4 スラムのルール
「飲んでいたら寝てしまってな、起きたら魔道具が無くなっていた」
男の名前はラントと言うらしい。
民族衣装を身にまとい堂々とした佇まいで歩く様は近寄りがたい。
黙って立っていれば廉直な武芸者に見える。
先程の痴態を見ていなければクロもそう思っていただろう。
「盗まれた魔道具ってどんな物なの?」
歩きながら話しかける、探し物がどのような物なのか把握しておかなければ探しようが無い。
「金色の腕輪だ、こう何というか全体に流れるような細かい細工がしてあるんだ」
(腕輪か、あの店にあったかな)
目指している場所はウルスの店だ。
あそこは来るもの拒まずで売り買いをする。
盗品だろうが何だろうがお構い無しだ。
(たちが悪いよな)
ラントを案内しながらスラムを進む、屋台街を抜けると自然に人の目は減っていった。
そうしてしばらく歩き続けると馴染みの店が見えてくる。
ウルスの店だ。
ウルスの店は客が居らず静まり返っていた。
この店はスラムの大通りから離れた位置にある上、少し高い位置にあるので坂を登らなくてはならないので立地はあまり良くない。
「ここは?」
「買取をしている店だよ」
他に客はおらずウルスも店先で舟を漕いでいる。
だが足音で目が覚めたようで、此方の存在を確認すると立ち上がった
「どうしたクロ、そっちの人はお客さんか?」
「この人魔道具を探しているんだ、入荷してない?」
「今の所無い、ところでそちらの若いの、いい服を着ているな、なにか買っていくか?」
自分一人だけだった場合はウルスは接客などしない。
だが見るからに高そうな剣を持っているラントをみて上客だと判断したのだ。
「今は手持ちが無い。それより魔道具を売りに来た者がいれば衛兵に通報して欲しい、金色の腕輪型の魔道具だ」
その言葉を聞いたウルスは先程まで座っていた椅子にまた腰を下ろした。
「手持ちが無い?なら帰りな、たとえ魔道具を売りに来たって通報などするか!信用に関わるわ!」
「なっ!?俺の魔道具だぞ!?盗品だ!手に入れたって人前で堂々と使う事が出来ない品だぞ!」
「馬鹿を言うな、スラムにはスラムのルールがある、いちいち魔道具を売りにきた奴を通報していたら客が寄り付かなくなるわ!」
「盗品だぞ!?」
「盗品!?持ち込まれた商品が盗品かどうかなど判断はつかん、ワシはここに持ち込まれた商品を買い取るだけだ。もし入荷したら金を持ってくれば売ってやる、分かったら帰りな!」
そう言ってウルスは店の奥へと入っていった。
もう用はないとばかりに店の奥へと入っていく。
見ればラントは信じられないものを見る眼でウルスが消えていった先を見ている。
「別の所を探そう」
そうラントに告げ移動する事にした。