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9 空振りからの急転

 氷霊剣フェンリスは金貨2300枚で落札された、落札したのはキアラである。


 「絶対に競り落とします」


 そう宣言したキアラを止めることは誰にも出来なかった。

 鉄鋼族の老人も競り落とそうと頑張っていたのだが向こうの資金を上回ったようで諦めていた。

 途中からキアラと鉄鋼族の2人しか参加していなかった、周りの客はどんどん上がる値段に大盛り上がりである。

 オークションで最初に出品される商品は目玉商品のはずだ、その盛り上がりによっては今後の競りにも影響を及ぼす、司会者もかなり熱を入れてアナウンスしていた。

 落札した事で目立ったキアラは会場の注目を集めてしまっている。ちょっとした有名人だ。


 「冷静に、落ちついて別の手を考えた方が良かったんじゃないか?」

 「私は冷静です、冷静に考えた結果、いくら払ってでも手に入れる必要があると判断しました」


 ラントがキアラを注意している、先ほどまでとは立場が逆だ、元はラントが悪いのだが。

 この兄妹、あまり性格は似ていないと思っていたが間違いだった。敬語かそうじゃないかという違いだけでとても似ている。


 他にも剣が出品されるとキアラは落札しようとしていた、その度にラントが羽交い絞めにして止めている。

 中でも『竜滅剣ファーブル』という名のある魔剣が出品されたときは目を輝かせ競りに参加しようとしていた。止めようとしたが今までにないくらいの抵抗をみせられ止めることが出来なかった。

 金貨1500枚を超えたところでさすがに不味いと思ったのかキアラの口を塞いでラントが無理矢理止めていた。

 『竜滅剣ファーブル』は鉄鋼族の老人が落札していた。金貨2100枚だった。


 オークションは進み次々に新たな商品が出てくる、どの商品も買い手がつかない事がない、うまく市場を把握しているのかそれともサクラがいるのか盛り上がりが衰えるような事は無い。


 魔道具も様々な物が出品されていた。

 遠くの音を拾うことができるという『小人のイヤリング』

 色の付いた光を発する『創造神の宝玉』

 身体能力を上げることができるという『鬼神のバックル』は氷霊剣を上回る金貨3500枚で落札されていた。


 身体能力を上げる物は高くなる傾向があるようだ、身につけるだけで能力が上がるなら欲しい人は沢山いるのだろう。

 『風神の腕輪』も身体能力を上げる物らしい、これはとんでもない値段になるのではないだろうか。


 (資金が足りない気がするな)


 「『風神の腕輪』が出品されたら落札できるのかな」

 2人に尋ねてみるが俯くだけでなにも答えない、無理なようだ。


 オークションも終わりが近づいてきた、客の盛り上がりも最高潮に達している。


 「みなさん!次が最後の商品になります!最後の商品はこちら!『聖母神の腕輪』です!こちら、装備している間はどんな病気も治りたちまち健康になると言われています!ただしご注意を!外した瞬間病気は再発するそうです、あくまで装備時のみ健康になるものです!金貨12000枚からスタートです!」



 『風神の腕輪』ではない、オークションも空振りだったようだ、これで探す当てが無くなった。2人も少し困ったような顔をしている。


 「もう一度ウルスの店を訪ねよう、盗品はあそこが一番入荷する可能性が高いからすれ違いで売りに来ている人がいるかもしれない」



 ふと横を見ると黒角族の集団が席を立つのが見えた、彼らは一度も競りに参加していなかった。


 (欲しいものが無かったのだろうか)







     *







 オークション会場を後にしたクロ達は再びウルスの店を再び訪れていた。 


 「ここがオークションの入場券を頂いた店ですか」

 「ああ、頂いたというか買ったというか」


 氷霊剣を安値で買い叩かれた店でもある、落札した氷霊剣はキアラが身につけている。


 夜も遅いせいか店先には誰もいない、店内に入り、店の奥にいるであろうウルスに声を掛ける。


 「ウルス、まだ営業してる?」

 「またお前らか、今日はまた一人増えているな」


 ウルスはキアラみてニヤついていた。


 (またカモが来たと思っているのだろうか、こちらはガード固いぞ)



 「こんばんは、兄がお世話になっています」

 「おお、ゆっくり見ていきな……ん?」


 ウルスは氷霊剣フェンリスの存在に気がついたようだった。


 (怖いよな、自分が買い取った剣が元の持ち主と共にまた現れたんだから)


 「ウルス、あれから魔道具の持込はない?」

 「あれから入荷した物はそこにある物だけだ、先日スラムで上がった死体から剥ぎ取ったものらしい、大した物はないぞ」


 ウルスが指差した先には血に塗れて真っ赤になった服があった、他には靴、鋳造された安物の剣、そしてネックレス。

 魔道具の入荷は無いらしい、これで探すあては無くなった。


 「え?」


 だがネックレスをみた瞬間ラントが声を上げた。

 ネックレスをひったくるように強引に手に取る。


 「おい爺さん!このネックレスの持ち主はどうしたんだ!」


 ラントは食いかかるようにウルスに詰め寄る。表情は鬼気迫っておりただ事では無い雰囲気だ。


 「さっきも言っただろう、それは先日スラムで上がった遺体から剥ぎ取った物だ、持ち主はもうこの世にいない」

 「何かの間違いだろう!?そんな事あるわけない!」

 「兄上、そのネックレスの持ち主は知り合いなのですか?」


 キアラが心配そうに声をかける。

 ラントの手は震えていた、それが答えなのだろう。





「このネックレスの持ち主の名前はネール。魔道具が無くなる前に一緒にいた女だ」

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