13 姿の見えない敵
「そちらで倒れている方は私の身内なのです、このまま殺されるのを黙ってみてる訳にはいきません」
キアラが踏み込む、その瞬間黒角族との距離が一気に縮まる。
「くっ」
黒角族は身をよじり避けようとするが躱し切れない、剣を振り抜くと体に赤い線が入る。
「固いですね、人間だったら今ので一刀している筈なのですが」
「貴様の剣、それも魔剣か」
「そうです、氷霊剣は切りつけた相手の傷口を凍らせます、先ほどから傷口が塞がらないのではないではないですか?」
「随分と厄介な物を持っているな」
黒角族は飛び退く、が同時にキアラも距離を詰めている。『風神の腕輪』で上がった能力は完全に黒角族を上回っているように見えた。
そのまま流れるような自然な動作で剣を振る、黒角族は応戦し殴りかかるが全て躱されている、逆に黒角族の体には徐々に傷が増えている。
「降参しますか?あなたを切る事は容易いです。置いて来た護衛二人もすぐに駆けつけます。あなたに勝機はありません」
「否、人間なぞに降伏するきはない、貴様を殺して魔道具も回収させてもらう」
「そう言ってくれて助かりました、私はあなたを許すつもりはありませんでしたから。これで心置きなく斬れます」
「やれるものならやってみるといい!」
キアラが放った剣撃は黒角族の肌を切り裂いていく。
黒角族は後退するだけで防戦一方だ。壁際まで追い詰められている。
だが壁を背にした所で黒角族は覚悟を決めたような顔をした。
「覚悟!」
キアラが止めとばかりに踏み込み剣を振りかぶる、だが黒角族はキアラが前にでた瞬間、同じく前に踏み込んでいた。
「!?」
キアラの一閃は黒角族の右腕を切り裂いた、切断された腕が宙を舞う、だが黒角族は怯む事なく体ごとキアラに突っ込んだ。
「がっ」
キアラの体が吹っ飛ぶ、同時に氷霊剣も手放してしまう。遠くまで飛ばされ身体が地面に打ち付けられる。
「さすがに切られた腕は再生しない!やってくれたな人間!」
「うっ……あ」
キアラは壁に打ち付けられた衝撃で意識が朦朧としているようだ、よくみれば右腕があらぬ方向に曲がっている 。
「どうやら護衛とやらは間に合わなかったようだな、先程までいたガキも居ない、だが安心しろ、お前とそこで気を失っている剣士を殺したらまとめてあの世に送ってやる」
そう言って黒角族は落ちていた氷霊剣を拾い振り上げる。
「死ね」
瞬間、鋭い切っ先が服ごと胸を貫いた。
*
【黒角族視点】
「なっ」
胸に赤い刀身が食い込んでいた。
状況がわからなかった、何故自分の胸に剣が食い込んでいるのかと。
先程戦った人間の男、そいつが使っていた剣、イクリプスと呼ばれる剣が自分の胸を貫いていた。
振り返れば先程倒した男は地面に倒れたままだ、ならばなぜ自分は刺されている?
よくみれば剣は浮いているようにみえる。いったいなにがあった?剣が自動で動いたとでも言うのか?
だが黒角族がその答えを知る事は永遠になかった。
「燃やせ、イクリプス」
そんな声が聞こえた、瞬間体内から考えられないくらいの熱を感じた、体の内側から焼き尽くされる感覚。
熱い!ダメだこれは!今まで受けた傷とは違う!死ぬ!
だが体に力が入らない。熱さと痛み、そして恐怖。それによってまともな思考ができない。
朦朧とした意識の中で黒角族の男はなぜか昔の事を思い出していた。
まだ幼い頃、なにも知らず無邪気にはしゃいでいた子供の頃の事を。
なぜ今そんな事を思い出したのか、走馬灯というやつなのだろうか?なぜか懐かしい声も聞こえた気がした。
なんだ?今重要な事を思い出した気がする、今ここで意識を失うのはまずい!なんとしても思い出さなければ!
だが体内から燃やされる熱さと痛みに耐えられなかった。そうして黒角族の男は意識を手放した。
*
【クロ視点】
しばらくその場で待つと遠くから走ってくる足音が複数聞こえた。
「キアラ様無事ですか!?」
「その腕一体どうされたのですか!?急いで治療しなければ!」
「おい、あそこに倒れているのはラント様じゃないか!?」
護衛らしき人物が駆けつけたようだ、よくみれば昼間にキアラを探していた二人だった。
護衛がキアラとラントを背負いその場を去っていく。僕はそれを黙って見送った。
建物の影に隠して合った脱ぎ捨てた服と仮面を拾う。
この場には僕と黒角族の死体だけが残った。
姿が見えない事が役に立ったのは久しぶりだった。
透明人間。
それが僕の正体だ。
体は透明、姿は誰からも見えない。身につけた物まで透明になるわけではないので不便だがこういう荒事に役立つ事が稀にある。
黒角族の死体に近づく。
体内から燃やし尽くされた死体は殆ど原型を留めていない。残ったのは骨と黒角族の象徴である角、そして体内に宿していたであろう魔石だけだった。
黒角族の角は高額で取引されるらしい、だが僕はそれを回収する気にはなれなかった。
彼らにとって角は強さの象徴であり誇りなのだそうだ。それを自分の手でどうにかしようという気にはなれなかった。
燃やされた影響でまだ熱を持っている死体から魔石だけを抜き取る。それを拾ってその場を去ることにした。
建物の曲がり角まで来る。ここを曲がれば黒角族の死体は見えなくなる立ち位置だ。
最後に立ち止まって振り返る事にした、そこには黒角族の死体が一つあるだけだ。
「さようなら」




