85 嵐の前
「この目は『真実の眼』という魔道具でね、人には認識できないこの世ならざるものを見ることができるんだ」
セルヴと名乗った男は足を組みながら椅子に深く座り込み、此方に話しかけてくる。
まるで此方の姿を見えているような口振りだった、いや相手のいう事を信じるのならば此方の姿はみえているのだろう。
「みんながストークの亡霊なんて言うからさ、本当にストークが化けて出たのかと思ったけど全然違うじゃないか」
こいつの目的はなんだろうか、相手からすれば此方はただの不法侵入者だ。
普通ならばなんらかの行動を起こすだろう、だがセルヴという男が動く気配は無い。椅子からも動く気配は無い。
「魔道具は『神の収納箱』に入れているのかな?あれは便利な魔道具だよね、僕も持っているよ」
そう言ってセルヴは右斜め上の空間へと手を伸ばし、腕輪のような物を取り出し腕につけた。
「ねえ黙ってないで何か喋ってくれないかな、これじゃあ誰も居ない空間に一人で話しかけている変な人じゃないか」
相手の真意が分からない、こいつは俺に語りかけて何をしたいんだ。
「お前は……ここで何をしているんだ」
「それはもちろん君を待っていたんだよ」
「俺を?」
「そうだよ、君というよりストークの亡霊をだけどね、ストークは沢山魔道具持っていたから」
(こいつ、何で俺がストーク君の魔道具を持っていることを知っているんだ?)
「僕は魔道具を沢山集めているんだ。僕は魔道具が好きだ、この世の全ての魔道具が欲しい、同じ魔道具だって複数所持していたい。常に魔道具の事を考えているんだ。ハウゼントゥルムのボスになったのもその方が魔道具を集めやすいからだよ」
そう言うとセルヴは右上の空間からまた魔道具らしきものを取り出した。
今度は丸い鉄球のような物だった、鉄球の中心に魔石が埋め込まれている。
「ストークはいくつか魔道具を献上してくれたけど、本当に貴重な魔道具は渡してくれなかった、僕はストークが抱えている魔道具が欲しくて欲しくて仕方がなかったんだ」
セルヴと言う男はハウゼントゥルムのボスだと名乗っている、ならばストーク君との面識があった、それは分かる。
「でもストークを殺すつもりは無かったんだ、ただ部下がこちらの指示を曲解してね、結果としてストークは死んでしまった」
こいつ、まさか。
「僕はね、魔道具が回収できるのならばストークを殺してもいいといったんだ、それなのにストークは死んで魔道具は行方不明、おまけに僕が貸し与えた『木偶人形』は壊す始末。ケルドとワーディルはどうしようもないね、仕方がないからワーディルには人形になってもらったよ」
こいつが、このセルヴという男がストーク君が死んだ原因だ。
「ストークが持っていた魔道具は行方知れずだった、でも君がここまで届けてくれて僕は嬉しいよ」
セルヴは掌を差し出し、言葉を続ける。
その顔は喜びに満ちており、おもちゃを欲しがる子供のような印象を受けた。
「さあ、君が持っている魔道具を全部渡してくれ」
「……ふざけるな、渡すわけ無いだろう」
「うん?じゃあ君はここに何をしにきたのかな?僕に魔道具を届けに来たわけではないんだよね」
「お前達を、お前を殺すためにここにきたんだ」
『深淵狼の短剣』を取り出し、構える。
『怪傑のネックレス』も発動している、相手が動いたら即座に対応してみせる。
「お前がハウゼントゥルムのボスなんだろ?だったらお前を殺す、そうしてハウゼントゥルムという組織をこの世から完全に消し去ってやる」
「ハウゼントゥルムをこの世から消す……ねぇ」
「お前以外の幹部は殺した、幹部を継げるような人材も調べて殺して回った。あとはお前を殺せば組織は崩壊する」
「僕は組織の運営には殆ど関わっていないんだよ、君の言う事が本当なら、いまこの時点でハウゼントゥルムという組織は既に崩壊していると思うよ」
「そうだとしてもお前はストーク君が死んだ原因の一つだ、それを見逃したりなんかしない」
そう告げるとセルヴは深い溜息を付いた後、ゆっくりと立ち上がる。
座っていたので気がつかなかったが背は予想していたよりも高い。
「しょうがないね、じゃあ僕は君を殺してから収納箱を手に入れよう」
そう言うと、セルヴは先程まで座っていた椅子を強く蹴飛ばした。
椅子は広い空間を転がっていき、壁にぶち当たって高い音を立てて壊れる。
「最後に僕の魔道具コレクションを見るといい、そうして死ね」




