でしたね。


 ──其は泡沫の快をもたらすもの、其は意識を渦に溶かすもの、水精(ソーマ)よ、溶けよ、水精(ソーマ)よ……。


 ………………。


 ………………。


 ふふっ、いい表情になりましたね。


 愛していますよ。

 ゆっくりお休みなさい。


 ザザ。

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